第5話 膝のすり傷
翌朝起きると、擦りむいた膝の痛みで昨日のことを思い出す。
帰り道。
石川さんと一緒の帰り道。
知らず知らずに笑顔になっていたと思う。
膝をさすりながら、昨日のことを思い出す。
「そういえば、この前告白されていたよね?」
昨日の帰り道二人の時に、石川さんから聞かれた。
「あ〜、あ、うん。そうだよ」
「増谷さんから?」
「いや、違うよ」
「そうよね。全然、そういう雰囲気じゃないし」
「なんか麻美のたぶんクラスメイトかな」
「どう答えたの?」
「あ〜、断った」
「どうして?」
「どうして? ・・・え〜と」
君が好きだから、なんて言えるわけがないよ。
「いや、付き合うとかよく分からないから」
「付き合うことがわからないかぁ。そうね、私もわからないもんなぁ」
「だよね。でも、たぶん、僕、あの子に嫌われた気がする」
「なんで?」
「手紙に誰にも言わないでって書かれたけど、クラスメイトに見せてしまったから・・・」
「それは、ダメだね。あやまった方がいいよ」
「そうだよね。うん・・・」
「あ、でも。フラれた相手に呼び出されるのも、ちょっと気まずいかも」
「あ〜、そっか。なるほど・・・。どうしよう」
「心の中で謝っておきなよ」
「それはやってる」
「そうなんだぁ」
「それしか、できないし」
「ごめんんという気持ちがあればいつか伝わるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「うん、ありがとう」
その時の僕には、彼女の言葉が僕のバカな振る舞いも許してくれるようで、気持ちが楽になっていた。
彼女とさよならした後に、二人で色々話せたことと、告白してくれた相手に悪い思いをさせて苦しさを取ってくれたこと、なんだかすべてがうれしくて、はしゃいだ気持ちで自転車でこけた。
浮かれているだけでは、ダメだと思い「ごめんなさい」と心の中で改めて謝る。
数日、膝の傷は消えなかった。
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