02 太陽神と金星の女神









 それから数分ののちに、リオンが起きてきた。


「あれ? 2人とも早起きですね」

「おはよう。リオン、昨日はありがとう」

「いえいえ、僕は何もしてませんよ」


 朝からリオンは爽やかで優等生な受け答えだった。

 その後すぐにマリアが、勢いよく玄関のドアを開けて入ってくる。


「みんな、起きてる~!?

 準備ができたら神殿に来なさいって、エリアル様からのご指示よ~!」


 マリアはそのままの勢いで、ぐっすり寝ている光莉を起こしに行ってくれた。


「もー、永遠に寝たいのに…」

「とりあえず起きてご飯を食べてから考えなさい!

 あなたたちお魚と卵が好きそうだったから、スクランブルエッグにサーモンのチーズ焼き、ニシンのオイル漬けを持ってきたわよ! バゲットもライスもあるから、好きなもの食べなさい!」

「マリアさぁ~ん……」


 寝起きの光莉も、マリアの言葉を聞いてまたうるうると目に涙を浮かべた。









「あー、超元気出た!! 絶好調!!」

「マリアさんの食事ほんっと美味いよ」

「まあまあ可愛い子たち! おやつも持っていきな!」


 朝食を食べ終え、光莉も智希もその美味しさと愛情に感無量だった。

 おやつには、スイートポテトのフライを持たせてくれた。


 着替える服はなかったが、マリアが高校の制服に洗濯代わりの『浄化じょうか』魔法を施してくれた。今日のところは制服のまま移動することになる。


「リオン、リイナ、昨日は病んでてごめんね」

「病んでて…?」


 光莉の言った言葉の意味がわからなかったようで、リオンが首をかしげる。

 咄嗟とっさに智希が、言葉を言い換えた。


「落ち込んでてってこと、かな」

「そうそう。すごい落ちててごめん。

 今日は頑張るから、2人も大変だろうけど…ガンガン解説して!」

「わ…わかりました!

 できることは少ないですが、頼ってもらえると嬉しいです」

「ヒカリ、元気になってよかった。

 私も頼って」


 リオンとリイナの笑顔に、智希と光莉もつられて笑顔を見せる。







「うわぁ…写真で見るとなおさらいかついね、ドラゴンって」

「昨日のドラゴンよりデカいっぽいよ」

「天野くん、この山なんか富士山に似てない?」


 食後、身支度を整え迎えの馬車が来るのを待つ。

 光莉と智希は、今朝の新聞の写真を見ながらドラゴンについて話していた。


「お待たせしました。今日の儀式の説明だけ、しておきますね」


 リオンの一声で、マリアの淹れてくれたお茶を飲みながら4人でダイニングテーブルを囲む。

 昨日のエリアルの交渉のおかげで、昨日行う予定だった洗礼せんれいついの儀式は、今日の午前中に延期となったらしい。


「洗礼は、この世界の人間ほぼ全員が受けるものです。

 簡単に言うと、ラティア神から魔力を与えられる儀式になります」


 洗礼については、昨日から今朝にかけて智希が考えていたものと概ね相違そういはないようだった。


「洗礼を受けなくてもごく簡単な生活魔法は使えますが、複雑な魔法や魔法陣の使用はできません。

 なので、ほとんど全ての臣民が6歳以降に洗礼を受けています」


 智希はメモを取り、頷きながらリオンの話を聞く。


「洗礼を受けた者は、15歳の成人を待ってついの結びの儀式を行います。


 対とは、体内のマナ…魔素まそを混ぜ合う者同士のこと。僕の場合は、リイナと対を結んでいます。

 対の相手とマナを混ぜ合うことで、魔力を安定化し強化させます」


 智希が昨日の2人の様子を思い出して言う。


「もしかして昨日、森を抜けた後にやってたのは…」


 リオンと3人で森から移動してきた後、リオンは激しく消耗している様子だった。


 その後すぐリイナと手を繋いで額を合わせると、光のようなものに包まれていた。

 思い出して智希はまたすこし、恥ずかしくなる。


「そうです。あの時、僕とリイナがやっていたのが、“マナの混和こんわ”。

 両手、両足、そして頭部を接触させた状態で祈ることです。

 あの時僕はほぼ全ての魔力を使い切っていた。魔力を使いすぎると、筋肉や内臓、循環器じゅんかんきなど全身の機能が低下します」


 リオンの言葉に、智希は眉根を寄せる。


「そんなにヤバい状態だったのか……」

「滅多にそんなことにはならないんですが、あの時は緊急だったので」


 確かにあの時2人は、膝と膝、手と手、そしてひたいを合わせていた。

 エリアルとルートヴィヒも、神殿の廊下に転移したあと似たようなことをしていたのを思い出す。


「洗礼を受けただけでは強大な魔力を使うことはできません。

 それにすぐに魔力を消費してしまい、魔力の充填じゅうてんにも時間がかかります。


 逆に、魔力が溜まりすぎて暴走し暴魔化ぼうまかこともあります」


 光莉が「え、こわっ」と、悲鳴のような声をあげる。


「私たちは、太陽神シャマシュと金星の女神イシュタルの天恵と加護をたまわることで、対を結び、“マナの混和”を行います。


 魔力が枯渇こかつしそうな時に“マナの混和”をして、2人の神からの加護をより強くするイメージです」


 シャマシュとイシュタル。

 確かラティア神の神託の時にもその名前が挙がっていた。


「なんか所々出てくるな、その…太陽神と金星の女神。

 あ、だから太陽と金星の…しょくが魔族の出現と関係してるのか?」

「その関連性については様々に解釈が分かれていて…恐らくそれを知るのはラティア神のみではないかと。

 人間が知る必要がないから、ラティア神も話されないのだと思います」


 聞いたらなんでも答えてくれそうな神様だが、そういうわけでもないらしい。


「今から4600年ほど昔、ラティア神がこの地に降臨こうりんされ、当時の神々に魔力を与えたとされています。

 太陽神シャマシュと金星の女神イシュタルも同様に魔力を与えられました。


 2人は、魔力を混ぜ合わせることでより強大な魔法が使えることに気付き、その力を人間にも分け与えることにしたのです。

 そうして初めて魔力を与えられた人間が、当時の初代ギルガメシュ皇帝だったのです」


 恐らくこの辺りから、α地球とβ地球の歴史が分かれ始めたのだろう。


「へ~!あの皇帝の先祖ってこと?」

「はい、現皇帝陛下は199代目です。

 そもそも、初代ギルガメシュ皇帝は神と人間の子と言われていました。

 現皇帝もその血を受け継いでいます」


 今朝のリイナとの会話を思い出す。

 初代ギルガメシュ皇帝が、世界の全てを統一したと。


(神様から直接魔力を与えられたから、すっげー強かったってことなのかな?

 世界統一できるほどの魔法が使えたのか、魔力がめちゃめちゃデカかったのか…)


 今の皇帝も同じくらいの力を持ってるんだろうか? そもそも神と人間の子供ってありえるのか?

 どこからが神話で、どこからが現実の話なのか。

 世界統一といい神様が地上に姿を見せることといい、β地球の世界観は元の世界の常識からはかけ離れすぎていた。







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