第8話 僕はムチャをする?
ある日曜、複数人の男女グループで県庁所在地の街まで出かけることになった。
僕らが住む場所は、田舎の車社会だから、中学生が電車で1時間近く移動するのは、東京に行くのと同じくらいのハードルの高さだった。そして、田んぼだらけの田舎に住む僕らにとって、県内で一番栄えている場所はほとんど大都会だった。ちょっとした冒険気分に気持ちが浮き上がっていく。
メンバーは石川さんに麻美、同じクラスメイトで石川さんの友達の女子と桜木に郡司くん、そして僕。
駅で10時ごろに待ち合わせした僕らは、男子だけが先についてしまった。
初夏の夏の暑さから逃げて、駅内のクーラーでひたすら涼んでいた。
しばらくして、そこに石川さんの友達の女子、若目田(わかめだ)さんがやってきた。
僕ら男子とは、ほとんど話したことがなく、すごくおとなしい女の子だ。
お互いに恥ずかしくて、他の女子二人が来るまでは話しかけられなかった。
白いカーディガンに、白いパンツ。カーディガンの中は、紺と白のストライプで、時計とイヤリングをして、肩からポーチを下げていた。たぶん校則でイヤリングはダメだったと思うので、そう見えるなんかだったんだろう。
いつもは制服か運動着でしか知らない女子が、私服でおしゃれしているのは不思議な感じだった。
僕たちが遠目に、若目田さんを見ていると、そこに石川さんと麻美が一緒にやってくる。
「男子は、どうしてそんなに離れているのよ?」
あさみが開口一番に言った。
確かに女の子を、3人の男子中学生がじっと見ていたら、客観的には変だろう。きっと変だ。
まぁまぁという感じで、石川さんが麻美をなだめる。
麻美と若目田さんは、ほぼ初対面な気がするが女子は女子ですぐに会話が始まった。
そういえば、二人の私服を見るのも小学校以来だなと気づく。
石川さんは、全体的に落ち着い感じの薄い水色のワンピースに麦わら帽子。
麻美は、ジーンズのミニスカートに肩が出た黒いトップスだった。
なんか対照的だなと思う。小学生の時とはやはり雰囲気が違う。
同じことは、女子はみんなバッグとかポーチとかを持っているところ。
僕ら男子は、だいたい手ぶらだった。
自分がどんな格好をして行ったかは覚えていないし、他二人の男子のファッションも覚えてない。
たぶん、男子は女子よりダサかったと思う。郡司くんだけは少しファッションに気を付けていた気もする。
ガヤガヤと騒ぎながら、僕らは電車に乗り、目的地を目指す。
なんやかんやと色んな話で、時間が過ぎていく。
1時間はあっという間だった。
街に遊びに行くということ以外の目的ははっきりなかったので、普段は見慣れない都会な感じを味わいながら、ぶらぶらと過ごしていたと思う。
県内ではそこそこ有名な商店街をダラダラと歩き、気になったお店を見て回る。
街中にある、けっこう由緒あるらしい神社の階段を登ると、広い境内に鳩が集まっていて、餌をあげることができる。
そこでも、ワイワイ、キャキャしながら、鳩に餌をやる。
郡司くんが餌やりのふりをして、油断した鳩を捕まえようとするが、うまくいかず、みんなが笑う。
午後1時くらいか、少し遅めのお昼を食べることになり適当なファミレスに入ろうとすると、麻美が美味しいカレー屋さんがあるというので、そこに行くことになった。
席に着くと麻美が、僕に言う。
「そういえば、あんた、上級生と喧嘩したんだって?」
「え? 喧嘩?」
石川さんも聞いてくる。
「それ、俺も高井くんから聞いた」
郡司くんも言ってくる。高井くんは卓球部の同級生だ。
「あ、いやぁ、喧嘩じゃないよ」
「じゃ、何したの?」
なんかみんなの視線が僕に集まり、ちょっとうろたえる。
「え〜と、学校の帰りに、高井くんがなぜか3年に絡まれて、ちょっと面倒だったので僕が間に入ったら、いちゃもんつけられたみたいな・・・?」
「で、喧嘩したの?」
「だからしてないって。なんか、ずっと近づいてきて、どうのこうのずっと言ってただけだよ。僕はずっと適当な距離を置いて下がってただけ」
「それでどうなったの?」
「相手も面倒になったんじゃないかな。帰っていった」
「それで終わるものなの?」
と麻美。
「怪我はしなかったの?」
石川さんも、ぼほ同時に聞いてくる。
「うん、なんか終わったね。20〜30分くらいだったと思うけど。怪我もないよ。たぶん、舐められてないのだけわかったら帰ったんじゃないかな」
「なんか、男ってそういうのあるよね」
麻美が言う。
「僕には、あまりわからないけど」
「たぶん、あるね」
郡司くんがいう。
「私、3年生ちょっと怖い」
若目田さんがいう。
「それ分かる」
桜木が共感する。
そう3年生はなぜか、卓球部でも、同級生のお兄さんでもだいたい、ちょっと怖かった。
2年生はそん感じはしないのに、今、思えば不思議だった。
「でも、あんたたまにそういう無茶するよね。昔、うちの塀の上に登って大人に怒られたでしょ」
「あぁ、あったね。でも、それなんか違くない?」
「無茶してるのは同じでしょ?」
「まぁ、そうかな」
「あと、お店の天井裏に入ってコンクリートに落ちたとか」
「なんで、それ知ってんの?」
僕の実家は小さなお店を経営していて、小学校低学年のころ、店の裏にある謎の扉から、天井裏に登れることを見つけてしまい、冒険心からそこに潜り込んだことがある。そして、天井裏から一階のコンクリートの地面に落っこちた。幸いケガは大したことがなく、衝撃でしばらく動けなかったことくらいだ。
「みーちゃんに聞いた」
みーちゃんとは僕の妹だ。
「なんで、そんな話に?」
「とにかく、あんたは大人しいくせにたまにムチャするのよ。気を付けいと、そのうち怪我するよ」
「わかった・・・」
これ以上、反論しても無理そうなのでとりあず、そう言って逃げる。
石川さんのことを見ると心配そうに僕のことを見ていた。
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