【王家の婚約指輪】──実は──

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真実を知ったら──

ツイン王国で現在、国を揺るがす問題が浮上していた。


ツイン王国の第一王子であるアルフ・ツインが婚約者であるシオン・シルフィード公爵令嬢に婚約破棄を突きつけ、王妃様が王妃教育を終了したシオン公爵令嬢に渡そうとした王家の婚約指輪を、最近懇意にしているリリス・サイフォン男爵令嬢に渡してしまったのだ。


そして騒然となる広間で二人は抱き合っていた。周囲の目が冷ややかな事に気付かずに──



ここで少しこの国の歴史について話しておこう。

このツイン王国には、『国宝』である王家の【婚約指輪】がある。


この婚約指輪はツイン国が出来た時、女神様から与えられたものとして伝わっている由緒正しき指輪である。


この指輪には魔力が宿っており、王妃教育を終えた女性に初めて与える物である。


この指輪を着けた女性は必ず『子』を宿すと言われており、更には大きな病気もしなくなる事から【聖なる指輪】として、代々王妃となった女性が次の王妃にバトンタッチするまで、肌見放さず身に着ける事になっている。


そして本日、母親代わりの王妃様から、指輪を継承するはずだったのだ。


シオンの母親は産まれてすぐ亡くなっており、王妃様がシオンの母親代わりとなって育ててくれたと言っても過言ではなかった。


厳しい王妃教育に、何度も挫けそうになったとき、何度も王妃様の優しさに助けられた。


しかし、王妃様は時々シオンを見る目に悲しみの表情が宿る事があった。

シオンは敬愛する王妃様のため、お義母様のために頑張った。


そして今日、その努力が報われる日だったはずだったのだ。

それなのに大事な指輪を不倫相手に渡すなんて!


シオンは生まれて初めて本気で憤った。


現在、シオン達は王立学園の生徒である。

そこにリリス男爵令嬢が転入してきた事で二人の間に亀裂が入った。


いや、元々優秀なシオンに、だんだんと劣等感を感じていたアルフ王子に、リリス令嬢が近付いて親しくなっていったのだ。


最近のお茶会はドタキャン続きでシオンとの仲は悪くなる一方だった。

思い切って王妃様に相談してみたが、王妃様は少し考えた後、放って置きなさいと言った。


そして、どんどんとリリス男爵令嬢と親しくなった王子が今回の凶行に及んだと言う訳である。


「返しなさい!!!それは厳しい王妃教育を終えた者に与えられる聖なる指輪ですよ!」


すでにリリスの指に嵌められた指輪を指してシオンは叫んだ。


「え~~嫌ですよ~!これはもう私のものです♪」

「そうだ!これはもうリリスのものだ。指輪を嵌めた者が王妃になるのだからな!」


この場に国王様は別の用事でいない。しかし、王妃様がいる。王妃様ならなんとかしてくれると思い、シオンは王妃様を見た。


「王家の婚約指輪は一度装着すると簡単には外せないの。もうリリスさんを王妃にするしかないわね」


王妃様の言葉にシオンは絶望した。


「やったぞ!リリス!!!」

「はいっ!嬉しいです!」


はしゃぐ二人にシオンは目に涙を溜めて俯いたが、そこに王妃様が笑いだした。


「フフフッ、あーーーはははははっ!!!!!」


!?


シオンは淑女としてはあるまじき笑い声にびっくりして王妃様を見つめた。


「フフフ…………久し振りだわ!こんなに気分がいいのは!」


王妃様は立ちがるとシオンに近付いた。


「まさか、ここまで上手くいくとは思ってみなかったわ。シオン、悲しませてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」


???


シオンは訳がわからなくて混乱した。

王妃様に尋ねようと言い掛けた時、悲鳴が上がった。


「ギャーーーー!!!!!痛い!?痛い!!!」

「ど、どうしたんだリリス!?……………ぐわっ!!!?なん…………だ?身体に力が入らない。力が抜き取られる……ようだ……」


シオンは目を開いて二人をみた。


「始まったようね」

「お、王妃様、いったいなにが………?」


怯えるシオンに王妃様は優しく語り掛けた。


「今こそ真実を話しましょう。あの王家の婚約指輪は【聖なる指輪】ではないの。アレは【呪いの指輪】なのよ」


!?


