第164話 大覚醒

 side:DianaディアナBestiaべスティア


 本当にやばいッス。レオンハルト様があの魔族に殺されるっス。


「死ねぇ人間ん! ――《氷槍アイスランス》!!」


 ほぼ反射と言っても良いくらい自然に身体が動き出し、レオンハルト様を救おうとする。横にいるアルさんも走り出してるっスけど、奴の氷の槍が予想以上に早くて追いつけるか五分五分っス……。


 こんなところでレオンハルト様が死んでしまったら、留守を任せてくれたリュークハルト様に顔向け出来ないっス……。


「間に合ってくれっス」


「レントッ!!立てッ!」


「立つのじゃ! レント!!」


 アルさんからもグロウスティア様からもレオンハルトを心配する声が聞こえるッス。

 このままじゃ間に合わないっス……。


「《獣神k》……なっ」


 せめて肉壁になろうと獣神化をしようとした瞬間、レオンハルト様が発光し、光がレオンハルト様を包んだッス。


 その間にいくつもの氷槍がレオンハルト様にうち付けられるっス。


「くっ……、間に合わなかったっス……」


「いや、ディアナよ、あれを見よ」


 アルさんの言う通り、レオンハルト様を見ると驚きの光景が広がっていた。


「なっ……。なんなんスか、あのばけもの


 先程まで満身創痍で地面にぶっ倒れていたレオンハルトの傷が癒え、仁王立ちして魔族の方を睨んでるっス……。


「キタキタキタキタァ!! 漲るぜぇ!」


「なっ……ッ! 貴様! 何をした! 今の今まで満身創痍でぶっ倒れていたでは無いか!」


「オレにもよくわかんねぇ。ただ、今のオレは発展途上かくせい中だ」


 ……明らかに先程までと雰囲気が違うっス。なんというか、種としての格が上がっているような感じっス。



 ◇


 side: Leonhardレオンハルト Vonフォン Starkスターク


 やべえ。結構ガチで死を覚悟してたんだが何故か逆に元気が湧いてきた。これは夢なのだろうか? 現実のオレは既に死んでいて、タラレバの世界か? いやもうなんでもいい。あいつをぶっ倒す。


 てか、この感覚、アニキに聞いてた進化アレとよく似ている。アニキが魔法に長けた種族である魔人に進化したならオレは武道に長けた武人といったところか。


「ニュー・レントお披露目ぇ!」


 麻袋から一瞬にして弓を取り出し、0.1秒の間に100以上の矢を放つ。


「全弾的中♪ イフリート! 《精霊憑依》」


『御意』


 ……コレコレ! 今までにない新しい感覚! 自信に刺さった100以上の矢を抜き、傷が癒え準備万端になった魔族に向けて跳躍する。


「――ッ!」


「スピード勝負だな。死ね」


 四肢、胴体を剣で一瞬にして細切れにする。


 思考が今までよりクリアになっているし、身体も軽い。明らかに自分の格が上がったのが感じる。


「ククク。覚醒しても無駄ですよ。核を潰さなければ完全には死にませんし」


「核、ねぇ。あんた、頭に魔力が集まってるみたいだが、それが核ってことでいいか?」


「ち、違いますよ? まぁ貴様には到底わからんだろうがな!」


 ……頭部に核があるらしい。隠すの下手だなこいつ。


 そうこうしているうちに魔族は地まで降りてきてオレと正対する形になる。純粋な武術で戦うのか?

 そう思った瞬間、魔族が視界から消えた。


 あぁ、わかってるよ。どうせ死角だろ? 今のオレから見えない場所……


 頭部を軽く動かし目も動かすことで最小の動きで右後ろを確認する。自身の腕を刃に変え、今にも切り裂いて来そうな魔族を視認するが、その光景に驚く。


 そう、止まって見えるのだ。比喩でもなんでもなく本当に止まっているように見える。先程まで手をやいていた攻撃が止まって見える。


 反応できない振りをして限界まで引っ張る。

 そして今にもオレに刃が触れそうな瞬間、身体を少しずらし、剣を取り出す。そしてそのまま上に振り上げ一閃。


 ――ザシュッ


 オレの剣によって腕を切断されたことにすら気付かない間に傷口を焼く。

 アニキ曰く、魔法で失われた腕を生やす時は古傷化しているものより新鮮な方が魔力を消費しなくて済む、らしい。


 腕を切られ、体勢を崩した魔族はその勢いのまま、うつ伏せになり倒れる。


「アニキがいないからと高を括って意気揚々と攻めてきたのが仇となったな。魔族」


「キ、貴様、先程までとはまるで別人では無いか……」


「うるせえよ、死ね」


 なにか言いたそうにしていた魔族であったが、核があるという頭部を貫き、更には焼き尽くしたことにより、完全に生命活動を停止させた。


「ふぅ、終わったな。悪い、心配かけた」


「……な、なんなんスか! あれ! やばいっスやばいっス!!」


「流石レオンハルトさまです。私はわかって降りましたよ」


「……言葉が出んな」


「こりゃレントに抜かれる日もそう遠くねぇな……」


「流石ですな! これならリュークハルト様にも勝てるやもしれませんな!!」


 みんな色々と褒めてくれるが、ワンダー・スタームと風の上位精霊シルフは口をあんぐりと開けて何も言えていないようだった。


 もしここにリュークハルトがいれば、「いやいや、一人だけ早送りはずるやん」と、言うだろう。この世界に早送りという概念がないので誰も口に出さないが。


「……てか、お前ら誰も殺してないじゃないか。オレも捕縛に留めた方が良かったか?」


「あれは殺して正解じゃな。転移系の魔法は実に厄介じゃ。他の者は使えぬようじゃから平気じゃが、とりあえずは皇帝に判断を仰ぐのが先決じゃな」


「そうか。まぁ、一瞬にしてこの惨状だからなぁ」


 魔族襲撃は予想できるはずもなく、いつも使っている訓練場が主戦場となってしまったが、戦いの被害はデカく、戦闘は城下の方まで気づかれてるだろうし、素早い対応が必要だ。


「とりあえず親父に話を付けてくる。残った九人の襲撃者をしっかり縛り上げておいてくれ」


「任せるのじゃ」

「わかったっス」


 この戦闘を受けて喋る気力があるのは二人だけらしい。他は頭を縦に振って肯定していた。


 とりあえず親父の所へ行こう。

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