第14話 共闘

 ダンジョンの中は洞窟のような構造になっていて、岩と一体化したモンスターやコウモリのようなモンスターがたくさんいた。


 ムーランは大剣を振り回し、立ちはだかるモンスターをズバズバと斬りつつ前に進んでいる。


 狭いダンジョン内で大剣は振りにくいと思いきや、壁や地面に当たってもお構いなしだ。俺たちは後ろに飛んでくる石ころや砂塵を避けながらムーランについていった。


「ところで、鉱石ってどこにあるんですか?」


「普通はボス部屋付近にある。もうすぐ着くはずだ」


 そして薄暗いダンジョンを進んでいくと、妙に明るいところに辿り着いた。周りを見てみると、青や緑に輝く鉱石が点々と壁にくっ付いている。


「綺麗です……!」とユテン。


「どうやらこれがその鉱石のようね」とリン。


 リンたちが鉱石見てその美しさに目を奪われている時、ムーランはどこか厳しい顔をしていた。


「……そこにいるのは誰だ!」


 えっ? と思い、ムーランの見る方向へ目をやると、岩陰の後ろから見覚えのある人物が出てきた。


「……だりぃ」


「!!!!」


 俺、リン、ユテンはその人物を見て、一瞬萎縮してしまった。こいつは以前にも会ったことがある……夜叉だ!


「どっかで見た奴らだなぁ」


「リョウスケ、あいつを知っているのか?」とムーラン。


「あいつは夜叉、黒龍組の幹部です……!」


「やっぱりそうか……!」


 ムーランは魔王を倒した勇者パーティの一人だから、てっきり黒龍組には詳しいのかと思っていたが実はそうでもなかった。今の黒龍組は千年前とはメンバーが大きく違い、幹部の顔も知らないらしい。


「てめぇら、何しに来たんだぁ? 俺の邪魔するなら殺すぜぇ」


「お前には今日ここで捕まってもらう!」


 そういうとムーランは夜叉に飛びかかっていった。重そうな大剣を軽々と扱い、何度も振り回しているが、夜叉は素早い身のこなしで避けている。


 すると夜叉は何も無い空間から二つの大鎌を取り出し、両手に持った。


「はぁ……だりぃ」


 両手の鎌を頭上から同時に振り、砂埃を起こしたと思ったら夜叉の姿が見えなくなっていた。


「ムーランさん!! 上です!!」


 ガキンッ!


 上空から振り下ろされた鎌を、ムーランは大剣で防いだ。


「ケッケッケッ……やるじゃん」


「私たちも行くわよ!!」とリン。


 リンの合図と共に、ユテンは得意の強化効果魔法を発動し、俺たちの身体能力を強化させた。そして俺とリンは同時に剣を抜いて夜叉に斬りかかった。


 だが夜叉はそれも避け、俺たちから距離を取って、体をひねって鎌を構えた。


「死ね.……! ダークサイス!!」


 横に大きく振られた鎌から、黒い衝撃波が発生し、地面と水平になって俺たちに向かって飛んできた。


 するとムーランは俺たちの前に立ち、大剣を地面に突き刺した。


「立ち上がれ!! 勇敢な戦士たちよ!!」


 ムーランの声と共に地面から剣や槍を持った青く半透明の姿をした戦士が10体ほど現れ、夜叉の攻撃を防いだ。


「ムーランさんって……召喚士なんですか!?」


「いや、ちょっと違う。私は正義の心を持った戦士の魂を召喚する、戦霊召喚士だ!」


 つまり、ネクロマンサーということだろうか。だが世間一般で言うネクロマンサーは悪霊やゾンビを操るものなので、それとは少し違うようだ。


「戦士たちよ! 悪を滅ぼせ!!」


 そういうと半透明の戦士たちが、夜叉に向かって攻撃を始めた。


「アタックオーラ!!」


 ユテンに強化効果をかけられた戦士たちは奮い立ち、更に力強い攻撃を夜叉に繰り出す。


 夜叉は両手の鎌で防いだり、攻撃をしたりして、少しずつ戦士の数を減らしていった。


「あたいも行くぜ!」


 チェンは隙を見て夜叉の背後に行き、夜叉が戦士たちに気を取られている内に、ハンドガンを構えて発砲した。


 バンッ! バンッ! バンッ!


 数回の発砲音と共に放たれた銃弾は、夜叉の肌を掠めた。


「てめぇ……!」


 夜叉は鎌を大きく振り戦士たちを突き飛ばし、チェンの方へ飛んでいった。


「危ない!!」


 リンがチェンのそばまで駆け寄り、剣で夜叉の攻撃を防いだ。だが完全に防ぐことは出来ず、鎌がリンの服を裂き、浅く肌を傷つけた。


「リン!!!! 大丈夫か!!!!」


 俺はリンの方に駆け寄ろうとしたが、夜叉が鎌を構えて様子を伺っているため、迂闊には近づけない。


「リョウスケ、奴の両脇から同時に斬りかかるぞ!!」


 俺はムーランの言葉に頷き、俺とムーランは夜叉を囲むように立った。


「桃山流……閃光!!」


「ウォリアーズソード!!」


 右からは俺が高速の抜刀術を発動して夜叉に斬りかかり、左からはムーランと2人の戦士が同時に斬りかかった。


「くっ!!」


 攻撃の瞬間、夜叉は素早く上空に飛んで、それらの攻撃を避けた。だが実質一気に4人に攻撃された夜叉はすべての攻撃を捌き切ることができず、その腕には血が流れていた。


 俺たちが戦っている隙にユテンはリンのところまで駆け寄り、回復魔法を使っていた。その姿を見て俺は少し安心し、引き続き目の前の敵をどう倒すかということに集中した。


「てめぇら……ぜってぇ殺す……!」


 すると突然、夜叉の横の空間が歪み出した。


「な、何だ.……!?」


 ブゥーーーン……


 空間が突然避け、真っ暗な別次元から背の高い片眼の男が現れた。その男は黒光りしている長剣を持っていて、かなり不気味な感じがした。


「夜叉……さっさとブツを取って帰るぞ……」


「神通、俺はあいつらをぶっ殺さねぇと気がすまねぇ」


「俺たちの目的は魔解石だ……あんな奴ら、"始まり"が訪れたら勝手に死ぬ……」


「チッ……分かったよ」


 そう言うと夜叉は青や緑に輝く鉱石の中から、1番地味な漆黒の色をした石を抜き取った。


 俺たちは夜叉の行動を邪魔しようと思ったが、神通と呼ばれる男の禍々しい剣圧のせいで、その場を軽率に動けずにいた。


「黒龍組!! お前らの目的は何だ!」とムーラン。


「じきに分かる……」


 神通はその言葉を残し、夜叉と共に空間の裂け目に入り、この場から消えてしまった。


 俺たちは追いかけようとしたが、夜叉と神通が中に入ったあと空間の裂け目は閉じてしまった。


「くっ……逃がしたか」とムーラン。


「夜叉もヤバいですが、あの神通ってやつはもっとヤバそうですね……」


「ああ、戦ったらただでは済まなかっただろう。悔しいが、今はとにかく本部に帰って報告しよう」


 そうして俺たちはここに来たついでにボスを倒し、ダンジョンを消滅させた。A級ダンジョンのボスだったが、ムーランと協力して軽々と倒すことができた。さすがは元勇者パーティの一人である。


 だが、それと同時にムーランさえも簡単に倒すことができなかった夜叉や神通が、計り知れない実力をもっていることを俺は再度実感した。

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