04 光莉の居場所
◆◆◆
医務室のベッドで光莉が再び意識を取り戻した時には、メイサが付き添ってくれていた。
起き上がれそうだったので、みんなの『治癒』に行くと伝えるとメイサや看護師に止められた。
「強大な魔法の使用や、繰り返しの“マナの混和”でも体力を消耗するんだ。
今日は休むことだけを考えろ」
メイサは優しく言い、光莉の頭を撫でた。その言葉に、あぁもう戦う必要はないんだ、と改めて実感する。
それからすぐにリイナが光莉を迎えに来て、今日は魔導協会の女性宿舎に泊まることになった。
「一番の大役を果たしてくれたんだもの。あとのことは心配しないで、まずは自分の身体を優先して。ね?」
2人部屋の宿舎で、リイナは光莉が横になり閉眼するまで傍で見守っていた。それからまもなく、部屋の灯りが消される。
目を閉じ、傍にリイナの気配を感じながら光莉はぼんやりと考えていた。
(この世界に来て、すべてが変わった)
居場所を見つけ、この世界で生き抜く術を得た。家族ではなく、みな光莉自身を見てくれた。
自分と他の人を比較する必要もなく、ようやく自分で自分を認められるようになった。人を信頼し、自分を信じられるようになった。
(初めて本当の意味で、自分の居場所を見つけた)
逃げ場ではなく、居場所。
ずっとここに居ていいんだと信じられる場所。
(……そこには、智希もリイナもいる)
光莉はまだ、答えを迷っていた。
ずっと、智希が好きだった。憧れなのか、恋なのか、執着なのか。
その区別は光莉には難しかったが、もはや智希は光莉にとって家族以上の大切な存在となっていた。
しかし、光莉にとってはリイナもかけがえのない存在だった。
光莉の気持ちを案じて言葉をかけてくれたリイナ。光莉に居場所を与えてくれたリイナ。
そんなリイナに嫉妬心を向けた自分が恥ずかしくて、リイナの想いを思いがけず聞いてしまったことが苦しくて。
光莉の決断がリイナを傷つけてしまうかもしれないと思うと、光莉は前に進めなかった。
(自分の想いを優先することなんて、できない)
智希のことをどれほど好いていても、リイナが傷付く選択だけは絶対にできない。
リイナと話をするしかないと思う反面、その行動は光莉のエゴでしかないようにも感じる。
どうしてだか、胸が痛かった。涙がうるうると溢れてくるので、寝返りをうってリイナに背を向けた。
(でも、こういう悲しい時、そばに居てほしいのは智希だ)
十分過ぎるほどの幸せのなかにいるのに、まだ智希を求めてしまう自分が情けなかった。
◆◆◆
翌日、智希が目覚めたのは昼過ぎだった。
「寝すぎた…」
「いーのいーの、それだけ魔力使ったってことだよ」
リオンは智希が目覚めるまで一緒に居るように言われていたようだ。
智希をトゥリオールの待つ帝国軍基地へ送ると、リオンはそのまま復興支援のため帝都市街地へと転移していった。
「夕刻、陛下が臣民に向けて語られる予定だ。その前に少しでも、魔族との交渉を進めておきたい」
帝国軍基地には精霊たちと、オニキス、リズ、そしてワーウルフ族の族長が集まっていた。
オニキスのいるオーガ族、リズのいるリザード族の方針は変わらず、人間側との友好な関係を築き人間と共生できる環境を望んでいた。
そして、ワーウルフ族も。
「お前の名前は、『ユエ』だ」
ウンディーネからの使役が解かれたことで、ワーウルフ族の族長は智希と光莉に使役されることを望んだ。光莉が不在のため、智希が名付けを行う。
「我々は人間ではなく、召喚者であるトモキとヒカリとのみ同盟関係を結ぶ。ひとまずは期間限定的な協定と思って欲しい」
「あぁ……それで構わないよ」
族長であるユエの言葉に、智希はナジュドに視線を送る。ナジュドが頷くのを確認し、智希は答えた。
「ゆきは…その後大丈夫か?」
「あぁ。念のための検査とやらをされてはいるが、常に一族の者が付き添っているので安心して過ごせているようだ」
「それなら良かった。何かあったらいつでも相談してくれよ」
そう言って智希とユエは、握手を交わした。
その他の種族についても今後、精霊たちの立会いのもと順次会談・交渉が進められることとなった。
さらに今日は有識者会議として、精霊6人と精霊王、ナジュド、各国皇級魔導師での会議が開かれていた。
「結局のところ…なぜ一定の場所に魔素が溜まるのかは謎のままか」
魔族の族長たちが言うには、魔族がいる場所に魔素が溜まるわけではなく、安全な住処を求めて人間が入り込まない魔素溜まりに住んでいた、という。
つまり、魔素の発生源は魔族ではないということだ。
「えっと…旧帝都の魔素の蓄積の原因ですか? それはたぶん…」
人間たちが頭を抱えていると、意外にも口を開いたのは精霊王だった。
「神が棲まわれているからでしょうねえ」
精霊王の言葉に、皆押し黙る。
「神が棲んでる……?」
ようやく口を開いたのは、智希だった。
「そ……そんなバカな……!!」
そして次に口を開いたのは、わなわなと唇を震わせるロブルアーノ。
「神々は砂漠にオアシスを創り、棲まわれています。
人間が立ち入れないよう高度な魔法がかけられているので、誰も気付かなかったんでしょうね」
当然のことのように精霊王が語るので、智希はいまいち事の重大さを理解できずに精霊王に尋ねる。
「そ、それは……立ち退いてもらえないのか……?」
「ははっ、どうでしょう。話くらいは聞いてくれるかもしれません。会ってみますか?」
精霊王のフランクな物言いに、皆相変わらず言葉を失っている。
「神々は皆さん別荘のような感覚で出入りされていますよ。
私が知っている限りでは、シャマシュ様、イシュタル様、エンリル様、エンキ様…」
「ろ、ロブルアーノさん!!」
貴族が別荘でバカンスを過ごしている、みたいなニュアンスで精霊王は言う。
智希の知る神はシャマシュとイシュタルのみだったが、ロブルアーノはとうとう顔面蒼白となり、白目を剥いてひっくり返ってしまった。
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