第6話 溶けた氷の行方

スカートの裾から覗く肉感的な脚

健康美溢れるしなやかな腰のライン

張りのある頬にさらりと流れる黒髪

呆気あどけなさを残した表情かお

其処から垣間見える大人びた瞳

僅かに華奢な白い首筋

鎖骨を通り胸元へと垂れる汗

爽やかに弾け香るシトラス

なだらかに膨らむ柔らかな胸

若干の筋肉質さを含む背中や肩

なめらかな腹周り

小ぶりながらも艶めく紅い唇

引き締まりつつもふくよかさのある尻

指先と爪先に煌めく桜色の爪


いつかおとなう夢の境界線へ…

期待と不安に揺れ動きほんのり色付き始めた戀








なのにどうして…


…こうなるかな



「…ぁっ…」


其はいつも唐突に襲ってくる。

不意に沸き上がり出した熱情と初めて持ち合わせたであろう恋慕の感情…其処からじんわりと迫り来る抑えようのない欲情が綯交ないまぜになって彼女の身体に纏わりつく。

彼への独占欲に駈られて間違いを犯さぬよう、今まで言動や態度を慎重に選んできた筈だ…それなのになんでこんなっ…


充分気を付けていた筈…

そのせいなのか解らないが。


まるであの夢の続きを追うようで…

未熟なままの人魚は羞恥を置き去りにすると、あふれ出る真珠の涙を滴らせ独り小さく啼き続けた。

抑え込んだ感情が身体中を駆け巡り暴れ出す。

コントロールが効かない。


朝までは平気だったのに…

午前中の授業どうしよう…


2時間目以降に駆け込んだ保健室で独り眠る振りをしてやり過ごそうにも身動きが取れない。

このままベッドに居座り続けるのも難しい。かといって仮病で早退を選ぶのは良心が痛む。


深い溜め息をつき決心をした。

致し方ない…体調が悪化したことにして今日は早退するしか…


すると

コツコツコツ…

先程部屋を出た保健医の先生が戻ってきた。


「…さん、起きられる?少し開けますよ。」


「あっ…ちょっと待ってください。」


少女は乱れた制服の裾を急いで整え、スカーフを取り上げて首もとへ掛けるとシュッと軽く結んだ。


「すいません…大丈夫です。どうぞ。」


シャッ

「…まだ少し顔が紅いわね。熱っぽいのかしら。どう?ゆっくりでいいから起きられる?」


「あっ…はい。」


突然のことに躊躇いながらも頷く。

というのも彼女は其なりに不器用で、この手の逃げ道は使うことも珍しく…仮病等は特に苦手分野だった。どう切り出して良いのか解らない。


「荷物は担任の先生が持ってきてくれたから…保護者の方が御迎えに来られたから、今日は早退してよく休みなさいね。」


「えっ保護者?…家に連絡したんですか?」


「いいえ。貴女が朝から体調悪そうだったからって、心配してお兄さんが迎えに来られたわよ?」


「…へっ!?…兄っ…ですか?」


強烈に鼓動が高鳴る。

一体どういうことだろうか。

私に兄はいない。

ただひとつ心当たるのは…




カラカラッ…

「失礼します。」



保健室の入り口が開いたかと思うと聞き覚えのある声に息が止まった。

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