10 キスするときの
話し合いが一旦終わりテントの外に出ると、「ドラゴンが
何重にも
「なんか、かわいそうだね」
「だな。抵抗もしてないし…」
光莉と智希は、ドラゴンに同情の目を向ける。
身勝手に
まるでドラゴンは、「この絡まってるの取ってー」とこちらに訴えかけているようだった。
…いや、まさに、そう言っているように感じた。
「…外してほしいのか?」
智希がドラゴンに尋ねると、ドラゴンがキュウ、キュウと鳴いた。
「暴れられたら困るんだけど、暴れたり逃げたりしない?」
再び智希が問うと、ドラゴンは「外してくれたら大人しくするよー」と鳴いている。
…ように感じる。
「捕縛を外すことって、できますか?」
「そ、それは…」
「勝算があるのだな?
念のためドラゴンの周りに結界を張れ」
アウグスティンは戸惑った様子だったが、トゥリオールは智希の狙いがわかっているようだった。
結界が張られ、捕縛の魔法が解除された。
ドラゴンは「ありがとー」と
「痛かったか?ごめんな。
治してやりたいけど、お前デカすぎるからなぁ」
智希がそう言いながらドラゴンを撫でると、ドラゴンは「小さくなればいいの?」とキュッとひと鳴きした。
すると
「ち、縮んだ…!」
「ドラゴンと話せるのか…!?」
周囲はドラゴンが縮んだことに、驚いている。
小さくなってしまえばポケ〇ンみたいなもので、可愛らしくすらあった。
「小さくなれるのか、お前。よしよし、おいで」
「えー、かわい~!」
智希が呼び寄せると、よたよたと歩きながらドラゴンが智希の腕に飛び込んできた。
光莉が思わず声をあげる。
「トモキ、いま魔力は満タンか?」
「え、はい」
「そいつに名前をつけてみろ」
トゥリオールには何か考えがあるようだった。意図は読めないが、光莉と2人で名前を考える。
「可愛い名前にしてあげて!火っぽいやつ!」
「どうしてもポ〇モンっぽくなる…火のドラゴンだから…
やっぱり、『ポッポ』だ」
「あははっ、かわいい!ポッポ~!」
ドラゴンも智希がつけた名前を気に入ったようで、すっかり元気になり智希の周りを飛び回っている。
「……奇跡だ……!!!!」
気が付くと、
「ヒッ……だ、大丈夫すか」
「ま、まさか、ドラゴンを…使役、するなんてぇっ…!
うっ、うっ、生きでで、よがっだぁああ」
ノヴァは泣きながら、その場に崩れ落ちた。周囲はその姿に、ドン引きである。
「……いや、まあノヴァの気持ちもわからんではない。
こんなにあっさり上手くいくとはな」
「使役、してるんですか?」
「あぁ、名付けに成功している。
ドラゴンが元気になっているのが、その証拠だ」
どうやら、名前を付けること=使役、らしい。トゥリオールの狙いは、それだったのか。
「でも俺、ドラゴンの言葉なんかわかんないですよ」
「とりあえずドラゴンの方はトモキの言葉を理解しているようだ。
だから使役に成功したんだろうな」
トゥリオールの言葉も理解しているのか、ドラゴンはキュキュッと鳴いた。
「名前付けちゃったけど、俺動物なんか飼ったことないです…」
「どちらにせよ囲っておくつもりだったので、問題はない。
念のため、しばらくは軍の方で預かる」
「ありがとう…ございます」
アウグスティンの言葉に、大変なことになってしまった、と、智希は唇を結んだ。
その後もポッポの様子をしばらく観察し、害はない様子だったのでひとまずは軍に任せることになった。
ポッポが何を食べるのかなど確認し(人間と同じ食べ物でも問題ないようだった)、キャンプ地の軍人へ伝える。
「ひとつ、試してほしいことがあるんだがいいか」
トゥリオールに案内されたのは、
そこで
…が、皆それほど痛がっている様子はない。
「魔法陣は、使い手のレベルによって効果が変わるものがある。
『
私が『治癒』の魔法陣を使うことで大体の傷は治るが、完治までは至らない。
時間経過とともによくなる者もいれば、経過が悪くそのまま治らない者、亡くなってしまう者もいる」
テントの奥には重傷者がいるようで、そちらからは
「怖ければ見なくていい。
全身に重度の火傷を負い、『治癒』を施したが私の力ではこれが限界だ。
2人の力であれば、もう少し苦痛を減らしてやることができるのではないかと思っている」
