第163話 惨敗

 side:Ryukhardtリュークハルト vonフォン Arlandoオーランド


 結局、高等部騎士科一年からは四人が第二魔法師団に入ってくれることになった。返事を急いだ訳では無いのだが、彼ら彼女らの親は帝国の、それも宮廷魔法師団に入れると言うのなら是非とのことらしい。これで中等部合わせて19人。


 そんで今日、騎士科二年を回っていたのだが、収穫はゼロ。


 嘘だろ? って思ったけど、高等部騎士科二年首席の生徒の実家は大の帝国嫌いらしく、それが学年全体に浸透しているらしい。

 ちなみに昨日断られた生徒の兄が騎士科二年首席らしい。兄弟ならば二人とも反帝国派なのもうなずける話しだ。


「明日は中等部魔法科の一年と二年を回るんだよね?」


「あぁ。ってか、シャル本当に平気か? 昨日からずっと顔色悪いけど」


「平気だよ。ちょっと寝不足が続いてて……」


「そうか。じゃあもう今日は休もうか。今日で高等部騎士科は終わったし丁度キリもいい。まだ早いが宿に戻ろ――」


「本当に大丈夫!!」


 おっと。……え? 絶対大丈夫じゃないやつじゃんかこれ。どうするのが正解?


『放置が最適解かと』


『アイ! でもよ、絶対なんかあるよ? 』


『彼女の方から打ち明けて来るのを待つべきです。主人マスターがどうしてもというのなら無理やり聞いてもいいと思いますがね』


『無理やりって……』


 絶対になにかあるはずなのだが、シャルが大丈夫と言っている以上追求するのは悪手だな。


「わかったよ。まぁ気が変わったらなんでも言ってくれ」


「ご、ごめんね。ありがとう」


 とりあえずこっちはこっちでなんかあれ言ってくれるだろうし、俺は俺のやるべきことを……。あぁなるほど。


「さ、やることやったし暇だなぁ~(棒)」


 チラッ


「……」


「なんか起こんないかなぁ~(棒)」


 チラチラッ


「……」


 ……なんもないんかい!

 元々俺の目的は第二魔法師団の人員補充でシャルはそれに同行しているだけ。自分の悩み程度で俺に迷惑かけないように気遣ってくれてんのかなって思って下手な芝居を打ってみたが、相当悩んでるのか、無視されてしまった。


 まぁ別にいいんだけどさ。


 ◇


「じゃあ部屋でゆっくり休んでて」


「うん、分かったわ。どこか行くの?」


「まぁね。先に場所の把握だけしておきたいし」


「そう。行ってらっしゃい」


「うい」



 さて。宿からでてきた俺は鑑定を発動させながら歩み始める。


「うーん、どいつもこいつも凡だなぁ。やっぱりCランク帯は幅が広いからCランク以外あまり、見つからんな。っとここ曲がるのか」


 実はシャルと共に学院の方に繰り出している間、魔法で分身体を出してアイを一時的に移植して地図を作らせていたのだが……。


「こーれ、どう見ても闇奴隷商だよなぁ」


 スラム街ほど荒れてはいない大通りから逸れているので小汚い道が続いている中、目的地へ到着する。


 周りのボロい建物に上手く溶け込んでいるそれは奴隷商。こういうところには行き場を無くした天才が多くいる。


 例えば多くの火魔法使いを排出している貴族名家に生まれた水魔法使いの天才とか。そういう人間は「火魔法こそ正義」とかほざく父親に干されて勘当。行き場もなく奴隷落ちなんてことざらにある。


 まぁほとんどの場合はなんの才能もなく生まれたせいで奴隷落ちする人間がほとんどだが。稀にいるのだ。そういう天才が。


 まぁ今例に出したのはほんの僅かな一例に過ぎないが、似たような理由で天才が奴隷落ちすることはあるということだ。ディアナとかシルフィードも多分似たような境遇なのだろう。


