第13話 緊急依頼
ズイ王国に戻り冒険者協会向かうと、受付嬢とナカマロが俺たちを待っていたかのように入り口に立っていた。
「リョウスケ、冒険者協会本部から招集があった。シン帝国へ向かってくれ」
「シン帝国!?」
「はい。黒龍組の件で何度か幹部と接触したリョウスケさんたち一行が、今回の緊急依頼に適切だと判断されたんです。詳しい説明はシン帝国の本部でするとのことです」と受付嬢。
「わかりました……!」
突然の招集命令に驚きつつも、俺たちはチェンのこともあって黒龍組には深い関心があったので、迷うことなく招集に応じた。
シン帝国まではかなりの距離があるが、今回は緊急招集ということで特別にワープゲートが解放されることになった。ワープゲートは帝国の認可を得たS級冒険者しか使えないが、今回は例外として俺たちにも使わせてくれるという。
だが、帰りはおそらく使わせてくれないだろうとナカマロは言った。なんて身勝手な国なんだと思ったが、帝国は昔から極端な実力主義の国なので、A級以下の冒険者に対してはあまり親切ではないという。そのため今回の任務は長期のものになる可能性が高く、今までで一番の長旅になると思われるのでしっかりと準備をしろと言われた。
その後ナカマロの案内で王宮の中に入っていき、とうとうワープゲートの前まで来た。そこには偉そうな人たちがたくさんいて、ズイ王国の王様らしき人物もいた。俺たちは初めて見る王様に少し委縮して、頭を下げようと思ったが、王様は必要ないと言わんばかりに微笑みながら首を横に振った。
そして俺たちがいざワープゲートに入ろうとすると、突然ナカマロに呼び止められた。
「シン帝国に行ったらしばらくは帰ってこれないだろう。……元気でな」
「はい、今までお世話になりました!」
ナカマロは俺の返事に対してうなずいた後、神妙な顔をしてリンに近づいてきた。
「リン……絶対死ぬなよ」
「はい……!」
リンはパーティでは唯一の異世界の現地人で、元異世界人管理局の人間だ。ナカマロとはその時からの長い付き合いであるため、父のように慕っている。リンはナカマロと別れのハグをした後、珍しくうるうると涙を浮かべていた。
こうして俺たちはワープゲートに入っていった。ゲートに入った瞬間に体が青く輝き、表面から量子化していくのが見えたが、恐怖を感じる暇もなく一瞬で見知らぬ場所へ飛ばされた。
周りを見渡すとそこはズイ王国の王宮よりもさらに豪華で、財力を誇示するかのような立派な彫刻や絵画が飾られている広い空間だった。そして正面には俺たちを待っていたかのように一人の男性が立っていた。ズイ王国では王様まで来ていたのに、シン帝国ではずいぶんと寂しいお出迎えである。
「私は冒険者協会本部長のジェルンだ。この度は招集に応じてくれて感謝する」
「俺はリョウスケです……!」
俺に続いて、リン、チェン、ユテンも少々緊張気味に名乗った。
「では早速だが、冒険者協会本部まで行こうか。何もかも唐突で申し訳ない」
そしてジェルンは時間が惜しいから積もる話は歩きながらと言い、俺たちはジェルンの後をついていった。ジェルンは現地人だが、ナカマロとは冒険者時代に一緒にパーティを組んでいた仲であり、偶に連絡を取っていたため、俺たちが夜叉と遭遇したことやチェンが黒龍組と関係があることを知っていたという。道理で俺たちが招集されたわけだ。
だだっ広い皇宮を出ると、ズイ王国とは似ているようで少し違う街並みが広がっていた。全体的な建物の色合いや雰囲気は同じが、建物一つ一つがかなりの高さを誇っている。二階や三階からは橋が伸びていて横の建物に繋がっているため、かなり立体的な風景が作られている。さすがこの異世界で最大の国といったところだ。
「リンも来るのは初めてなのか?」
「シン帝国領に入ったことはあるけど、都に来たのは初めてね。国境にすごく長い城壁があったのは覚えているわ」
「うむ、それは千里の長城だ」
話を聞くと、千里の長城はシン帝国の広大な領土をすべて囲んでいる最強の城壁だそうだ。これにより、帝国にはスライム一匹侵入することができず、仮に他国で強いモンスターが活性化しても帝国が被害を被る可能性は全くないのだという。
もちろんモンスター以外の出入国にも厳しく、本来なら数度の手続きの果てにようやく都に入ることができるというので、一瞬で行き来できるワープゲートが厳しく管理されている理由が分かった。
そんな話をしているうちに、俺たちは冒険者協会本部に到着した。さすが本部というだけあって、中にいる冒険者たちは皆強者のオーラを漂わせていて、最低でもB級という感じがした。受付で話を聞くのかと思いきや、今回は極秘の緊急依頼ということで他の冒険者のいない奥の部屋まで案内された。
部屋に入るとそこには先日別れたばかりのヒロブミとブルースがいて、その隣には大剣を背負った見知らぬ女性が一人いた。
「Yo!! また会ったな!」
ヒロブミは相変わらずの格好と話し方で、この少々重苦しい雰囲気と少しも調和していない。
ゴクウはいないのかと聞いたところ、もう有給を使い切ったため青龍の塔から出られないという。そもそも支給されたばかりの有給を一瞬で使い切るなんて、それを許可するトヨトミの優しさに感服である。
