05 魔法の基礎訓練







 魔法には《生活魔法》《属性魔法》《魔法陣まほうじんによる魔法》《ついの魔法》の4種類があるらしい。


「まずは、生活魔法を使ってみましょう。

 とりあえず、僕たちができる最上限の魔法を見せますね」


 リオンはそう言って、リイナと交代しながら『着火』『点灯』『書換かきかえ』『浮遊』『浄化じょうか』『生成』の6種類の生活魔法を見せてくれた。


 『着火』『点灯』等の魔法はレベルによる差はなく、ほぼすべての人間が同等に使用できる魔法、とのことだった。


「次に、術式じゅつしきを確認します。

 魔法は、《想起そうきする》《術式を理解する》《詠唱えいしょうする》この3つが揃って初めて、発動させることができます」


 初等部の教科書には、術式と呼ばれる模様のような符号が書かれていた。

 術式はしっかり読み解けるわけではないが、見ればなんとなく理解はできた。


(やっぱり召喚された段階で、知らない言葉や文字を理解できるような能力か何かを与えられてるんだろうな)


 それならそうとラティア神も言ってくれれば良いのに、と智希は思う。

 術式は元の世界で言う方程式や説明書のようなもので、その魔法の仕組みを表しているようだった。


 生活魔法の中で特に智希と光莉が興味を持ったのは、『生成』だった。


「すげえ、水も炭酸も飲み放題じゃん」

「すごいすごい、飲み物ならなんでもいける?コーラは?」

「サイダーくらいならできそう…レモン水、炭酸水、砂糖、シナモンってとこか…?

 『生成・サイダー』!」

「……甘ーい!!しゅわしゅわ!!サイダーだ!!!」


 分子構造や原料がわかるもの、作る工程がわかる単純なものは大体『生成』できた。

 質量保存の法則には完全に反しているのでむしろ召喚と言ってもいいレベルではあるが、ごく単純な化合物かごうぶつしか『生成』はできなかった。


「……おいしい……!しゅわしゅわ!!」

「こ、これ、元の世界の飲み物ですか!?

 革命ですね……!!」


 リイナ、リオンもサイダーを気に入ってくれたようだった。

 サイダーを片手に、ティータイムがてら休憩をとる。

 

「『浄化』などの生活魔法は僕が使える下級魔法と皇級こうきゅう魔法では全く違うので、いずれトゥリオールさんに見せてもらってください」

「トゥリオールさんレベルだと、生活魔法もすごい効果なんだろうな」

「僕たちに比べれば、段違いです。

 しかし皇級魔法にも上限はあるようで、無限に魔法の効果が上がるわけではないようですね」


 リオンの言葉に、智希は首を傾げる。


「例えば『浄化』魔法でいうと、ですね。

 『浄化』は毒や病原体、強い魔素まそなどの外的な侵襲しんしゅうを取り除く魔法なんですが、皇級浄化魔法でも浄化できるのは9割程度。

 それ以上どんなに魔力を注いでも、完全な浄化はできないようです。


 これは生活魔法だけでなく属性魔法にも言えるようで、どんな魔法にも効果に上限があると言われています」


 最もレベルの高い魔法でも、完璧にとはいかないようだ。


(どんな魔法にも上限があるとなると、もし俺らが皇級魔法を使えるようになったとしても、世界にとっては皇級魔導師が2人増えるってだけじゃないか…?)


 果たしてそれぐらいで、3500年も続く戦いに終止符を打てるんだろうか。


(皇帝は自信満々に『戦いを終わらせる』って言ってたし、秘策でもあるのか…?)


 秘策は智希たち召喚者なのかもしれないが、当人たちは今のところゴブリン1体にすら負けてしまうだろうという自信しかなかった。




 



「最後に、ついの魔法です。

 対を結んだ者との間でのみ、魔法陣なしで使用できる魔法です」


 サイダーブレイクを終え、今度は対の魔法の実践に入る。


 対の魔法は、『探知』『念話ねんわ』『追跡』『マナの遠隔混和えんかくこんわ』の4つがあるとのことだ。


 『探知』は離れた場所で相手の気配を探すこと、『念話』は離れた場所にいても会話ができる…つまりテレパシーのようなものだった。


「『マナの遠隔混和』は、離れた場所にいながら“マナの混和”を行うことです」

「え、接触なしでも混和できるの?!」

「完全な混和は難しいので、魔力が尽きそうな時など応急処置的に使いますかね」

「そ、そっか…」


 光莉が期待の目で聞くと、リオンは苦笑いを浮かべて答える。

 やはり光莉は智希との接触を恥ずかしがっているようだ。


「魔導師と言っても、職業は様々です。

 魔導師として働く者もあれば、軍人、神官、研究者、商人、職人など…職業の違う者同士が対を結んでいることも少なくはありません。


 離れた場所にいても混和ができるのは結構役立ちます」


 智希は、エリアルとルートヴィヒのことを思い出す。

 エリアルは魔導師、ルートヴィヒは軍人と2人の職業は異なっている。互いに魔力が尽きそうになった時に、緊急措置そちとして『遠隔混和』を行うのだろう。


(しかし、魔力が尽きるたびに混和が必要なのはちょっと面倒だな…)


 混和を行うおかげで強い魔法が使える、とも言っていたので、この世界の者は面倒などとは感じないのかもしれないが。


「『追跡』は対の相手のいる場所に移動する、いわゆる『転移てんい』です。

 僕も森から2人を連れて逃げる時に使いました」


 リオンは続いて、『追跡』の説明を始める。

 確かに森から逃げる時、3人はリイナのいた草原に転移をしていた。


 あの時もそうだったが、『追跡』や『転移』に他者が同行することも可能らしい。


「『追跡』については、魔法陣を使用しての『転移』と同じくらいの魔力量を使用するため、あまり頻回には行いません」

「そもそも、『転移』ってのは魔法陣が必要なの?」

「あぁ、その説明がまだでしたね」


 光莉の質問に、リオンは腰に下げていた鞄の中から複数枚の紙切れを出してきた。


「これが、魔法陣。

 この魔法陣を所持することで使える魔法もたくさんあります」


 先程の儀式の時に床に書かれてあった魔法陣と、良く似ていた。

 五芒星を囲む円、複雑な紋様。そしてやはり、日本語の文字が書かれている。


「万が一魔族の手に渡って悪用されることがないよう、魔法陣には記名をします。

 今度新しいものを用意して、お2人にもお渡ししますね」


 リオンが言うように、魔法陣の紙のすみにはリオンの名前が書かれていた。


「…この魔法陣ってのは、誰が作ってるんだ?」

「これは転写されたもので、製造自体は魔導研究所が中心に行っています。

 新たに魔法陣を作成できる者はいないので、初代ギルガメシュ皇帝が作成した魔法陣を複製しながら使っているんです」


 聞くと、神殿の床に描かれていた魔法陣も初代皇帝が残したものらしい。

 ますます日本語で書かれていることの謎が深まる。







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