忘却


 貴方との記憶は宝石箱の中の宝石みたいだと時々思う。普段はろくに身につけもしないのに、時折ふと思い出したように宝箱から取り出しては、しばらく眺めて、気が済んだらまた元の場所に閉じ込める。そうして同じことを何度も何度も繰り返す。貴方を忘れた訳じゃない。ただ傍に置いておくには重すぎて、私の足枷になってしまうので、記憶の箱の奥深くに閉じ込めざるを得なかったのだ。思い出を美化して上手に扱っている今の私を見れば、貴方は軽蔑するだろうか。あの地獄の日々を美しい思い出に昇華してしまうのを、もしかしたら貴方は嫌がるかもしれない。貴方が傍に居た時間は何にも替え難い大切な物だったと、眠る間際、まるで祈る様に考える日もある。私はあの日々を、箱に閉じ込めながらも未だに大事に抱えているつもりでいる。しかし、現実として、実感を持って、ここに存在している訳ではない。所謂ただのきれいなだけの石になってしまったとも思う。気分次第で取り出して、眺め回せる、一つの美化された記憶に成り下がってしまった。けれどそれもまた美しいと、魔術師のアスターは言っていた。私の打ち明けた話を、彼は姉に重ね合わせていたに違いない。思い出す度に薄れていく。美化されていく。唯の記憶になっていく。確かに美しいかもしれないけれど、残酷で虚しくも思える。

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