「誰か居るだろうか!」


「いらっしゃいませ。……おや? 子供ですか? ここがどこだかわかって来ているのかな?」


 そう言って奥から出てきた男を見て俺は少し戸惑ってしまった。


「……ヘンデュラー?」


「おや? 私のことをご存知で?」


 見た目が瓜二つだったので、咄嗟に出てしまったが、雰囲気もどこか似ているな。でも向こうは俺の事知らなさそうだし……。


「いや、どうだろうか。俺は帝国から来たのだが、帝都の奴隷商に貴殿と似た者を見たことがあってな」


「あぁ、エスカラーボのお知り合いでしたか。で、あればここがどういうところだかご存知の上で?」


「もちろん」


「そうですか。それでは我が弟の知り合いとあっては無下にも出来ませんね。貴方を客として認めます」


 随分と上からな物言いだが、あとから聞いた話だと、ここで買い物をするにはいくつか条件をクリアしていなければならないらしいのだが、帝都にいるヘンデュラーの名前を出したところ、「弟の客は無下にはできませんからね」と言われたのだ。


「そうか、それはありがたい」


「して、どのような奴隷をお探しで?」


「んー、高度な魔法を使える者、またその才能がある者、だな。俺は人の才能がわかるから、一通りここを回りたいのだが……」


「かしこまりました。しかし、そんなお客様におすすめしたい奴隷がございます」


「へぇ。聞かせてもらおうか」


「白獣人、でございます」


「白獣人……」


 ◇

 side: Leonhardレオンハルト Vonフォン Starkスターク


「貴様の相手はオレだ。裏切り魔族野郎」


「はっ。人間如きが。調子に乗るなよ」


「人間如き未満の魔族が。ほざくなよ」


 この魔族うぜぇな。出来れば早く終わらせたいのだが……。


「リュークハルト不在の帝国……。楽に落とせると思っていたが……。なるほど、貴様も中々の者、というわけか?」


「……」


 目の前の魔族問に無視し、剣を抜き走り出す。


「あぁ、ダメダメ。――爆ぜよ炎 《爆裂魔法エクスプロージョン》」


「なっ!? イフリート!!」


「承知!」


 あぶねぇ! 咄嗟にイフリートを呼ばなければ消し炭にされてたぜ……。


 ……って、どこだ?


 やつの魔法とイフリートの間で起こった軽い爆発によってやつを見失った。


 目の前にいないとなると……。


 ――キィィィン!


 死角、だな。やはりこいつもアニキと同じく転移系の魔法を使うらしい。


「なっ」


「なんじゃそれっ」


 やつの腕は何故か片刃剣のような形状をしている。……これも魔法か?


「まさか初見で読まれてしまうとは……」


「イフリート、こっちは大丈夫だ、他のサポートを……ぇ?」


「余所見しると殺すぞ人間にんげ――はぇ?」




「ふぅ、なんスかこいつら、手応えがねぇッスね」


「やはり魔族は低俗な生き物であったか。我の好敵手ライバルとなり得るのはやはりリュークハルトのみ……」


「足らん! 足らぬぞ!!」


 オレの目の前で起こっているのはただの蹂躙だった。


 大立ち回りしていたディアナとアル、グロウスティアが魔族をボコボコにしていた。


「む、獲物を取られてしまったようですな」


「私は一体を相手取るだけでもやっとだったのに……」


「まぁほぼわたくしが相手してましたけど……」


「っ! 精霊は魔族に強いんでしょ! 良いじゃない!」


 アルギメインとワンダー・スターム精霊のシルフもノルマである三人で二体を完遂していたらしい。


「皆さん、目の前の敵に集中し過ぎでしたよ。ちゃんと自分の背中は自分で守ってください」


「良いじゃないッスか~シルフィードも初っ端から暴れてたんスから」


「そうじゃ。インフェルノハリケーンは中々の良い魔法じゃった」


 な、何が起きてるんだ? 数的不利ながらもこんなにすぐ勝つって相当じゃないか?


「いーなー、ウチもレオンハルト様がやり合ってるやつとやりたかったッス」


「しかし、奴だけは明らかに格が違うのぅ」


「レントにはちと荷が重いかもしれんな。ディアナ、軽くひねり潰して来るがいい」


「勝手に取ったら怒られるっス。そう言うグロウスティアさんが殺れば良いじゃないっスか」


 な、何を言っているんだ? ディアナのやつも師匠も。こいつを圧倒できると思っているのか?


