第11話 秋葉原への誘い

その夜。亮はぼんやりと深夜アニメを一人で見ながら、今日の出来事を考えた。

 同人即売会。それはアマチュアもプロも関係なく、自分が思い描いた作品を形付け、公開する場所。

 亮は今日の出来事に付いて思い出してみる。

 ……今日は楽しかった。みんなが嬉しそうに本を手に取るなんて思いもよらなかった。

 人生の中でワクワクした瞬間だ。同人誌を人々に届け、人が楽しそうにそれを受け取ること。

 芸術作品に嬉しく購入してくれる人を見ていると、自分の創作した作品に意味がある、と感心してしまう。

 芸術の意味に一歩、近づいた気がした。

 ……けれども、やはり自分には前に行く勇気がない。

 自分の数々創作した過去の作品を見て見ろ。審査員の誰も認めなかったではないか。十年間もこの業界にいるのだぞ?何一つ、人に感動できる作品を創作できたのか?

亮は自分自身を責めてしまった。


「はあ、なんで僕はこんなにも考えちゃうのだろう」


 大きくため息をすると、亮は芸術家の意味を考える。

 芸術家はいかなる時も冷静に、主観的に、物事をどうやって真っ白のキャンバスに描くのか常に考える。

 それが西園寺琢磨、天才画家、父の言葉だ。

 父の言葉を思い出し、真っ暗な部屋にテレビをつける。丁度のタイミングでアニメが放送されている。

今期話題のロボットアニメ。『勇者シリーズ轟轟轟ゴージャズ』。アニメ構成は子供向けにも見られるアニメだが、内容は少し暗く、大人にも響く。

 いまは6話まで放送している。中ボス、宇宙からの侵略者『メメント』と熱いバトルを繰り広げているシーンであったが、亮はその内容を頭に入ることはなかった。

 やはり、自分の無能さにはどうしようもなく、考えてしまったのだ。

 そんな呆けているときに、スマホからぶるぶると震えあがる。

 誰からかの通知音だと亮はスマホを取り出して、見て見る。そこにはショートメッセージが送られて来たのだ。その送り主は『クラウス』だった。


「なんだろう?」


 亮はショートメッセージの内容を開いてみる。思わず絶句した。

 メッセージ内容は難しくなく、簡潔で記載されていた。


『来週の日曜日。咲良先生と、秋葉原で同人誌めぐりやろうぜ!』


 そう。秋葉原でのお出かけ誘いだった。

 同人誌作成にも関係がない、ただの、お誘いメッセージ。

 けれど、亮はぼそっと唇先をたゆませた。

 同人作成を断ったけど、このように友人として接してくれるのはあまりにも嬉しかった。年はかなり離れている人だが、クラウスはそんなことを気にしない、優しくて、尊敬できる人だった。

 来週の日曜日の予定を見る。

 いつも通りに何もなく空いていた。

 亮は迷わずに『行きます』と返答すると、スマホの画面を閉じて目の前のアニメに集中した。

 さっきまで味気ない作品だったのに、どうしてか熱いバトルを繰り広げていて、楽しく感じていた。

 やはり、深夜アニメは楽しいものだな。これが日本の誇るサブカルチャーなんだと、亮は真っ暗の部屋に一人でアニメ観賞を楽しめていたのだ。

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