第2話 Once Upon a Time

遥か昔、天帝王の息子と側近のマライカ族(頭脳明晰で大きな翼を持ち所謂いわゆる天使の姿をしている一族)が暮らす楽園があった。

天帝王は親友である龍神率いるユナタマ族(特殊能力と人を癒す歌声を持ち所謂いわゆる人魚の姿をしている一族)の保護と安寧を約束し、寵愛した。

龍神の族長である竜王は二人の愛らしい娘を設け、ユナタマ族の特異体質と美声を守ることに努めていた。やがて三人目の娘が生まれたが、その姿は竜王の亡き妃の生き写しそのもの。素晴らしい美貌と唯一無二の歌声に加え能力も未知数と、恐ろしく才覚のある姫君を授かった。

天帝王はたいそう喜び、自身の息子がマライカ族の王になる頃、その娘が竜王の玉座を受け継ぎ2つの種族が安寧の時代を築くことを大いに願った。

ユナタマ族は竜王の座を受け継ぐ際、成人の儀にて男性の姿とされるため才覚のある人魚は王族血統と見なされ、特別な寵愛と保護を受けるのである。

三人目の姫君が他のマライカ族の目に触れ、恋に落ちることを恐れた天帝王は、海の底で暮らしユナタマ族が地上に姿を現さないよう命じた。これは自身の息子・次代の王子がユナタマの姫君と接触するのを避けたためである。


ところが皮肉なことに運命の歯車は回り、二人を引き合わせ禁忌の恋へと導いてしまう。

ある満月の夜、ユナタマの姫君は海面から顔を出し月見がてらに歌を口ずさむ。

その歌声につられ、マライカの王子は側にあった木陰に潜んでいた。思わず足を滑らせ、月影に大きな翼と金の光に満ちた姿を晒してしまう。物音とその影に驚いた姫君は思わず声を上げ、言葉を交わし合う内に二人の運命は絡み始めた。

その日お互いの存在を認識し、未知なる好奇心を刺激された二人は惹かれ合う…満月の夜に合う約束とユナタマが初めて口にした木の実…その紅い果実が恋心を募らせる引き金に。


二人の逢瀬を嗅ぎ付けた竜王は警告するものの、最愛の娘に許しを与えてしまう。

とうとう天帝王に勘づかれ逢瀬を重ねた王子と姫君は捕らえられ弾劾される。更に竜王がこの事態の隠蔽に加担していたことを知り、天帝王は憤慨し両国の信頼関係は大きく揺らいだ。怒り狂った天帝王は二人の翼と鱗を剥ぎ取り命を断った…奇しくも王子と姫君を葬り去ることで世界の均衡は保たれたのである。


二人の亡骸を前に事を自責した竜王は自らを童子の姿に変え、残った二人の娘とユナタマ族だけの世界を造ることで天帝王の怒りを鎮めようと試みた。悲劇に満ちた人魚姫の死を受け竜王の心は激しくさいなまれたが、ユナタマ族を守る立場を自負し二度と悲劇を生み出さぬよう決意する…そして人魚のだけの楽園が誕生した。このユナタマ族の世界は人魚姫の流した悲恋の涙を模して硝子の天球儀となり、広大な宇宙うみを漂っている。


人魚姫の禁忌の恋によって悲壮から生まれた『真珠の涙』と、『失恋すると死ぬ』という呪いが人魚であるユナタマ一族に与えられた。

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