第4話
「そんなわけで、俺はピザ屋に向かっているんだ」
「ピザ……」
助けた女の子に自分の話を聞かせながら、俺達は路地裏を歩いていた。
カブで介入した戦いは、すぐに結着した。
まず、一台めの配膳ロボットにカブごと体当たり。
配膳用ロボットは交通事故は想定していない。吹き飛んで横倒しになり、そのまま立ち上がれなくなった。
問題はもう一台だ。配膳ロボットはすぐに目標を子供から俺に切り替えた。
対する俺は、ぶつかった直後でバランスを崩していた。
判断の時間だ。
バイクを立て直すのは諦め、その場で降車。カブを盾にするような位置取りで、ロボットの進路を防ぎ、素早く横から回り込む。
その場でこちらに振り向こうとする配膳ロボット。だが、敵がこちらを向くよりもわずかに早く、背面に取り付くことに成功。
配膳ロボットは俺の胸くらいの大きさだが、パワーは向こうが上回る。
強引に振り切られる前に、なんとか背面のメンテナンス用のパネルを探り当てて開くことに成功。
接続端子がむき出しになったそこにスタンガン押し当て、スイッチをいれた。
バチバチという音と共に、先端の金属部分が派手に放電の光を放った。
元々荒事用に作られていない機械なので、配膳ロボットはそれで止まった。
続いて最初に倒した方に近寄って、同じ場所にスタンガンを押し当てて仕事は完了。
それから呆然としていた女の子に声をかけて、彼女の家が近くにあるとわかったので案内しているところである。
残念ながらカブはその場に置き去りだ。ノーヘルな上、子供と二人乗りをするわけにはいかない。
女の子は、親と一緒に出かけた時に欲しかったゲームを見かけて、それを回収しようとこっそり抜け出していたらしい。
親はきっと心配してるだろう。しっかり怒られて、反省してもらおう。
女の子が家は新しいマンションだ。AI大異変後に作られた建物で、俺の家よりも安全性は高い。
路地裏を抜けてそれが見えてきたところで、女の子が立ち止まった。
どうも家に帰る直前で怒られるのが怖くなったらしい。
それを察した俺は、少しだけ身の上話をすることにした。
「ピザのために出歩くなんて、馬鹿みたいだろ? でも、俺にとってピザは特別な料理でな。……昔、アメリカに行ったことがあるんだ」
「アメリカ? 危なくないの?」
「今より良かった時だな。そこで食ったのが美味くてな、チラシを見たら無性に食べたくなったんだよ」
「美味しいの、アメリカのピザ?」
「色々言う人はいるだろうが、俺は好きだな」
こうして自分の短いアメリカ滞在期間の思い出話をした。主にピザの思い出だ。
アメリカの食品というと、ボリューミーなイメージが先行するが、意外と地域性がある。ピザでもニューヨークとかシカゴとか、全然別物が出てきたりもするのだ。カロリーすごいが。
現地の体験を交えながら、ピザの話をしていると、女の子に表情が明るくなってきた。
よし、そろそろ大丈夫だろう。
話の切り上げを察した女の子がぽつりと言う。
「私も食べたくなってきたな」
「今から行く店のが美味かったら、届けてやるよ」
「ほんと?」
「ああ、約束だ」
少し無責任な約束をしてから、女の子をマンションの前に連れて行った。
外の様子を見ていたのだろう。すぐに入り口から両親が出てきて、引き渡すことができた。
これで一安心。子供を怒りすぎないように言ってから、俺はその場を去った。
『私、ピザのパイナップルだけは許せないのよね』
ずっと静かだった案内役の声がいきなり発言した。イタリア人かよ。
「そうか。今度、パイナップルだらけのピザを届けてやるよ」
『本気で怒るわ』
そんな軽口を叩きながら、俺は本来の目的地へと進むのだった。
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