第3話 欲にまみれた細胞

小さな息遣いが重なり合う

細く糸を垂らした鈍色にびいろが太股を伝う

其処だけ僅かに冷えながら滴り落ちる

白堊の床にぬめる一雫の甘露しろっぷ

艶を帯びた唇は微かに熱を漏らす…と密になっていた懐を緩くいでは彼の両肩に掛けていた掌をなめらかにわせ、そのまま力なく両腕に指先だけでしがみつく。崩れかけた下肢は小刻みに震え…次第に荒くなる息遣いと共に白い胸が激しく上下した。


『今宵、月満ちる頃に…』

部屋の隅からこぼれる音色…いつか流行ったピアノの伴奏と重なり合うシンセサイザーは何処か魅惑的で…機械的なシティジャズを背景にビオラが優美な旋律を歌い始める。


満月の帳に縁取ふちどられる人影が2つ…ひっそりと震える肩をすくめてはすがりつく人魚。彼女のしなやかな腰回りを片腕で支える天使は瞼をゆっくりと開く。冴えた瞳で潤んだ彼女の肢体をゆるやかになぞると、もう一方の腕を耳許みみもとへ回し指先で髪を優しくすいた。

人魚は涙を湛えた目を細めては、髪をすく彼の手にそっと触れる。小さく息をつくように少しずつ首を起こし、やがて蜜色の瞳を丸く見開いた。

レースカーテンをかすめながら窓の隙間を吹き抜ける風は清んで…月光にさらされた華奢な柔肌は、蒼白あおじろく艶めき其処だけ熱を奪われる。首筋から滴る汗が冷たい。唐突にひやりとした感覚が駆け巡り、反射的に身体が跳ね上がる。軽く持ち上がった腰に手を回され、内腿うちももから再び熱がともると身悶えをこらえるように膝を締めた。


冴えた瞳はソレを見逃さない。

すっ…と色白の手が伸びる。


内腿うちももを掴む指先に力を込められ、彼女のすがる腕は小刻みに震え始めた。ぬめ鈍色にびいろの液を指に絡ませてはなぞり、ふくよかな腿肉ももに沿って下から上へ滑らせる。

唇から溢れそうな声を噛み殺そうとするが…端々から熱い吐息が漏れるのを隠しきれず、紅色は一層艶めきを増していく。身をすくめながら再び耐えるものの…赤みを帯びて膨らむ白地の肌はへそから下へなだらかに張りつめる。柔肌越しの熟れた果肉から甘露が数滴…床を濡らした。


見かねた天使は、彼女の張りつめている臍下へそしたを指先で丁寧になぞる。柔肌を指の腹で優しくこする度、白堊の大理石に透き通る煌めきが幾重にも連なっていく。片腕で彼女を支えたまま天使は大きくかがむと、張りつめた柔肌に唇を押し当て強く吸い寄せた。彼の口付けに呼応するように、彼女の皮膚は脈打ちながらひくつきを繰り返す。今にも滴りそうな甘露を抑え込もうと必死で腿に力を入れ、キュッと内股寄りに自らを締めつけた。

足掻くこと虚しく、ついに潤んだ果肉は天使の舌先によって抉じ開けられ、溢れる寸前の甘露はぬるりと絡め採られてしまい…果肉をやんわりと柔らかな舌が這う。温かく潤んだ舌で執拗になぞられては堪えきれず…波打つ刺激に秘めていた声が漏れ始める。人魚はさながら游ぐように…しかし曖昧になる意識の下で自らを律し、控え目に身体をくねらせる。しなやかな細腰が鋭敏に震えた。



『熱いっ………』


溢れる…零れる…溺れる


身体が跳ねる度、僅かな抵抗を交えた嬌声が響き渡る…次第に甘い湿度で白堊の部屋を満たしていく。微かな二人の体温を感じられる程…至る所まで…愛撫の熱がうねりを伴って浮游する。もがくまま融解していく自らの温度にあらがいきれず甘露の海に沈む。水底のぬるく纏わりつく心地好さは、紅い果実をまれる毎に強烈なうしおへと変わり出し…天使が魅せる不敵さに似つかわしく、時折ときおり感じさせる凶悪さにちていた。


身体の奥に秘められていた愛慾が暴かれてしまう…彼の貪欲な導きに抗うことなど叶う筈もない。

人魚は成す術もなく、満ちる月の下であらわになっていく自身をさらけ出す…明け方まで続く其はまるで久遠くおんへのいざないだった。

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