第19話 夏祭りが遠くに聞こえる
僕は人の家の塀によっかかって休んだ。
正面は竹林。
夜風に揺れて、葉がカサカサ言う。
後ろからは、祭りの音が遠くに聞こえている。
街灯も少なく、けっこう暗い。
人々の熱気から離れると、少し涼しく感じる。
僕を呼ぶ声が聞こえた。
石川さんの声だ。すぐに僕を見つけて近寄ってくる。
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫」
「気分悪いの?」
僕の持っているペットボルトを見て聞いてくる。
「のど乾いただけだよ。本当に大丈夫」
「なんで、突然、こっちに来たの?」
「あぁ、大したことじゃないんだけど、前に出かけた時に話した3年生を見つけた」
「喧嘩した相手?」
「喧嘩じゃないよ。・・・でも、二人を巻き込みたくなかったから、ここまで逃げた。僕は喧嘩弱いしね」
この前の郡司くんとの喧嘩、というか一方的にボコられた経験から、自分の戦闘力は自覚した。
僕がそんなことを思っていると、石川さんがゆっくりと近づいてきて、僕の腕に触った。
「そんなことないよ」
小声で優しく言ってくる。
「君は強いよ。だって私たちを守ってくれようとしたんだもん」
「いや、守るというか、逃げてるし」
僕がそういうと、彼女は僕の腕をぐいっと掴んで引っ張った。
自分の方に僕を引き寄せると、ぎゅっと掴まってくる。
布ごしに感じる彼女の体温。
髪のいい匂い。
そして、俯いた優しい顔。
遠くに聞こえる祭りの音。
正面でカサカサ言う葉っぱの音。
僕は緊張してしまってなにもできずに立っていた。
しばらく、そんな時間が流れていた。
「なんで抱きしめるくらいできないかな」
いつの間にか近くに来ていた麻美が、僕のことを冷やかすように言った。
「びっくりした!」
僕がそういて動くと、石川さんは僕を離さないようにぎゅっと掴んだ。
あれ? 麻美がいるよ? と僕は思う。
まるで迷子だった子どもみたいに僕を離さない。顔は俯いたままだった。
あれ? と言う感じで、僕と麻美は顔を見合わせる。
「う〜んと、私、お腹空いたから、ちょっと何か食べてくる」
そう言って、麻美はさっていった。
さっき、あれだけ食べたのだから、絶対それは嘘だろう。
「どうしたの?」
まだ動かない石川さんに聞いてみる。
「ごめん。なんでもない」
でも、まだ僕の腕は離さない。
さっきと同じ時間のようで、ちょっと雰囲気が違う。
僕は何が何だかよく分からずに、またずっと立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます