第5話 禁忌の連鎖

其は満月の夜…必ず私に降りてくる。



『…またあの夢。』



何度も見た夢。

深く眠っていた筈なのに…

濃密な夢のせいで意識は目醒める。


幼い頃から繰り返す…他人ヒトには到底言えない夢。口外することはおろか、其方の知識や経験には全く覚えのない私にどうして此のような夢が見られるのか…否、見せられているのかもしれない。

誰が何の目的で。

聞かなくても解る。

目覚めたばかりの私が着替える様をしたり顔で眺める不埒な紅玉るびーが一つ。


「モナド…あんまり見ないでくれる?」


振り返るついでに鋭く睨み付けた。


「何故?相も変わらず美しいぞ、人魚よ。しかしながら…今日は一段とご機嫌斜めだな。もしや、夢にうなされていたせいか?」


『うっ…』


「図星のようだな。」

フフンッと鼻を鳴らして私を一瞥する。

上機嫌に言い当てる紅玉るびーがいつもの数倍憎たらしく感じて放り投げてやりたくなる。


「…やめてくれない?」


「そんなに狼狽えずとも…君と彼は前世から繋がっている。安心したまえよ?」

けろりと返され拍子抜けする。

紅玉るびー…モナドの彼(?)にとっては毛程も気にならないことなのだろう。

モナド…宇宙を造り上げる無限の物質であり、数億年、数兆年の遥か昔から存在する創造力の塊。此の世界の根源を担う彼はあらゆるものを知っている。

例えそれが私の記憶の一部であろうと。

そう…何でも知っている。


『此方の気も知らないで…』

何を安心しろと言うのだろうか。

しばらく彼…天使とは顔を合わせていない。それどころか、言葉すら交わさない日々が続いている。何時いつにも増して自分のツンデレが酷くなっているのかもしれない…いや、認めたくはないのだけれど友達にそう言われてしまった。


『これは私の性格の問題だけじゃない気がするんだけど…まあ仕方ない…のか』


「いってきます…。」

紅玉るびーのいつも通りの反応に少し呆れつつ、私は部屋を出た。爪先を鳴らしてローファーのかかとを詰め、学校へと向かう。

そう…未だ高校生。真面目に学生生活をやり過ごさなくては…。



黒髪をなびかせ艶めきを増していく年頃になった少女は幾分大人び始めた…これからおとなうであろう逢瀬の連鎖に渦巻かれるとも知らず。最早、彼と出逢ってしまったのだから…運命には逆らえまい。

セーラー服で足を速める彼女の後ろ姿を紅玉るびーは不適に火糞笑みながら見送った。

天使の彼はきっと来る…もう間もなく全ての運命が交錯し、再び禁忌タブーの恋物語が幕を開けるのだ。


「さあ…忙しくなるな。」

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