第34話 だから、君はこう言った

石川さんは、続ける、

「学校に来なくなったのは、私じゃなくて増谷さん。

 私は、君が好きだった。でも増谷さんもそうだった。

 そして、君は私が好きだった。

 増谷さんは、それを知りながら私との友情も大切にしてくれた。

 増谷さんはつらかったのよ。

 私との友情と、君への想いの間に挟まれて。

 私たちがうまくいって欲しいと思いながら、同時に自分も幸せになりたかった。

 だから、私と君がうまくいくことには、本当は心が耐えられなかった」

石川さんは、僕を見る。

「だから」

石川さんは、下を向き、もう一度僕をみる。

「だから、学校を休んだ」

「じゃぁ、あの時、僕が会いに行っていたのは麻美?」

石川さんは、答えない。でも、その瞳がそうだと言っている。

「嘘だ。僕が会いに行ったのは君だろう」

「いいえ、私じゃない。

 増谷さんは、心が疲れてしまったの。だから、学校に来れなくなった。

 もしかしたら、最初から増谷さんは君が好きだったのかもしれない。

 でも、君は最初から私を見ていた。一番辛かったのは増谷さんだよ」

「そんな・・・」

「優しい君は、増谷さんの家に何度も行って、理由も知らず、癒そうとした。

 本当にひどく疲れていたんだと思う。

 君は必死だったよ。君にとって、本当に大切な人だったんだね。

 そして、君たちは付きあうようになっていった。

 だから、私は何もできなかった」

「それじゃ、あの時・・・」

「事故でなくなったのは、増谷さん」

「嘘だ。麻美が・・・」

「それは、誰からもらったの?」

僕がしている黒いネックレスを指差す。

麻美からもらった誕生日プレゼントのネックレス。

「あぁ、これは・・・」

付き合うようになってから、ずっとつけていたものだ。

付き合うようになってから? では、相手は、本当に麻美?

「君は学校に来なくなり、私は心配して会いにいったけど、会えなかった。

 君が心を閉ざしてしまったから」

石川さんは、コーヒーカップの残りを眺める。


「病院のベットで目が覚めた時に、私に言ったことは覚えている?

 君にとっては、私じゃなくて、増谷さんに言った言葉だよ」

目が覚めた時に、麻美に言った言葉。

「君は、増谷さんと付き合っていた。

 だから、君はこう言った。あさみは?・・・と」

彼女の言葉を飲み込めない僕は、目をつぶる。

「私は、意識のはっきりしない君に、何も答えられなかった。私は何もできなかった」

「そうだ。僕は君を名前で呼んだことはない」

「そう。だから、私はいつも増谷さんが羨ましかった」

僕が目を開けると、カフェの外には、いつか見たような青空があった。

それは遠く遠く、もう戻れない過去の空だった。


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だから、君はこう言った 織隼人 @orihayato

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