氷砂糖食(は)む夜
靑煕
第1話 楽園
懐かしの氷砂糖を飽くことなく眺めていた
眺めるほど透き通ってゆくようで…
月冴える夜に透明なキミを
不透明な真珠の艶めきを
呑み込んでしまいたい
街明かりと星の粒は不揃いでいて
曖昧な夜の輪郭を描くに相応しく
あの光さえ宝石に変えて
呑み込んでしまいたい
口に含んだ氷砂糖
溶けながら
少しずつ小さくなってゆく…
そんな愛しい透明なキミを
優しくガリリと噛んだ
「綺麗………美味しそう。」
背後から搾り出すような声が聞こえた。
ヒュッ…返事代わりの不機嫌を勢いよくプールへ投げ込んだ。ポチャンと僅かな音を立て、小さな煌めきがアクアブルーの世界に呑み込まれて逝く。
さよなら私の氷砂糖…たった一度唇へ触れただけの小さな曇硝子。存分に愛でながら愉しみたかっのだけれど…其すら叶わぬ程に、今…傍らの男へ煩わしさを感ぜずにはいられない。
「その羽根…邪魔なんだけど。」
濃厚な蜜色の三白眼を濡羽色の髪から覗かせて、彼女は然も不機嫌そうに返してやった。氷砂糖を逃した苦汁に顔をしかめ、鋭い歯をカチカチと鳴らす。血のように染まった小さな唇から、隣で羽根を震わす彼に苦言を吐いては溜息をつく。
「ごめん…まだ馴れなくてさ。」
絹糸のように繊細な羽根を折り畳み、彼女の声に気圧されながらも微かな声で返すと、再び生欠伸をした。
事を成した後…と言うには
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます