第12話 人間関係
塾の終わり、親の迎えの車を待つ間に、石川さんと麻美と僕は、三人でこそこそ話す。
「そっち、どうだった? 人見の気持ちは分かったの?」
麻美が聞いてくる。
「分かったけど。・・・仲を取り持つのはほぼ無理だと思う」
「そう。私たちも浅倉さんに聞いてみた」
「どうだった?」
「彼女はやっぱり、人見が好きみたい。無視されるのがツラいって」
「それで、どうする?」
それには石川さんが答えた。
「私たちは、浅倉さんをフォローするよ。ツラい気持ちにならないようにいろいろ話し相手になるよ」
「あんたは、人見の相手してて」
麻美が言ってくる。
「わかった。なんか学校の人間関係より、大変だね」
「人が少ない中での恋愛だからね」
麻美が言ってくる。
「そうだね」
と言いながら、僕は心の中でもやっと感じるものがあった。
それから5人の塾は、男子2人と女子3人で分かれる感じで進められていく。
部屋は同じだけど、男女では基本話しかけられない魔法がかかったようだった。
先生も何かを察しってくれているようだったと思う。
僕は塾帰りの車の中で、母親に言う。
「人間関係って面倒だね」
「子どもが何言ってるの」
「子どもは子どもで学校では階級的なものがあったり、他にもいろいろあるよ」
「真剣に勉強してれば、いいじゃない」
「勉強も人間関係も、どっちも面倒なんだよ」
「頭が良ければ、どっちもうまくいくわよ」
「なんかテキトーっぽい」
そんなことをやり取りをしながら、これからの塾が少し億劫に感じ始めていた。
たぶんその夜、僕は初めて金縛りにあった。
夜中に目が覚めると体が動かない。声も出せない。壁際のベットで壁のほうを向いて寝ているので壁しか見えない。
そして、頭の上の方に、人影を感じた。
それは、低い女性の声で笑っているように聞こえた。
僕はなんとか、むりやり体を動かして、声を上げた。
少しして、父親が様子を見に来た。
「どうした?」
「金縛りにあった」
「じゃ、大丈夫だな」
それだけ言って、さっていく。
僕は汗ビッッショリだった。時間は午前2時の10分前。
寝る前に読んだ「本当にあった怖い話」系の文庫本がベットに置いてあった。
たぶん、この本のせいだろう。
金縛りの前にも、怖い夢を見ていた気がする。
そういえば、怪談話を石川さんから聞いたことがあった。キスしそうになった時だ。
今度は、僕がこの話をしてあげようと思って、彼女の顔を思い出し、落ち着きを取り戻そうとする。
夏の蛙の大合唱がうるさいほどに大きく聞こえていた。
そのあとは、そのまま自然に寝てしまった。
その後の人生で、何度か金縛りにあったけど、声まで聞こえたのはその時だけだった。
今、思えば一番怖い実体験だった。
翌朝は、何事もなく眩しい朝日で目が覚めた。
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