 本当に一瞬しかやり合ってるいないが、これだけは断言出来る。こいつは強い。なのに、アルもディアナも師匠も、なんで勝てると思っている?


 師匠はわかるが、そもそも、ディアナはそこまで強いのか? オレはディアナより弱いのか……?


 ◇


「お前はいつかディアナに劣る時が来るかもしれない。その時はめげずに頑張って欲しい」


「あ? オレぁ誰にも負けねぇ。アニキだってな」


「はぁ、そう言う世界線があるから言ったに……」


 ◇


 オレたちが七歳の誕生日を迎えた数日後にアニキとこんな会話をしたのを覚えてる。


 まさかのこの事だったのか?


 師匠に敵わないならまだしもディアナに負ける? オレの方が武術を長くやっていると言うのに?


「嫌だ、負けたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


 ◇

「手札を増やせ。剣術だけじゃ俺には勝てねぇよ」

 ◇


「手札……」


「ん? あいつらはこっちに参戦してこないのか? なら都合がいい。こいつだけでも殺すッ!」


 アニキは確かにそう言っていた。ならば……。


「まずはこれだな」


 アニキからもらった魔道具の麻袋から弓矢を取り出す。


 ――パァン!


 凡そ弓から出るような音では無い音が木霊し、すごい速度で矢が的に向かう。


「効かぬ!」


 その矢をいとも簡単に正面から真っ二つに縦に割る。


「これならどうだ」


 0.5秒で五連射撃。


「だから効かぬと――」


「三倍だ、バカ」


 次の0.5秒でオレは十五本もの矢を連続で放つ。


 魔族は頑張ったらしいが弾ききれなかった4本の矢がやつの身体へ突き刺さる。


「さらに倍だ」


 0.5……いや、0.6秒の間に次は三十本の矢を一気に放つ。


「すごいッス」

「なんじゃありゃ……」


 矢を放った瞬間弓をその場に落とし流れるように矢を麻袋から取り出し、踏み込む。


 放った矢が次々に魔族に刺さる中、一本の槍が魔族の心臓部に突き刺さる。


「……捕まえたぁ」


「なっ!? ファイア!」


 咄嗟に槍に炎を纏わせ後ろに引く。


 魔族が自らに刺さった矢と槍を抜くと、段々と傷が無くなっていく。


「なっ」


「ちっ、逃げられたか」


 矢の量は明らかに奴の許容量を上回っていたし、不意打ちの槍も上手くいった。心臓も突き刺した。なのに、なぜ?


 だが、無条件で回復するはずはない。何か制約があるはずだが……。


 わからん。ならば回復出来なくなるまで切り刻むまで――!!


 槍を麻袋にしまい、剣を取り出す。


「はっ」


 一気に間合いを詰めるも、中々剣の間合いに入らせて貰えず、空振りが続く。


「くっ、紙一重っ! あと少しなのに」


「調子に乗るなよ、人間。剣で魔族を殺せると思うなよっ――」


「剣がどうした?」


 剣の間合いじゃ勝てないと判断したオレは一瞬でやりに持ち替え、再びやつの心臓を突き刺す。


八岐大蛇ヤマタノオロチッ!」


 アニキ命名のよく分からん技名を口に出しながら怒涛の八連撃を行う。


 が、槍で刺されながらも後退し距離を取ろうとする魔族。


「そんなに離れたいか? なら離れさしてやるよっ!」


 浅めに刺していた槍を一気に深く刺し、手を離すと同時に間合いを詰める。


「死ねぇ!」


 身体強化のレベルを一気に引き上げ鳩尾にアッパーパンチを食らわす。すると、予定どうり空中に投げ出された魔族。


「インフェルノォォ!」


 上空に向かってオレの持てうる魔力を放出する。


「はぁはぁ、やった、か?」


 力を使い果たしたオレはその場に崩れ落ちる。


 しかし、開けてくる視界の中、無傷のやつを見つけてしまう……。


「もう無、理……」


「死ねぇ人間ん! ――《氷槍アイスランス》!!」


 魔族野郎が生み出した無数の氷の槍がオレ目掛けて飛んでくる。


 ディアナもアルも動き出してるし死にはせんだろ……


『――条件を満たしました。個体名レオンハルト・フォン・スタークの進化を開始します』

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