本当は償わなきゃいけなかったらしい
藤間伊織
自分の身は自分で守るべし
知らない部屋。知らない人達。知ってる状況。
「クリア条件:死なずに部屋をでること」
壁に貼られた紙切れ。
と、その上のタイマー、10分。
部屋にいるのは四人。
「なんだこれ!ふざけるな!」
ひたすら喚き散らす中年男性。
「まあまあ、落ち着いて」
くたびれたスーツの男性。
「うぇぇ……」
めそめそ泣く金髪の女性。
「…………」
マスクをした青年。
そんな四人の中心にあるのはふたつのテーブル。
ひとつには拳銃。もうひとつにはシュークリームが四つ置いてある。
部屋自体は殺風景で観葉植物のひとつもない。白が目に痛い。
それからこれまたシンプルな扉ひとつ。
「……」
「おい兄ちゃん!何してんだ!こんな部屋調べたってどうせ何もありゃしねぇよ!」
「とりあえず、話し合わないと」
「死にたくないよぉ……」
全員がテーブルを囲む。
「これって、や、やっぱり本物……?」
拳銃。四発入りでうち三発は弾が抜いてある。
「こっちは何……?」
シュークリーム四つ。すべて同じ見た目。
「けっ。好きな方を選べってことか?趣味の悪い奴だ」
「拳銃とシュークリーム……。どうしたら?」
「私はシュークリームがいいなぁ。痛いのやだもん。甘いお菓子で死ねるならまだマシだと思うし」
「でも、こういうのって毒とか入ってたりするんじゃ?そうだとしたらどんな毒かもわからないし危険では?」
「俺はやっぱり拳銃でぽっくり、ってほうがいいけどな」
「素人がやってうまくいく確率って……」
「なんだよ、はっきりしねえなあ!」
「ご、ごめんなさい……」
シュークリームに夢中な金髪。イライラし通しの中年。ぺこぺこ頭を下げるくたびれスーツ。
「おう、あんたの意見も聞いとかなきゃな。どうするよ?」
「……」
背を向け、扉に寄りかかるマスク。
「ちょっと待ちなさいよ!なんとかいったらどうなの?」
「……」
「つれないなぁ……」
しばらくの沈黙の後、また言い合いが始まる。
「私はこれがいいの!」
「俺だって譲れないね!」
「まあ、落ち着いt……」
「うるさい!」
「……」
それぞれ拳銃とシュークリームを手に自分の主張をわめきたてる。
それは罵り合いに発展し、今は関係ないであろう内容になっていく。
それにはさまれおろおろするだけのくたびれスーツ。
「あ、タイマーの時間が……」
気づけば残り3分。
更に部屋がうるさくなる。
今まで何のアクションも起こさなかったマスクがてくてく、と二人に歩み寄り、拳銃とシュークリームを手に取る。
拳銃のロックをはずしつつ、マスクを下げる。
バン!
引き金を引いて、同時にシュークリームを口に放り込んだ。
三人はあっけにとられたような顔でマスクを見ていた。
「早くしなよ」
中年は拳銃を受け取れるような状態ではなかったので、それはテーブルに戻された。金髪も、腕を中途半端にあげたままだ。マスクはそのまま扉の前に戻る。
残り2分。
再び部屋の時間が動き出す。
女性はシュークリームを口に入れ、男性は引き金を引いた。
白だけの部屋に色が足された。
扉を開ける。
部屋からは三人が出て行った。
一人がふいに口を開く。
「知ってたんじゃない?この部屋の扉に鍵がかかってなかったこと」
それに答えた一人が微笑をたたえ、振り返る。
「みんな訳ありとあって受け入れが早かったからね……。刺激がないと……面白くないでしょう?」
そちらを一瞥した一人が言う。
「さすが、あの部屋に送られるだけのやつだね」
~クリアおめでとう~
クリア条件を
見事達成しました!
本当は償わなきゃいけなかったらしい 藤間伊織 @idks
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