「役者が揃ったので、今回の緊急依頼について説明する」
ジェルンは急に硬い表情になり説明を始めた。
「先日ブルースからの報告を受け、黒龍組が錬金術をする疑いがあると冒険者協会も判断した。君たちにはそれを防ぐために動いてもらいたい」
錬金術というのは俺も日本にいた頃、度々アニメや漫画で見たことあった。そのためこの異世界でも錬金術は一般的なものと思っていたが、ジェルンの話しぶりからすると、なんだか少し違うような気がした。
「あの……錬金術ってそんなにヤバいものなんですか」
「そうか、リョウスケたちはまだ知らないのか。錬金術は邪悪なものを作り出す上級スキルの一つで、すべての国で禁止されていることだ。今回、我々がそれを疑うのには理由がある」
ジェルンは続けて説明してくれた。錬金術にはモンスターの素材とダンジョン産の食材と鉱石が必要ということだが、すでにその内の二つは黒龍組の手にあることは確定しているという。
なぜなら以前俺たちが倒した覚醒ニュートウの角はかなり希少なもので、売れば相当の値段になるにも関わらず、帝国の情報網をもってしてもその流通は確認されていないらしい。そして先日妲己が取っていったブリリアントココナッツについても、黒龍組がただそれを食べるためだけにゴクウを騙して取りに行ったとも思えない。
よって、俺たちには錬金術の残りの一つの素材となり得るダンジョン産の鉱石を黒龍組より早く取りに行ってほしいとのことだ。
「今、冒険者協会が確認しているダンジョンの中で鉱石が取れる可能性があるのは二カ所だけだ。君たちには二つのグループに分かれて探しに行ってもらう」
俺たちが静かに頷くのを確認して、ジェルンは続けて話した。
「ブルースとヒロブミの二人は、東のダンジョンへ。リョウスケたちとムーランは西のダンジョンへ向かってくれ」
もう一人はムーランという名前なのか思い、部屋にいた大剣を背負った女性を見ると、目があってしまった。黒のポニーテールをしたその女性は、目がキリッとしていて背が高く、ボーイッシュな感じだ。
「むむむむむっ……ムーラン!!??」
リンがとんでもなく慌てている。
「あの勇者パーティの一人の!?」
リンがそう聞くと、ムーランはこくりと頷いた。
そしていつもお上品なリンが驚きのあまり目と口を大きく開けて、変な顔で固まってしまった。
「勇者……?」
俺が質問すると、驚いているリンの代わりにジェルンが答えてくれた。
勇者とは約千年前に魔王を倒した異世界人で、その勇者のパーティメンバーの一人がムーランだという。勇者は魔王と共倒れしてしまったが、ムーランを含めた残りの3人は今でも冒険者として活動しているらしい。
「あ!! も……もしかして花木蘭ですか!?」
リンが驚いている横で、今度はユテンまで驚きだした。
「ああ。嬉しいな、私を知ってるなんて」
「まじですかーーーっ!!」
ユテンもリンと同じように目と口を大きく開けて固まってしまった。変顔のモアイ像が二つ並んでいるようである。その一方で、チェンはポカンとしている。さすが不良娘、期待にたがわず学識がない。
花木蘭。中国最強の女性であり、英雄的存在である。中国南北朝時代、北方の遊牧民族を撃退し続けた天才戦士だ。
「Yo!! リョウスケばかりずるくないか!? こっちにも女の子一人くらい分けてくれよ!」とヒロブミ。
「てめぇはそのヒゲでシコッてろ!!」
「チェ、チェン! ダメよそんなこと言っちゃ」
「そうだよ、ヒロブミ。これは遊びじゃないんだ」とブルース。
「sorry……」
ヒロブミには同郷の異世界人として同情する。原因は俺なのだが。
「ということで、早速だが二手に分かれて各ダンジョンに行ってもらう。頼んだぞ!」
ジェルンの猛々しい一声と共に、俺たちは二つのグループに分かれて出発した。
俺たちのグループの目的地は西のダンジョンだ。冒険者協会の魔法使いによって馬には高速移動の魔法が付与され、少々揺れたがいつもの三倍ほどの速さで進むことができた。
道中ではずっと気になっていた魔王の話についてムーランに聞いてみた。話を聞くと魔王というのは通り名で、実質的にはただの人間らしい。その人間の名はヘイロン、黒龍組の創設者だ。
ヘイロンは調教師としてダンジョンの魔物を操り世界征服を目論んだが、ムーランたち勇者パーティがヘイロンを倒してそれを防いだのだという。冒険者協会が黒龍組の動きにやけに敏感なのは、そういう歴史があったからだ。
そんな話を聞いている時、チェンは深刻そうな顔をしてずっと黙り込んでいた。チェン自身はマフィアの娘として育てられたが、地球の黒龍組はそこまで過激ではなく、少なくともボスである父親はとても優しい人間だったという。これからこの異世界ではどういう立ち位置でいれば良いのか、チェンもチェンなりに悩んでいるようだ。
そして出発から二日ほど経ち、俺たちはとうとう西にある名も無きA級ダンジョンに到着した。
「行こう!」
そう言うとムーランは先頭を切ってダンジョンに入り、俺たちも後に続いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます