第2話 職員室にて
「……し、失礼しまーす」
「お、来たな鹿留、こっちだこっち」
恐らく初めて訪れた職員室の引き戸は、教室のものと変わらないはずなのに、やたらと重く感じた。そろりと中に入ると、僕に気付いた笹子先生がぷらぷらと遠くで手を振っているのが見えた。
笹子先生のデスクは職員室の奥の方にあった。放課後ということもあるのか、職員室は僕の知らない先生も多くおり、各々がパソコンで作業や、生徒と話をしていたりと、結構賑やかだった。その間をおっかなびっくりで通りながら奥を目指す。
「あの……さっきはどうも、すいませんでした」
「気にすることはない、とも言えないのが教師の辛いところだな。鹿留は先生の授業をしっかり聞いている印象があったから驚いたぞ」
「はい……」
「まあそう固くなるな。そうだ、これ食うか?」
笹子先生は言って、僕にスナック菓子の袋を差し出した。見ればそれは、トロアちゃんがワオチューブでレビューをしていた新発売のスナック菓子だった。
「いえそんな……悪いですよ」
「むう、うまいんだぞ、これ」
先生はちょっとむくれると、一つつまんで口に放った。
「先生としてはこれは大当たりだ。いくらでもいけちゃうぞ。特にこの絶妙な食感がな――」
「はあ……」
……話が進まない。ああ、僕にツッコミを入れるコミュニケーション能力があったら……。
「――だから今日ばかりは買い食いを許す。帰りに買って帰るように」
笹子イズム絶好調。苦笑いをすることしかできなかった。
「……話が脱線してしまったな。さて鹿留、今日お前をここに呼びだしたのは他でもない」
「……はい」
「この荷物を先生の車まで運んでくれないか」
笹子先生はよいしょ、とデスクの下に置いてあった段ボールを僕の前にスライドさせた。
「…………はい?」
「なんだ、これでとりあえずチャラにしてやろうと言ってるんだ。それとも何か、日が暮れるまで先生の説教をこんこんと聞きたかったか? まあそれもやぶさかではないが」
「運びます」
「よろしい。最近腰が痛くて敵わんのでな。ボンネットの上にでも置いておいてくれればいい。そのまま帰ってオッケーだからな」
それでいいのか高校教師。
「わかりました」
笹子先生の新たな一面を垣間見れたところで、僕は段ボールに手を掛ける。あれ、結構重いぞこれ――。
そんな時だった。
「ああっ!」
金切り声と呼ぶにふさわしい絶叫がした。
僕は驚いて段ボールから手を離し、声のした隣のデスクのシマを見る。
ああっ!?
声にこそ出さなかったが、僕も同じくらいの驚愕を覚えた。
笹子先生のデコピンとはまた違う衝撃。
その衝撃を具体的に表すならば、爆発。
爆発は衝撃波と共に爆風となって僕の全身をくまなく貫いた。
感じるはずのない風をびりびりと感じながら、僕は思う。昔の人もよくそんなことを思いついたもんだと。
それは、ダイナマイトの爆発にも似た爆発的なプロポーションの持ち主。いつしか人は彼女たちのことを、敬意を込めてダイナマイトボディと呼んだ。
そして僕も、彼女に敬意を込めてこう呼ぶ。
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