東の兄妹④
男の体が後ろへ倒れた。
入れ物から出てきた青白い細い右腕が天井に向かった強く伸ばしており、それが男の顔を飛ばしたのであった。
その右腕が入れ物の縁を掴んだ。すぐに左手も縁を掴むと帽子が見えた。
その帽子は一周させたツバを上に向けたような形をしており、頂点に赤く丸い物が付いていた。
更に帽子には何かが垂れ下がっており、文字のようなものが書かれていた。
今度は顔が見えた。ゆっくり立ちあがろうとしてるのか目、鼻、口と少しずつ見え始めた。
どうやら少女のようで青白い肌と鼻は高く、目が大きい可愛らしい顔立ちをしていた。
少女は周りを見て、アスカを見つけると目を丸くさせ、ジッと見つめてきた。
「何か?」
アスカは恐る恐る尋ねると、少女は立ち上がった。
少女の服は胸の形がはっきりするほど、体に張り付いていていた。
それに対して、袖は凄く垂れ下がっており、腕どころか体が入りそうな程大きかった。
他にも服には前掛けのようなものもあり、ズボンを穿いていたりと特徴的な服であった。
少女は両足を揃えて、入れ物からピョンと飛ぼうとした。
しかし、足首が引っかかり、胸から床に倒れ込んでしまった。
少女はすぐに顔を上げて、青白い肌を仄かに赤くした顔を見せた。
「
頬を上げ、目を細めて少女は言った。
「大丈夫?」
アスカは少女の右手を掴み、立ち上がらそうとした。その手は冷たく、石を触っているようであった。
「
少女の声はハッキリした高い声であった。自分で立ち上がり、アスカの手を放した。
「今……なんて?」
アスカは首を傾げると、少女は頭を掻きながら少し上を見る。
「アりがとござイます、大丈夫デす」
少女は頬を赤らませて、呟くように答えた。
「凄い片言ね……あなたはどこから来たの?」
「私ハ……遠い東の国、シンからキた、
シャオリンは左掌に右拳を軽くつけて、お辞儀をした。
「ど、どうも……シャオリン……さんね、よろしく」
アスカは右手を出して言った。シャオリンは首を左に傾けた。
「
「握手よ、この国ではこれが挨拶……かな」
そういうとアスカはシャオリンの右手を掴み、軽く握ると優しく上下に振った。
「変ナノ」
シャオリンはまた笑う。仄かに香る屍臭と無機質な手の感触とは裏腹に、彼女の表情は大変豊かで暖かみがあった。
「ところでリーって言ったけど……」
「アぁ……私ハ
それを聞いて、アスカは逃げようとしたがグッと右手を掴まれて、逃げることが出来なかった。
「アイヤー、ニげなデ、私ハアすかチゃんと一緒にアビスへ行くヨ!」
「アビス?」
「ソ! アビスニいて、私達ノ望み、かなる!」
「望みって言われてもねぇ……あなたの望みは?」
「私ハこの体ぅぉ直シて、普通の人間ニナる! アすカチゃんはないの?」
「私は……ただ、生きていたいだけ、でも……」
アスカは視線を落とした。
「デモ?」
「誰も私を愛してくれない」
「そンナことない!」
シャオリンは強く否定するがアスカは下を向いたままだった。
「私の体臭で誰も私のことちゃんと見てくれないもん!」
「私ハアすかチゃん、いもとみたいでスき、だから! 一緒にキて!」
シャオリンがアスカの両手を握ると、今度はアスカは耳まで赤くしていた。その耳は少し尖っており、横に伸びるようにあった。
「……分かった、一緒に行く!」
「ヨカタ! 私ノこト、ねチゃんて呼んでね!」
すると、アスカは目を細めて、シャオリンを睨むように見た。
「なんで?」
「アすカチゃん、私ヨリもちちゃイから! だカラいもとね! ソレニ私、いもと欲シかた! チョどイー!」
とても無邪気に笑う姉を見て、アスカも釣られてしまう。
「分かった、頼りにしてるね、お姉ちゃん」
アスカは
「ソレト、モヒとツ! ちゅイスるコトが!」
シャオリンはアスカの後ろを指差すのに釣られて、アスカは後ろを振り向く。
部屋の入り口にに火が浮かんでおり、何かの周りを漂っているようであった。
それはこの国のとは違う造りをした、鎧や剣を持った者がいた。何かブツブツ言いながら、こちらへゆっくり向かって来る。
「……何あれ?」
「ユウレイ? サムライ? てイテタかな? トニカク、私ぅぉ狙ウ悪イ奴! 一緒ニ戦て!」
シャオリンは右手の平を上にし、左手の平は外に向けて構えた。
「前途多難ね、ところでアビスは遠いの?」
「ワカラナイ! ソレモアすカチゃんと探ス!」
「……じゃあ、分かることから片付けますか!」
アスカはそう言って、シャオリンと共に走り出した。
深淵を覗くカンビオン 絶飩XAYZ@広島文フリ @ZTON-XAYZ
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