第2章 魔法とドラゴン
01 連邦統一帝国シュメール
はっと目が覚め、勢いよく起き上がった。
視界にうつるのは見慣れぬ部屋。やはり別の世界にいるのだと実感させられる。
まだ緊張が抜けきらないのか、寝起きにも関わらず心臓がドクドクと強く打っている。
(薄暗い…夕方か明け方か、どっちだろう…)
時計は見当たらなかった。
窓から外を
寝付いたのは恐らく午後3時頃だったので、12時間以上は眠っていたことになる。
寝る前にたらふく食べたおかげで、空腹感はなかった。
家の中は静まりかえっていた。エリアルやリオン、リイナは帰ってきたのだろうか。
音を立てないようにゆっくりと階段を降りる。1階にも人の気配はない。
ドアポストから新聞のようなものが投げ入れられており、床に落ちていた。拾い上げ、広げてみる。
(昨日の
文字の形は全く見覚えはないのに、何故か書かれている言葉が理解できる。
日本語でも英語でもロシア語でもない。似ているとしたら、アラビア語だろうか。
新聞には大きな見出しと共に、写りは悪いが写真も載っている。
(『氷の大地・
『王国エディア東部パジャ島にて、大型ファイアドラゴンを確認』……
……ほんとに魔族が人を襲ってるんだな)
少なくとも神殿のあった
エレベーターを降りた時の森にはドラゴンがいたが。
新聞をテーブルに置いた。
1階にも、2階ホールと同じように本棚がいくつかあった。本棚の中から、地図を選んで開く。
(…やっぱり、大陸の形は元の世界と同じだ。てか、現在地はどこだ…?)
薄暗い中で目を凝らして地図を辿るが、現在地が見つけられない。というか、何を探せば良いのかわからない。
部屋を見回すと、エリアル宛に届いた手紙が置いてあった。
その宛名は、『シュメール
智希は、シュメール新帝都を探してみるか…と地図に向き直る。
「トモキ?」
「うわあっ」
突然声をかけられ、大きな声が漏れてしまった。
「…リイナか。ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、私早起きなの。地図?」
声の主は、リイナだった。
リイナは
「この…今のこの場所がどこなのかなって」
「帝都がどこかってこと?」
「あー…そう」
リイナは地図を覗き込み、指さす。
「ここが新帝都。今いる場所」
「へえ、ここが…」
リイナが指したのは、イタリアより少し西側の地域だった。
智希は地理には詳しくなかったが、スペインかフランスかその周辺だということはわかった。
「新帝都ってことは、
「旧帝都は、ここ」
リイナが指したのは、アフリカ大陸との境目に近いユーラシア大陸の南部。
中学の頃に習った、メソポタミア文明発祥のチグリス川、ユーフラテス川の辺りのようだった。
(元々帝都は中東のあたりにあったけど、ヨーロッパの西方に移動したってことか…
国名変わらず首都が移動するって、そんなことあるものなのか?)
新帝都と旧帝都は陸地で繋がっているとはいえ、相当な距離がある。
あの時代に…といってもどの時代かはよくわからないが、そんな大規模な移動が可能だったのだろうか。
「そもそも国名、なんだっけ。
シュメール王国?シュメール帝国?」
「…正式名は、連邦統一帝国シュメール」
「その…シュメールは、どれくらいの広さなの?」
智希が尋ねると、リイナは首を傾げる。
「シュメール帝国は…これ全部」
そう言いながらリイナは、世界地図全体をぐるっと指でなぞった。
「え…全部?」
「うん。
この世界は全部、シュメール帝国が統一してる」
智希は目を丸くした。
ひとつの帝国が全世界を統一している?そんなことがあるものなのか?
「地球丸ごとってこと……?」
「うーん…そうね、“氷の大地”も、人は住んでないけどシュメールが
智希は驚きのあまり、ひっくり返りそうだった。
世界統一なんてものを成し
(元の世界と違う点っていうとやっぱり…ラティア神の介入?
時間を
あまりにも理解が追いつかず、ラティア神の話をぼんやりとしか聞いていなかったことを今さらながら後悔する。
「トモキの世界は、違ったの?」
「あー…そうだね。
俺たちの世界にはたくさんの国があって…国と国が領土を奪いあうことはあったけど…」
そう言われると、世界の国々の起源はよく知らない。
ロシアの領土は広いけれど、確か昔はバラバラの国で…中国のあたりも国の名前は時代ごとに変わっている。
智希がよく知らないだけで、元の世界でも『全世界を統一する』という動きはあったのかもしれない。
「シュメールは、初代皇帝が全世界を統治したの」
「初代皇帝?」
「そう、初代のギルガメシュ皇帝。神と人間の子。初めて魔力を授かった人間って言われてる。
当時存在した他の国にも魔法を伝える代わりに、シュメール帝国の
初代皇帝ギルガメシュ。
ようやく、点と点が繋がり始めた。
どこかで聞いたことがあると思っていた『ギルガメシュ』という名前。
古代メソポタミア文明の歴史を習ったときに、史料として出てきた名前だった。
(つまり、メソポタミア文明の頃にいた王様…ギルガメシュが魔法を得て、地球丸ごと統治しちゃって…
そこからβ世界の人たちの歴史が変わったってことか…)
残念ながら理系の智希は、メソポタミア文明について詳しい内容までは覚えていない。
チグリス・ユーフラテス、メソポタミア、ギルガメシュ、
「その…初代のギルガメシュ皇帝の子孫が、今の199代目のギルガメシュ皇帝ってこと?」
「そう。ナジュド・ギルガメシュ
父上様が
「3歳!?」
「えぇ。親族にあたる方々が政治を支えてきたと聞いてる。
ロブルアーノ様も、その一人」
3歳で即位、というのは驚異的な話だった。
ロブルアーノは、皇級神官だったか。神官や魔導師の中にも、
「…トモキ、眠くはないの?大丈夫?」
眠気などとうに忘れていたが、リイナに気遣われて思わず笑みが零れる。
「うん、昨日はたっぷり寝たから」
「朝はやっぱり、コーヒーを飲むの?」
「そう…だね、コーヒー飲むとすっきりするよ」
そう言って智希が笑いかけると、リイナもほっとした様子で笑った。
「そういえば昨日あの後、大丈夫だった?
エリアルさんが色々交渉するって言ってくれてたけど…」
「大丈夫。全部お師匠がどうにかするって言うから、私とリオンは帰ってきた。
お師匠なら、なんとかできる」
「そっか…じゃあエリアルさんはまだ帰ってないってこと?」
「帰ってきてない。
でも、お師匠様帰ってこないのはいつものことだから、大丈夫」
「そう…?」
リイナの言葉を半信半疑の想いで聞きながら、とりあえずリイナとリオンには迷惑をかけずに済んだのだと、ほっとした。
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