第17話 夏祭り
卓球の大会が終わり、部活も通常モードになってひと段落。宿題だけが心の残りだ。
そんな時に、麻美から町内の夏祭りに誘われる。
そういえば、毎年やってたなぁ。
「いいね、行こう。石川さんも呼ぼうよ」
と僕は答えた。
「そうね」
「あとはどうする?」
「3人でいいんじゃない」
「そう? じゃ、そうしよう」
ということで、3人で行くことになった。
午後6時くらいに、祭りの行われる神社の近くの公園で待ち合わせすることになった。
当日、公園で行くと、まだ日が明るい。
僕は、そこで先に待っていた麻美を見つける。
彼女は、赤い浴衣姿だった。帯が黄色く、赤によく映える。少し化粧もしているようだった。
少し、違う雰囲気の彼女に、ちょっと戸惑った。
「あ、やあ」
「やあって、何よ」
「え? ようとかのほうがよかった?」
「それもやだ」
そう言いながら笑う。笑顔はいつも通りの彼女だった。
僕は自転車を止め、麻美の横に並ぶ。
公園には同じように待ち合わせする人がちらほらいる。
でも、知り合いはいない。
「ここまで何できた?」
僕は聞く。
「お母さんが送ってくれた」
「そうだよね。浴衣で自転車は無理だ」
「そうよ、大変なことになる」
僕は、それをちょっと想像してしまった。
「あぁ、そういえばさ」
僕は考えを切り替える。
「なに?」
と答える麻美。
「麻美は好きな人いないの?」
「え!? 突然なに?」
「え? いや、好きな人だよ。気なる相手。いないの?」
「いるような、いないような?」
歯切れが悪く答える麻美。
「いるような、いないような? え? どっち?」
「わからない。自分でも気持ちが分からないことはあるでしょ」
そう言って見つめてくる。
「あぁ、あるね。あるある。じゃ、気になるけど、好きってほどじゃないんだ?」
「まぁ、たぶん、そんな感じ」
「それでも、いいね」僕は言う。
「なんでよ?」
「いや、なんとなく」
「なんとなく?」
「なんとなく」
「そいうあんたは、いし」
そこまで言いかけたところで、石川さんが現れる。
「ごめーーん。遅くなった」
「いや、まだ時間になってないし」
「そうよ。大丈夫」
「ふぅう。ちょっと汗かいちゃった」
石川さんは、うちわで首筋をあおぎながら深呼吸する。
彼女も浴衣姿で、紺色に薄いピンクの花柄が入ってた。帯は赤い色でよく似合う。
彼女の浴衣姿も初めて見たので、いつもとは違う雰囲気に、気持ちが落ち着かなくなる。
「石川さん、かわいーーい」
と言いながら、麻美は石川さんに抱きつていく。
「増谷さんも、かわいいよーー」
女子の褒め合いが始まった。
男には、ちょっと退屈な時間だ。
「そういえば二人とも、そんなに仲がいいのに名前で呼ばないんだね」
僕はなんとなく聞いてみる。
「だって、“あさみ”と“あゆみ”だよ。呼びにくいじゃん」
麻美が答える。
「そうそう。似てるから、自分の名前呼ぶみたいで呼びにくいの」
石川さんもうなづく。
「わかる、わかる。そうそう」
「そうなんだ? あだ名でも呼ばないんだね?」僕が言う。
「そうね。もう苗字呼びが当たり前になちゃった」麻美がいう。
「私もそう」石川さんもうなづく。
そんな話をしていると、囃子太鼓の音が響き始めた。
「そろそろ始まるね。行こう行こう」
麻美が僕らの手を引っ張っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます