第6話 怖い話のあとで
この前の部活の帰り道以降、仲良くなったのは僕と石川さんだけじゃなかった。
石川さんと麻美も仲良くなっていた。
そんなに二人とも話をしてたっけ?と思ったけど、女子には女子の何かがあるんだろう。
僕は僕で、授業中も部活中も、石川さんと話すことが増えた。
それからは、部活の帰りで僕ら3人を含めた数人で帰ることがたまにあり、3人ともよく話すようになった。
だいたい最後には、3人になり、僕が石川さんを送って帰る。
部活の帰りには、そんな日常が続くことになる。
今日も二人だけの帰り道になった時、彼女が話だした。
「今日、英語の先生から怖い話、聞いちゃった」
「怖い話?」
「そう。すごく怖いの。聞く?」
「いいよ」
僕は怖い話は好きだけど、夜起きてトイレに行けなくなったりする。
「先生が大学生の時のことなんだけど」
この英語の先生は20代の女性教師で男子からも女子からも人気がある。
「一人暮らしをしていて、毎日、夜中に金縛りにあうことがあったんだって」
「うん」
「疲れているせいだと思ってたみたいだけど、それが2ヶ月くらい続いたんだって」
夏が近い時期なのに、夜道の風が少し冷たい気がしてしまう。
「そして、ある日また金縛りにあって、目が覚めたの」
自転車の車輪と二人の足音に、別の足音がついてきているようで後ろが気になってしまう。
でも、もちろん誰もついてこない。
「そしたら、ベットの上の壁から、こう!」
石川さんは、そう言いながら勢いよく、上半身を前に突き出した。
「人の上半身が突き出ていたんだって。それが真っ赤だったんだって」
僕はいきなりの動作にビクッとした。
石川さんは、片手で自転車を持ちながら器用に聞いてくる。
「どう? 怖かった?」
彼女は、僕が驚いたことに満足しているみたいだった。
「・・・怖かった、君が」
「私が?」
「これ、ビックリさせる系の話じゃないか。誰だっていきなりは怖いよ」
「そっか、そっか」
そう言いながら笑う。
僕は、少し不機嫌そうにしながらも、彼女の笑顔が可愛くて、怒るに怒れなかった。
「というか、痛っ。今、足くじいた気がする」
「え? 大丈夫?」
「大丈夫だけど、ちょっと待って」
そう言って僕は、自転車を止めてしゃがんで足を触った。
足をくるぶしの所でグッキってやっちゃったけど、そんなにひどくはない。
数時間もすれば治りそうだった。
石川さんも自転車を止めて、しゃがみ込んだ僕を心配そうに覗き込んでいる。
僕はひらめて「わっ!」って言いいながら立ち上がった。
石川さんは「わぁぁ」って言いながら後ろに倒れて手をついた。
「ごめん」
僕は慌てて、謝って彼女を助けようとした。
お返しと言いたかったけど、思ったよりもビックリさせてしまい、こっちがビックリした。
その時、さっきの足のダメージで滑って彼女に乗っかる形になってしまう。
「あ・・・」
「あ・・・」
お互いに「あ」しか言えなかった。
しばらく沈黙が続く。
彼女の顔が近く。呼吸まで聞こえた。
彼女のたぶん髪のいい匂いも強く伝わってくる。
そして、彼女は目をつぶった。
僕は、ただ見てた。
彼女は少ししたら片目を開けた。
「・・・」
僕はまだ見てる。
「・・・そういうことじゃないの?」
「そういうことって、そういうこと・・・?」
僕は自分が何を言ってるか分からない。
「そういうことって、そいうこと」
「どういうこと?」
僕にも、本当は意味はわかったけど、勇気がなかった。
石川さんは立ち上がりながら、小声で言った。
「う〜ん。君は本当に、君だね」
僕も立ち上がりながら言った。
「僕は、僕だね?」
「なんで、疑問系?」
「・・・疑問系だった?」
「だった」
石川さんは、自転車を起こしながら言った。
「いいよ、帰ろう」
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