第4話 部活の帰り道
石川さんと麻美が仲良くなり始めたのは、いつ頃のことだろう。
石川さんは僕と同じ卓球部。その卓球部が練習する同じ体育館の中でバスケ部の麻美も練習していた。
たまに、バスケ部が使う場所がバトミントン部に変わることがあったけど、だいたいバスケ部がとなりで練習していたと思う。
卓球部は卓球台がないと練習できないので、ずっと体育館を使っていた。
部活中に、卓球部とバスケ部での交流はない。
たまに、卓球の球がバスケ部のコートに入ってしまい、それを取ってくれるくらいだ。
僕は卓球部で万年補欠だったけど、いつもの練習相手は成績上位のクライスメイトだった。
彼は、桜木と言って、おとなしい性格で気のいいやつだった。少し太めで体格がいい。
小柄な僕と卓球するしていると先輩、後輩みたいに見えただろう。
桜木は、バスケ部の女子が好きで、一度卓球の球がバスケ部のコートに入って、桜木の好きな女子がボールを取ってくれたことがある。その時に冷やかしたら、本気で怒られた。本当に嫌だったみたいだから、それ以来からかうのはやめた。
ちなみに女子卓球部と男子卓球部は、合同で練習はするけど完全に男女で分かれている。
そういう意味では、僕も桜木と同じような感じだった。
男子卓球部の球が女子卓球部の方に行ってしまい、石川さんに取ってもらった時に舞い上がってしまった。
クラスメイトで部活が同じでも、そんなに気軽にしゃべることはない。
というか、機会はあったんだろうけど、僕にそんなことはできない。
でもある日の部活帰りに、卓球部とバスケ部の終わりがほぼ同時で、帰り道の方向が同じ5〜6人のグループが一緒に帰ることになった。その中には、僕と石川さんと麻美がいた。
僕と麻美は家が近い。石川さんの家はそれより遠く、1km弱くらい離れている。
だいたいみんな自転車だったけど、徒歩のメンバーに合わせて自転車組も、自転車を押して歩いた。
中学時代で、田舎の夜の暗い道はそれなりに怖い。
電灯はあるが田んぼが多いので、なんだか寂しい雰囲気がするものだ。
必然的に、同じ方向に帰るメンバーはグループになってしまった。
その帰り道、僕はそれなりに石川さんと話ができた。
7年間同じクラスだったけど、その時が初めて一番長く、多くのことを話したと思う。
彼女には弟がいて、犬を飼っていることなど初めて知った。
徒歩組が一人づつ家に帰り着いて行ったが、僕たちは会話がおもしろくてそのまま歩いて帰った。
やがて、メンバーは僕と石川さんと麻美の3人になっていた。
今思えば、麻美は僕と石川さんの会話をフォローしてくれていた気がする。
僕と麻美の家が近づくと、麻美は危ないから僕が石川さんを家まで遅れと言ってきた。
僕は「え!?」ってけっこう大きな声で驚いた。
それって、二人だけになるってことじゃないか。
僕は、石川さんがどう思っているか気になって何も言えなかった。
そうこうしていると、石川さんが言った。
「送ってくれたら、嬉しいなぁ」
「え?え? あ、う、うん」
僕は、挙動不審気味にしか答えられない。
「じゃ、そういうことで」
麻美が一人で消えていく。
二人だけになった僕たち。
虫の声が聞こえる。電灯が寂しく二人を照らす。
なんだか急に緊張して動きが変になる僕。
「じゃ、行こうか」
石川さんが言ったので、二人で歩き出す。
二人とも自転車を持っていたけれど、乗る雰囲気じゃなくて押して歩いた。
僕は何度か自転車のペダルを足のすねにぶつけていた。
痛かったけど、それどころじゃない。
麻美がいなくなって、急に静かになった。
何か話さないとと思っても何も言葉が出てこない。
頭が真っ白だ。
「増谷さんはいい人ね。話もおもしろいし」
石川さんが話し始める。
「あ、うん。そうだね」
「幼馴染なんだよね?」
「そうだよ。幼稚園から知ってる」
「そういうの羨ましいね」
「そうかな」
「そうだよ」
僕は会話が続いて、少しホッとした。
「なんだか色々わかってそう」
「わかってそう?何を?」
僕のこと?なんのこと?
僕が考えていると彼女が言う。
「なんか、色々だよ」
「あぁ、うん。なんか色々・・・」
「なんか色々」
「なんか色々」
「・・・・・・プッ」
「・・・・・・ハッ」
何度か同じことを繰り返して言うと、二人で笑ってしまった。
よく分からないけど、なにか楽しい。
それから彼女の家に着くまでに、くだらなことを色々話した。
二人で笑ってから急に打ち解けた気がした。
最初の緊張がなくなり、ただ楽しかった。
そして彼女の家につき、お別れを言うと僕は舞い上がった気持ちで家に帰った。
調子に乗りすぎて、途中で自転車で転けて膝を擦りむいた。
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