「やってみます。
『治癒』の魔法陣を見せてもらえますか?」
智希が言うと、トゥリオールは自身の持っていた魔法陣を2人に見せ「これでできそうか?」と尋ねる。
「なんか、『転移』の魔法陣とはまた違う感じだね」
「細かく色々書いてあるな…」
『転移』の魔法陣には、術式と詠唱が書かれているだけだったが、『治癒』には消費MPと必要魔力容量の違いによってどんな効果が得られるかが日本語で記載されている。
小さく書かれたその表を見る限り、
■《1人の不完全回復》
消費MP700万・必要魔力容量3000万
■《1人の完全回復》
消費MP1500万・必要魔力容量1億
とあった。
「なんか魔法陣って情報量多いんだな…」
「完全回復の方できそうだね。今度は私がやるよ」
先ほどポッポに名付けした智希を気遣ってか、光莉が魔法陣から術式と詠唱を読み解いた。
「なんかこれ、完全詠唱?だっけ。
それしなくてもできる気がする」
「確かにな」
そう言いながら、2人は重傷者のベッドに近付く。
顔にも火傷が残り、痛みのせいか苦しげな声を挙げている。
「少しでも楽になれるように……『治癒』」
光莉が魔法名だけを唱えると、光莉と重傷者を繋ぐようにきらきらと光が舞い、重傷者の身体が明るく白い光に包まれた。
顔の火傷がじわじわと消え、包帯で覆われていなかった皮膚の傷も消えていく。
「……い、痛く…ない……」
呻き声は、呟くような声に変わった。
「俺、死んだのか……?」
「大丈夫、生きてるよ。
ほんとにもう痛いところ、ない?」
光莉が声をかけると、ベッドに横たわっていた軍人がむくりと起き上がる。
「あぁ、どこも痛くない。
どうなってんだ、すごいなこれ」
「よかった」
看病に当たっていた医師や魔導師がそっと包帯を外すが、その下にあったであろう傷が見当たらず、医師や魔導師からも驚きの声が漏れる。
トゥリオールは、頭を
「……やはりな。
2人は恐らく『
「神級?って、皇族が使えるっていう魔法?」
「そうだ。
その上、目にしたこともない魔法さえも使うことができる。
我々にとっては革命的な…まさに、神に出会ったような気持ちだよ」
そう言うとトゥリオールは、地面に
「この世界とは無関係の君たちを、できることなら戦争に巻き込みたくはない。
……だが君たちのお陰で、我々とこの若き軍人の命が救われた。
できる限りで構わない。我々に力を貸してほしい」
突然のトゥリオールの真剣な言葉に、光莉と智希も戸惑いながら膝をつく。
「そんなの当然だよ。
私にできることならなんでもするから、あれやれこれやれって教えて!」
「うん。できることとかやっていいこととかわかんないから、トゥリオールさんからどんどん教えてよ」
光莉と智希が言うと、トゥリオールは2人の手を取り「ありがとう」と言葉を絞り出した。
ようやくエリアルの家に帰ってきた時には、帝都は
ポッポには、また必ず会いに来るよ、と言うと素直にキャンプ地に残ってくれた。
「エリアルさんたち、今日は遅くなるって言ってたね」
「みんな大変だな」
智希と光莉を心配してキャンプ地に駆けつけてくれた3人は、その後再び魔導協会での仕事に戻っていった。
光莉と智希は交代でシャワーを浴び、一息つく。この世界にはテレビもラジオもないので、夜は静かなものだった。
「何か飲む?」
「蜂蜜ミルク、飲もうかな。天野くんは?」
「俺も。作るよ」
「ありがとう」
『生成』でも作れるが、目の前に材料があるので智希は手作業でカップに注いだ。
マリアが蜂蜜ミルクを入れてくれたのが、一昨日の夜だということに驚く。
まだここに来て3日だというのに、もう何週間もたっているような、そんな気分だった。
「そういえば、使役するとかなり魔力使うって聞いたけど大丈夫?」
「うん。ポッポに名前付けたときにちょっと減った感じしたけど、そんなには」
「そっか、良かった」
なんとなく、気まずかった。
それは智希が感じているだけなのか、光莉もなのか、智希には判別がつかなかった。
「あ、あのね、天野くん」
「お、おう」
意を決した様子で、光莉が言う。
「あの…今日からいつも、寝る前に…“マナの混和”、しません…か…?」
「…………」
「変な意味じゃなくて!