「なんですって!?」


「驚くのは無理ないわね。この指輪を嵌めると、指輪に毎日魔力を抜き取られるの。だから王妃になるのは国でも魔力の多い女性が選ばれる事になっているのよ。だから他国では珍しい男爵でも子爵でも下位の貴族からでも王妃が選ばれる事があるのよ。馬鹿息子はそこを勘違いして、男爵令嬢のリリスさんでも王妃になれると思ったのね」


シオンは苦しむリリスをみながらアレは?と思った。


「リリスさんの魔力が想定以上に低かったのが原因。足りない魔力を無理矢理に吸い取るから苦しむのよ。我々のように一定容量以上の魔力があれば、身体がだるくなる程度で済むわ。この『呪いの指輪』のたちの悪い所は装着者………【宿主】を殺さないように生かす所にあるの。初代国王はその特性に目を付けた。ツイン王国が出来た理由が、当時の前王国での国王夫妻に子供が出来ず、次期国王を狙って国が割れて内戦状態になったのが原因だったのは、王妃教育で知っているでしょう?国は2つに割れてこのツイン王国が独立し誕生したわ」


うん、ここは王妃教育で習った一般には知られてない裏歴史だ。


「この呪いの指輪は魔力を奪う代わりに、次代を残させようと、身体を健康にして子を宿し易くする能力があったの。腹が立つことに、装着すると指輪の不都合な事を言えなくなるのよ。文字もダメだったわ。だから、本当の娘ようなシオンが、呪いの指輪を受け継ぐのを止めたかったの」


本当なら我が息子と一緒に指輪の呪縛と戦って欲しかったけれど…………あんなバカな娘に引っかかるなんて失望したわ。


「あ、そうそう、余りにもリリスさんの魔力が少なかったため、番(つがい)である王子の魔力を吸い取っているみたいね」


婚約指輪は2つで1つである。王子も装着しているのだ。


王子は兎も角、リリスは助けを求めた。


「た、助けて…………」

「安心して。すぐに収まるわ。でもこれから毎日同じ事が起こるけどね」


王妃様は、にこやかに微笑んだ。


「そんな…………!?」


リリスは絶望した。この苦しみが毎日続くの!?


「まぁ、今回は指輪の継承の引継ぎで、いつもより多くの魔力が必要だったのでしょうけど。寝る前に魔力回復ポーションを飲んでおけば緩和されるから安心しなさい」


これのどこに安心する要素があるのよっ!


「これで次の生贄(王妃)が現れるまで10数年は大丈夫でしょう」


!?


「私は、い、嫌です!なんとかして下さい!?」

「無理よ。そんな事ができるなら私がとっくにやっているわよ」


そうだ!

王妃様は10年以上も指輪をしていたんだ。

外せるなら外しているわよね。


「とはいえ、私もそろそろこの呪いの指輪の呪縛をツイン王国から解き放ちたいと思っていました。国王様も私を不憫に思い、この指輪について長年に渡り調べていました。馬鹿息子であるアルフを廃嫡とし、リリスさんも王妃になる事を諦めるのであればその呪いの指輪の外し方をお教えしましょう」


