第4話 煙る夜明

愛慾に濡らした身体が再び熱を放つ…人魚は天使の思惑通り湿った声を漏らす。

幾度も重なりあった肢体は互いの熱を知りつくし…絡み合う体温は水気を放って徐々に煙り、快楽の波間を漂いながら深みへと辿り着く。張りつめた下肢に孕んだ膨らみは潤いを帯び…天使が貪るための禁忌の果実へと姿を変えた。


焦がれるように触れ合い

潮の満ち引きの如く求め合う

氷のように透き通る恋慕を募らせ

鈍色だった甘露は真珠色の愛慾へと成り変わり

もやの掛かった思考のままもがけば踠くほど紅い実ははしたなく染まる

曇硝子に覗かせる僅かな嫉妬を…滑らかな肢体から吐露する度に真珠色は光沢を増す

その全てが『君』をとろけさせる


揺れ弾ける白くやわい膨らみが彼を誘う…すると請うまでもなく、色付いた薔薇の蕾は摘み取られてしまう。器用に指先で玩ぶと、今度は唇でみながら舌先を滑らせる。むず痒さと緩やかな刺激に為されるがまま、人魚は火照る身体を彼に預けるしかなかった。白堊に広がる黒髪が放射状に弧を描く。内腿を綴じようと必死に身悶える彼女の肢体を掌と舌が無尽に這い回り、為す術もなく人魚は雌の本性をあらわにされる。弛く柔く…繰り返される刺激に流れ出る糖蜜は濁り始め、其を絡めとる天使の指先が弾けそうに艶めく薔薇の蕾を酷く濡らした。人魚の唇から漏れでる声は既に理性を失い、荒ぶる息遣いと共に声高に啼くばかり。蜜色に潤む彼女の瞳…響き渡る快感の狭間で朦朧とする意識。小さな紅い唇から銀の糸が垂れ顎へと伝う。跳ねる肩に身をよじらせ、しなやかな腰元を震わせながら彼を求めようとしたが…直ぐに声を上げられる程の余裕はなかった。脱ぎ捨てられた彼女の羞恥はおざなりになっていく…天使は自身の熟れ始めたそれで人魚の蜜壺をつついては意地悪く弄び、痺れを伴うあの快楽をそう簡単には与えてくれない。絶頂には届かない触れるだけの恍惚は彼女の欲求を殊更ことさら煽り…糖蜜の絡み合う熱にらされ蜜壺の奥がひくりと疼いた。もうこれ以上堪えることは敵わない。ゆるゆると続く蜜の絡み合いに、耐え難い甘美な波が彼女の果肉を撫で理性をかどわかす。


『未だだ…俺の下で足掻き続けてくれ。』

狂気染みた感情が天使の腹の中で渦巻いていた。このまま思えようにはさせない…果実の奥底を突く激しい刺激と快感に辿り着くまで…人魚の全てを明かしてしまいたい。本能をさらけ出すまで執拗に…この手の内を游がせたい。


果肉の表層から中心まで一際ひときわゆっくりとなぞる…薄い皮膜に濁った糖蜜を滑らせながら、彼は熱で張りつめた自身の其を彼女の輪郭に沿うよう這わせていく。ぷっくりと膨らんだ果実の先端を舌先でつつくと、小さく嬌声を挙げては彼女の身体がしなる。其が面白くて可愛らしくて…高揚した彼女の頬は果実の色を映し、滑らかな肢体に零れ落ちる真珠色のぬめった欲望が腹の底をざわつかせる。

清らかだった柔肌は…華奢な肢体を取り巻く糖蜜によって淫猥な光沢に溺れていた。更に下肢はより一層…際立つ愛撫の痕跡あとを色濃く遺したまま彼女の全てをさらけ出す。滴る欲は留まることなく溢れ、蜜壺の奥深くへと誘うように彼の前へ果肉をちらつかせ、人魚は自らの細指で果実の裂目を開いた。潤んだ瞳で此方を仰ぎ見る…まるで挿入の懇願を示唆させる仕草に生唾を飲み下し唇を強く引き締める。

「はぁ…」

思わず一息漏らすと顎回りの汗を拭い去り、鋭く彼女の下肢へ視線を落とした。はやる気持ちが行為の先を越すように、自身の其を躊躇なく果肉へと滑り込ませる。浅く深く…徐々に果実へ近づくように抜差しを繰り返す。ギラついた眼差しで舌舐りをすると、貪欲なまでの深い口付けで彼女を追い詰める。濡れた舌で口内を這い回り彼女の舌を絡めとる…唾液に混じる快楽ごと吸い上げるようにじっとりと唇へ粘着させる。離す頃には鈍色の糸が幾重にも連なっていた。

今まさに、天使の眼に映っているのは限界を迎える寸前の恍惚に酔いしれる人魚の姿。その身体を伝う己の欲望は普段の冷静な彼女を見事に溶き崩しており、はだけきった胸が吐息にあわせて小さく震えると甘く蕩ける薫りで辺りを満たす…その様変りした姿が興奮に拍車を掛ける。

押し寄せる刺激の波に彼女は激しく身悶えし、喘ぐ声を抑えることなく彼の欲にまみれた糖蜜を甘受した。果実の奥を激しく突く度、湿った果肉の擦れ合う音が微かに響く。彼女の柔らかくぬめった果肉は彼の其に熱く纏わりついて、奥へと進む程に強く締め付けられた。


瑞々しくなまめく果実の紅色が蠱惑する…とうとう蒼白い月光の下に果てる人魚の霰もない姿に天使の欲情はたされていく。


満月の夜に訪れる逢瀬は

色濃く交わる夜と朝の狭間で

静かに煙り始める濃霧と共に…


愛慾に濡れ眠り着く二人の瞼はそっと綴じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る