第2話 不穏
のどか……とは言い難い、強い日差しの中。
ふと後ろの方から、何かの気配のようなものを感じて振り返ったのだけど。
心をとてもざわつかせる何かを感じて見たものの、そこには何も居ませんでした。
水路の方に再び近づいて、ゆっくりと高楼の方へ視線をやると、水路と高楼の石垣がぶつかる隅っこのあたりで、重く苦しくなるような何かを感じた。
実際に何かが視えているわけではないけれど。
黒紫の靄のような何か・・・と感じる何かがいるような気がしました。
ボクは直観的に
「あれは良くないものだ……」と感じた。
なにかとても危険なもの感じる。
近づいてはいけない・・・と。
あたりを見回して妹を探してみると、
道路の上の段にある畑のふちで、
去年会った覚えのある、この近くに住むおじさんとおばちゃんがいて、話し込んでいた。
ボクも近づいて挨拶をする。
「こんにちは、ごぶさたしてます」
型通りの社交辞令的な挨拶を軽くかわして、水路の管理ができていないことをお詫びする。
それからこのあたりの土地の事や、最近の集落事情なんかを聞かせてもらって。
小一時間話したたくらいかで、高楼の事を聞いてみました。
するとおじさんは一瞬真剣な顔をした後。
複雑な面持ちで、
「あそこはのう…今は使われとらんのじゃ」と話してくれました。
「昔は年に一度、山の神さんに感謝をささげる祭事があっての」
「祭やなんかの時には、灯りや飾りつけをしたりして、そりゃあ村で唯一といっても良い楽しみの行事だったんじゃ」
「ただ、ある時から不吉なことが起きるようになっての」
「事故や亡くなる人も出けん、祭事は取りやめしようってことになったんじゃ」
もうずいぶん前のことらしい。
「なんで、あそこには近づいちゃいけんよ~」と優しい表情で言ってくれました。
ボクがさっき、あそこの中に入って奥の舞台まで見に行ったことを話すと。
二人の表情は再び真剣なものに変わった―――。
―――二人は少し考えこんだあと。
「ちょっと二人とも一緒に来てくれんか」という。
「とても大事な事じゃけん」と……。
おじさんとおばちゃんに連れられて、ボクと妹は村の集会所のような場所へやってきました。
そこには畑仕事を終えて休憩をしている人たちが何人かいて。
集会所の中へ入ると、エアコンもがついてるわけでもないのに不思議と涼しかった。
外の陽射しが暑すぎたのかもしれない。
おばちゃんが村の人に何かを話すと、みんな集会所の中へ集まってきて、緊急会議のような雰囲気になった。
まずは説明という事で、改めてあの場所の事について話してくれました。
昔、あの高楼は、山の神様を祭る場所だったそうです。
いつしか不審な事故や、人死にが出るようになって、だれも近づくことが無くなったのだとか。
「近づくだけでもダメなの?」っと聞くと
「どうもそのようじゃ」という……。
亡くなったのはおじさんの友人で、亡くなる前に会ったときは、何かにひどく怯えているようだったそうです。ほかにも青い人影のようなものを見たとか。
結局その人は、そのあとスグ亡くなってしまったので、詳しいことは聞けなかったらしいです。
ボクはさっき水路で感じた良くないものの感じについて話してみました。
おじさんたちは
「それならばなおさら今日は早く帰った方がええ」という。
「ケガや事故で済んだ人らは、その日のうちに村を出た人たちじゃけん」っと教えてくれた。
「山を越えて村を出るまでが、それなりに大変だったそうじゃけど。村を出てしまえば命までは取られんかもしん」と……。
事情を聞いた村の人たちもそう薦めてくるので。
「これはいよいよもって冗談ではなさそうだ」
と感じたボクは、村の人たちにお礼を述べて帰ることに決めました。
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