リリスは泣いて懇願した。


「辞退します!王妃などなりたくありません!どうかお助け下さい!」


床にうずくまり鳴き叫ぶリリスを冷やかに見つめる王妃は息子である王子に尋ねた。


「アルフよ。リリスさんはこう言っていますが貴方はどうなのですか?リリスさんを王妃に据えて、国王として生きて行くことができますか?」


アルフ王子は真っ青な顔で俯いた。

目の前で毎日、苦しむリリスをみながら、自分も力の抜ける不快感を毎日味わうと言うのは、想像しただけで耐えきれないものであった。


「…………王位継承権を破棄します。申し訳ありませんでした!」


立つことの出来ないアルフ王子はその場で土下座のように頭を下げた。


「それでは王太子を第2王子であるジークに決定します」


パンパンッと王妃様が手を叩くと、控えていた王宮魔術師達がゾロゾロと現れた。


「始めてよろしいでしょうか」

「ええ、お願い致します」


筆頭魔術師が伺いを立ててから、リリス令嬢を取囲み、呪文を唱えた。リリス令嬢の地面に魔法陣が現れた。


リリス令嬢は苦しみ出したが王宮魔術師達は呪文を止めなかった。


王宮魔術師達にとって、敬愛する王妃様が長年に渡り苦しんでいるのにどうする事も出来なかった歯がゆさと悔しさがあり、次期王妃であるシオンを貶めたリリス令嬢がどうなろうと関係ないのである。


少しすると指輪から黒い霧のような物が出てきた。


「よし!効いているぞ!そのまま詠唱を止めるな!」


ブワッと黒い霧は周囲に拡がったが、魔法陣の結界により、半円のその場から広がる事が出来なかった。


「待たせたな!」


国王陛下が入ってきた。


「国王様!」

「あなた!」


王妃様やシオンが国王様の方を見ると、王様は透明な水晶?を持っていた。


「筆頭魔術師殿!ようやく出来たぞ!間に合って良かった!これを!」


透明な水晶を王宮魔術師に渡すと、水晶に向けて別の呪文を唱えた。


水晶は輝かしい光となってリリス令嬢の結界に溶け込むと、弾かれる事なく通り抜け、内部の黒い霧を浄化していった。


「あなた!間に合って良かったわ」

「ああ、待たせて済まなかった。あの水晶は作ってからすぐに、使わないと砕けてしまうからな。朝から大変だったよ」


それで国王様がいなかったのですね。


「呪いの指輪は次の宿主に移動するこの日が1番力が弱まる日とわかった。さらに、魔力の低い者に寄生させれば、より弱まる。愛する王妃を危険にさらさなくても良いしな」


王様もリリス令嬢がどうなっても良いようでした。黒い霧が晴れると、指輪はパキッンと割れて砕けてしまいました。

メインの指輪はリリスの着けていた指輪で、アルフ王子の着けている対となる指輪も割れた。



「やったわ♪成功よ!」


王妃はシオンに抱き着き喜んだ。


結界の魔法陣の中には白髪の老婆になったリリス令嬢がいました。

呪いの指輪は負けまいと、リリス令嬢から生命力を奪っていたようでした。


アルフ王子も、力がリンクしているせいで、リリス令嬢より酷くはありませんが、おじさんぐらいの年齢になっていました。


二人は呆然として現実を受け入れられていない状態で、騎士達に連れて行かれました。


「まぁ、愚かな女に騙された罰はあれでいいだろう。アルフには辺境の小さな領地でリリス令嬢と一緒に暮らさせるとしよう」


王様はやっと肩の荷が降りたかのように爽やかな笑顔でいいました。


「本当にシオンがああならなくて良かったわ。言えなかったとはいえ、黙っていてごめんなさい」


「いいえ、お義母様が私の為を思ってやった事ですから、私は嬉しいです。こちらこそ、助けて頂きありがとうございました!」


一歩間違えば、シオンがああなっていたのだ。感謝こそすれ、恨むなんてとんでもない事でした。


「さて、シオンちゃん。アルフはダメになってしまったけど、弟のジークと婚約を結び直してもらえないかしら?ジークもシオンちゃんの事を気に入っているのよ♪」


シオンはすぐには回答できませんした。

でも、今までの王妃教育を無駄にするのも嫌だったので前向きに検討すると言って、第2王子のジークと交流を深めていく事になりました。


王妃様は解放されて嬉しく、国王様とより仲睦まじくなっていました。


「国を運営していく事は大変なんですね」

「そうね。その時の情勢によっては呪いの指輪などにも頼らないといけない場合もあるのですから」


王妃様とのお茶会でしみじみに思いながら頷くシオンでした。



こうして王家の指輪は無くなり、幾つかの問題などでましたが、その時の国王夫妻は力を合わせて問題を解決してゆき、ツイン王国は発展していくのでした。


【FIN】





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