第5話
目的のピザ屋は近い。
予定外のイベントが発生しなければ、徒歩一時間ほどだ。
女の子を送り届けた後は順調だった。
基本は路地裏、ドローンからの指示を受けてたまに隠れたり遠回りしたが、すぐにピザ屋がある通りに到着した。
少し治安が悪いのだろう。放置されている車やロボットが増えた。そのどれもが沈黙している。最近あった政府のクリーニングの成果だろう。
『思ったより順調ね』
「言っただろ。大丈夫だって。子供の件がなきゃ、もっと安全に行けたはずだぜ」
目的地を目の前にちょっと気の抜けた会話をしていた時だった。
いきなり、近くの瓦礫が動き出した。
モーターの起動する高音と瓦礫をかき分ける轟音が辺りに響き、俺は慌てて距離をとる。
まずいことに裏路地など逃げ込めそうな場所がない。
「まだ動くのがいたのか……」
『どうしたの? 状況を教えて!」
呆然とつぶやく俺の耳に無線ごしの声が刺さる。
俺はできるだけ落ち着いて、目の前で起きている状況を伝えた。
「ショベルカーだ。いきなり起動しやがった」
残骸だと思っていたショベルカーが起動している。
龍の首のようにアームを持ち上げ、その先端をこちらに向けている。人間が乗るべき場所を場所には操作用のコンピューターが収まっていて、最上部のカメラがしっかりこちらを向いていた。
『そのまま真っ直ぐ走って! 路地に!』
「くそっ、ピザは目の前だってのに!」
指示に従って走る。本当はピザ屋の方に誘導して欲しかったが、ショベルカーに店を潰されるようなことはしたくない。
「なんで死んだふりしてるんだよ!」
『そういう個体なのかも知れないわね。獲物が来るまで静かにしてる的な』
「野生動物か!」
とにかく指示された方向に走る。 背後からショベルカーの駆動音が響いてくる。やばいやばいやばい。すぐ追いつかれちまう。
『路地、そこ!』
「うおおお!」
頭の後ろまで迫った轟音を聞きながら、ようやく見つけた路地に体を滑り込ませる。
狭い道に入った俺に反応してショベルカーは停止。アクション映画みたいにそのまま破壊して強引に突き進んでくるようなことはなかった。
ただ、カメラ部分がしっかりと俺の方を向いている。恐い。
「この辺り、人は少ないみたいだな」
『そうみたいね』
大物に追い回されたのに、周囲は静かなまま。人が逃げ出す様子もない。
最近大規模な避難でもあった地区なのかもしれない。
これなら周囲のビルも空き家だらけだろう。適当なところで一休みできそうだ。
『ここを抜けて細い道伝いに行けば帰れるわよ』
「そうだな……」
相棒からの撤退指示に、同意しかけた時だった。
携帯端末に一通のメールが届いた。
<<熱々のピザが焼き上がりました。店舗でお待ちしています>>
できたてのピザ画像付きで送られてきたメールを、俺はじっと見つめる。
「………あの重機を放っておいて、怪我人が出たら良くないな」
『ちょ、正気? 配膳ロボットとは違うのよ!?」
案内役が焦る。そりゃそうだ。
「無理はしない。ただ、一発勝負をやってみたい」
ピザを食う。この辺りの治安も守る。
その両方を実現するプランが、俺の中に存在した。
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