やっぱ…慣れないと毎回照れるし、でもちゃんとやんなきゃいけないなって今日思って…」
光莉の言うことは
智希は毎回照れてばかりで、“マナの混和”を敬遠してすらいた。
ふう、と小さく息を吐き、智希が答える。
「朝倉さんの言う通りだと思う。
…やろう、毎晩」
「う、うん!」
善は急げとばかりに、光莉が立ち上がる。
「…なんか、やりやすい体勢とか…ある?」
「……特にないけど、今日のはちょっと…マジで恥ずかしかった…」
「え、あの…テントでした時の?」
「……そう。俺だけ?こんな恥ずかしいの」
「ううん、私も一緒だよ」
智希はすでに顔を真っ赤にして、両手で顔を覆い俯いた。
智希も恥ずかしいんだな、と光莉は少し安心する。
「じゃあ、私が座ってよっか」
光莉はダイニングチェアに座ったまま、ひらひらと両手を振った。
おいで、ということだろう。
「そう…だね。やってみる」
智希は光莉の前に立ち、爪先を合わせた。
光莉の両手を下から
光莉は目を閉じていた。
月明かりに、長い
薄桃色の唇は、緩やかに結ばれている。
鼻先が触れそうな距離まで近付いた。
(……そっか、これ、キスする時の体勢と一緒なんだ)
雰囲気に飲み込まれたら、間違って口付けてしまいそうだ。
そう思いながら、
勘違いしちゃいけない、自分は光莉の恋人でもなんでもないんだから。
自分の中の、理性との戦いだった。
「……どうだった?こっちの方が良かった?」
「……いや、これもダメかも……ちょっと考えさせて……」
「わ、わかった」
きっと、どんな体勢に変わろうが同じことだ。
智希は気付かないうちに既に、光莉のことを意識してしまっていた。
身体が先に繋がってしまったせいで、感情も理性もすっ飛ばしているようなそんな感覚。
(これ毎晩とか、マジで
自室に戻り窓を全開にした。
◆◆◆
「……もう一度申してみよ」
「……ファイアドラゴンが、敵の手に…」
「もうよい!!」
火の精霊・イフリートは、圧倒的な力を前に震えていた。
自身の失態により、大事な大型ドラゴンのうちの1体を敵に奪われてしまったからだ。
「お主の力も落ちたものよの、イフリート。期待をかけたわしがアホじゃったわい」
「……申し訳ございません……」
「
威圧的なその言葉に、イフリートは頭を下げることしかできなかった。
「しかし、とうとう初代皇帝の力を
いずれはこの時が来ると確信していた。
だからこそ、今世紀すべてを終わらせるための計画を100年以上かけ練ってきたのだ。
「他の精霊どもよ、決してぬかるなよ。
相手は二枚も三枚も…いや、千枚上手だと思え。
あらゆる可能性に対し、対策を講じるのだ」
「「「はい!!」」」
イフリート以外の精霊が、語気を強めて答える。
戦いは始まったばかりだ。
暗闇に浮かぶ不敵な笑みに、精霊たちは
智希と光莉のβ地球メモ【2日目】
https://kakuyomu.jp/shared_drafts/cIIfYnry5fZTb7V3LXc1CeIOyDBkTHpL
カクヨムコン8参加中です。
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