第2話

 イエローゾーンとはいうが、危険はそれほど多くない。

 ゲームなんかだったら銃器を満載した殺人マシーンが闊歩していそうな世の中だが、そんなことはない。


 そもそも日本にはAI搭載の軍用機械が少なかったこと、何故か敵対的AIも律儀に銃刀法に従うという不思議な傾向があること。その他諸々の事情で、イエローゾーンの地区なら気を付ければ命の危険は少ない。


 一番危険なのは乗り物や重機などの操縦系AIだ。パワーがあるので大怪我につながる。

 そのため、現代日本においては大通りほど危険だ。車が通りにくい細い路地こそが安全な経路になる。


 そんなわけで、アパートから出た俺は、路地から路地へと渡り歩いていた。


『そのまま真っ直ぐ。怪しいのは見当たらないわ。多分』

「多分か……いや、十分だな」


 耳に付けた無線機からの指示を頼りに、俺は進んでいた。

 頭上を見れば、少し先を小型ドローンが飛んでいる。映像を見た案内役からの指示に従って移動中だ。

 

 AIの反乱というと、この手の電子機器が殆ど通用しない世界になりそうなもんだが、案外そうでもない。イエローゾーンにいる機械はクラッキングするような機能を内蔵していない。おかげで、人間も文明に頼ることができるのだ。


「方向が逸れてるな。辿り着けるのか不安だ……」

『文句言わないの。大通り沿いは危ないでしょ」

「わかってるよ。心配なのは、ピザが冷めないかだ」

『お店が何とかしてくれるでしょ……あ、次は左ね』


 呆れ声に従いつつ、慎重に路地を歩く。

 ドローンを見た敵対的AIが集まって来ないかも心配なので、なるべく早くいきたいのだが、なかなか難しい。


 動いていると腹が減ってくる、ピザの味を楽しみに進み続け、二十分ほどが経過。


 エアコンの室外機、誰も世話をしなくなったプランター、何年も放置された置き看板、太陽光パネルの残骸などの間を進んで行くと、案内役の緊張した声が聞こえてきた。


『ストップ。そこで待って』


 真剣味を帯びた声に、大人しく従う。

 上空のドローンが軽く旋回し、俺の視界から消えた。


 なにかあったな。最悪引き返さなければならないだろう。

 その場合、先払いしたピザの代金はどうなるだろうか。

 色々な疑念が俺の中で渦巻く。


『この先で人が襲われてるわ。まずい状況』

「そうか……。逃げられそうか?」


 諦め混じりに聞く。敵対的AIに襲われた場合、最後は運の勝負になる。連中はどんどん仲間を呼ぶからだ。


 この辺りはイエローゾーンでも安全な方だから、加速度的に数は増えないだろう。しかし、通話先の彼女が「まずい」と言ったので希望は少ない。

 正直、見なかったふりをしてもいい状況だ。


『まずいのよね。子供だから逃げ切れなさそう』

「……助けに行くぞ。ナビをしてくれ」


 俺はリュックから武器を取り出し。静かかつ速やかに現場に向かった。

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