04 属性魔法









 訓練場には、トゥリオールにエリアル、神殿の外で待っていたリオンとリイナ、そして智希、光莉が赴いた。

 訓練場に入るなり、トゥリオールが言う。


「さて、属性ぞくせい判定の前に基礎訓練だけ行っておこう」


 また新たな単語が出てきたので、智希が「属性判定?」と尋ねる。

 エリアルは、持ち込んでいたいくつかの本の中から一番分厚い本をぱらりと開いた。


「魔法には、火、木、水、土の4つの属性がある。

 多い人だと全属性をもつ人もいるけど、実用的に使えるのはせいぜい1~2属性と言われてる」

 

 本には五芒星が描かれ、向かって右が木星、左が火星、右下には水星、左下には土星と書かれていた。

 なぜかその頂点は空欄となっている。


「火属性は火や溶岩、木属性は植物や風、水属性は水や氷、土属性は土や大地。

 これらの特性を利用した魔法が無数に存在するわ」


 エリアルの説明が終わると、ゴホン、と咳払いをしてトゥリオールが姿勢を正した。


「魔法の基本として、《目にしたことのない魔法は使えない》。

 まずは我々が様々な魔法を実践して見せるので、どんな魔法があるのかを見ていてほしい」


 トゥリオールは、おもむろに手を挙げる。 


「『発芽(ジャーミネイト)』」


 すると、訓練場の床から突然ぽっと植物の芽が生えてきた。

 木属性の魔法だろうか、と智希は思う。


「『成長(グロウ)』」


 トゥリオールの詠唱と共に、植物が一気に成長し5メートルほどの木に成長した。

 光莉が「おぉおっ!!」と声を上げる。


 トゥリオールは「では、水属性魔法から」と言い、再び得意げに構えた。

 リオンが本のページを捲り、水属性のページを開けた。


「『大鎌・水明(ウォーターデスサイズ)』」


 先ほどよりも声高に詠唱えいしょうすると、3~4メートルはあろうかと思う巨大な鎌が出現した。


 水でできたその鎌を、トゥリオールは木に向かって振り下ろす。

 まるで包丁で豆腐を切るみたいに、スパッと木が切られてしまった。


「『大槌・氷塊(アイススレッジハンマー)』」


 立て続けに、トゥリオールが詠唱する。

 今度は、氷でできた大きなハンマーが現れた。


 トゥリオールは切り株だけになった木に容赦なく振り下ろす。光莉が「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。

 轟音ごうおんと共に、切り株はぐしゃぐしゃに潰れてしまった。


「『巨大瀑布(ジャイアントウォーターホール)』」


 さらに詠唱は続く。

 訓練場の入り口辺りに、高さ10メートル、幅15メートルはあろうかという大きな滝が現れた。


「み、水は大丈夫なの…!?」

「大丈夫です。

 この部屋は魔法を吸収する特殊な造りになっているので」


 光莉の疑問に、リオンが答えた。


「『大洪水(ヴァイオレントフロッド)』」


 滝から流れ出た水が勢いを増し、まるで氾濫はんらん寸前の川のように激しく流れた。

 訓練場にいる人を避けながら、水は訓練場奥の壁に吸い込まれていく。


(これが、魔法……)


 属性魔法はリオンに助けてもらったときに見て以来で、その迫力に完全に圧倒されてしまった。








 その後もトゥリオールは、水魔法、木魔法をいくつも見せてくれた。

 後から聞いたが、トゥリオールが見せてくれたのは『皇級こうきゅう魔法』という高いレベルの魔法で、今は世界中でトゥリオール含む十数人しか使えないレベルの魔法とのことだった。


「今度は私ね。火属性の特級とっきゅう魔法よ」


 今度はエリアルが火属性の特級魔法を見せてくれる。

 トゥリオールほどの威力はないとのことだが、それでも自在に炎をあやつる様は見事なものだった。


「対を結んだばかりだとマナが不安定だから、あと少ししたら呼びに来るわ。

 属性判定も含めて本格的な訓練は午後からにしましょ」


 トゥリオールとエリアルは、慌ただしく部屋を出て行った。

 戦闘が始まったばかりで、あっちこっちに呼ばれているようだ。









 残った智希、光莉、リオン、リイナの4人は、魔法の基礎練習から始めることになった。


「魔導学校初等部の教科書に沿って説明しますね」


 そう言ってリオンは、『基礎と実践魔法』と書かれた本をパラパラと捲った。


「魔法の基本要素は、3つです。

 1つ目は《魔力容量ようりょうによって、魔導師階級が決まる》こと。

 2つ目は《階級によって使える魔法の強さが違う》こと。

 3つ目は《魔法には消費MPと必要魔力容量がある》ことです」


 リオンの説明に、光莉は既に混乱した様子で呟く。


「マリョクヨウリョウ……?」

「魔力容量は、魔導師自身のMPの最大量のことを言います」


 魔力容量…つまり、MPの最大キャパシティ、ということか。


「僕たちは対の相手と“マナの混和こんわ”をすることで、魔力容量の最大値まで魔力を充填じゅうてんすることができます。


 僕の魔力容量は1100万程度、トゥリオール様の場合は3300万程度。

 魔力容量が3000万を越えると、皇級魔導師として認められます」


 “混和”さえすれば無尽蔵むじんぞうに魔法が使えるらしい。“混和”がいかに重要なものか、智希はようやく理解する。


 …でもやっぱりアレは、恥ずかしいけど。


「消費MPはその名の通り、その魔法を使うのに必要なMPです」


 リオンは、生活魔法である『浄化じょうか』を例に説明してくれた。

 魔法は大まかに神級しんきゅう、皇級、特級、下級、一般とレベルが分かれている。


 『浄化』の一般魔法だと、消費MPは5。

 『浄化』の皇級魔法だと、消費MPは150万。


 同じ『浄化』魔法でも、レベルによって使う魔力量に大きな差があり、その効果も異なるようだ。


「さらに、それぞれの魔法には階級ごとに《必要魔力容量》が設定されています」

「ヒツヨウマリョクヨウリョウ……」


 光莉は既に、パンク寸前のようだった。


「例えば、『浄化』の皇級魔法だと、必要魔力容量は3000万。

 つまり、トゥリオール様のような皇級魔導師にしか使えないということです」

「皇級魔法は皇級魔導師にしか使えないってことか」

「その通りです」


 神級魔法は皇帝のみ、皇級魔法は皇級魔導師のみ、特級魔法は特級魔導師のみ…と、使える魔法のランクがくっきりと分かれているようだ。


「魔力容量は元々の素質だけでなく、経験値に比例して増大します。


 今のところエリアル様の魔力容量は2700万。本国ではもっとも皇級魔導師に近い特級魔導師と言われています」


 なるほど、それなりの力があるからこそエリアルは儀式延期の説得も可能だったのか…と、智希は納得する。







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