第3話

 道路に出たら珍しい光景が広がっていた。

 女の子がファミレスの配膳用ロボットに追いかけられている。

 ロボットの数は二台。機種そのものは珍しくないが店の外にいるのは珍しい。


 女の子は小学校低学年くらいだろうか、手ぶらで迫ってくるロボットから逃げ回っている。

 リミッターが解除されているのかロボットの動きは早い。このままでは捕まるだろう。


 子供にとって不運だったのは、ロボットにカメラがついていたことだ。カメラのない安い機種だったら簡単に逃げられただろうに。


 状況を確認した俺は考える。

 右手にはリュックから出したスタンガンがある。機械に有効であるが、使い方が難しい。

 小型で、射程距離がほとんどないためだ。

 つまり配膳ロボットにゼロ距離まで接近しなければいけないわけで、非常に危険を伴う。


 さらに配膳用ロボットというのも問題だ。防水関係がしっかりしており、電子部品が露出していない。


 子供を助けるには、ロボットにギリギリまで近づき、どうにか金属部分に接触せねばならない。

 なかなかの難題である。


 そうこうしているうちに子供が遠くに離れていく。このままでは体力が尽きて捕まってしまうだろう。その後のことは考えたくない。


『早く助けないと』

「……なんか奇襲に使えるものはないか?」


 一体だけなら力ずくでどうにかできたのに。二台だと片方を倒してる間に攻撃を受けてしまう。

 もう少し気の利いた武器が必要だ。バッドみたいな、長い得物が欲しい。


「都合良く鉄パイプでも落ちてないか?」

『使えそうなものね……あ、そこのバイクは?』

「バイク?」


 提案されたのは論外とも言える内容だった。大抵の乗り物はAIが搭載されているため、近寄るのも危険なケースが多い。


『古いタイプのバイクよ。多分、AIが乗ってないやつ』

「なんだと?」


 訝しむ俺の言葉に応えるようにドローンが飛来してきて、少し先の道路に放置されているバイクの上で旋回する。


「スーパーカブか……」


 そこにあったのは百年以上もの間、形状を変えていないバイクだった。エンジンは電気モーターになっているが、メーカーの方針もあって、人工知能は非搭載だったはず。


『調べたわ。間違いない、AI非搭載』

「問題は動くかどうかだな」


 俺は素早く道に出てカブに近寄った。最近まで動いていたのか状態が良い。綺麗だ。

 イエローゾーンのルールでは、乗り物を捨てる時はロックせず、エンジンを始動できるようにしておくことになっている。

 後はバッテリーが残っているかどうかだ。

 本体を立ち上げ、祈りながらカブの起動スイッチを押した。


 頑丈さに定評のある伝説のバイクは期待に応え、エンジンスタートのランプを点灯させた。

 バッテリーも少しはある。いけそうだ。


『どう、動きそう?』

「ああ、問題はヘルメットがないことくらいだな」


 免許は持っているからが、ヘルメットも手袋もないのは不安だ。道交法に違反してしまう。

『今はそれどころじゃないでしょ!?』


 確かにその通り、逃げ続けている子供がフラフラしていた。


 すまない、道路交通法。製造者。他、このバイクの元の持ち主など。

 心の中で色々と謝ってから、俺はアクセルをそっと入れた。


 最初はゆっくり、そのまま徐々に加速。

 歩道に入ると、そのまま真っ直ぐ、配膳用ロボットの一体に突撃する。

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