第159話 大漁
「……デカイな」
「帝国の学院よりも大きいかも……」
帝立学校の初等部に通っているシャルがそういうのだからそうなのだろう。見ると明らかにデカい校舎とそれよりも小さめの校舎がある。
多分、でかい方が……
「大きい方が魔法科の校舎だね」
「そうだな。魔導帝国と言うくらいなのだから魔法系に力を入れるのも納得だ」
聞いた話によれば魔法科と騎士科の生徒数はだいたい同じくらいらしい。
つまり、周りの実力者に圧倒され、自分の才に気付かず武の道に行ったものもいる可能性が高い。
実際、魔法科の中で魔法系の才能値は上澄み部分の生徒たちであればB+~A-くらいはありそうだ。
そんな、一部の超天才達を見た天才又は凡人は心が折れ、武の道に行く者もいるらしい。
今回スカウトするのは騎士科から。魔法も使ったことが無いのに超天才を見て自分には無理だと諦めた者を集める。
一度挫折を味わった者の多くは心が脆くなりやすい。一部の人間はその挫折すら糧にするがそれが出来ない奴が大半だ。今回のターゲットはその大半。
「リュートくん、悪い顔してるよ?」
「そうか? いかんいかん。治さなくてはならんな」
そう言って指を使い無理やり口角を下げる。
「うん、いい感じだね」
「よし、そんじゃ行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って。学校側に許可は取った?」
そのまま学院の敷地に入ろうとするとシャルに腕を引かれ、止められる。
「いや、取ってない」
「バレたらまずいよ。どうしよう、適当な生徒を気絶させて身ぐるみ剥ぐ?」
「おいおい、物騒すぎるぞ、シャル。こういう時は――《千里眼》」
ふむふむ。中等部の制服は白を基調とした物で、肩から腕に伸びるショルダーラインの色で学年を区別しているのか。ならば1年生になりすまそうか。
1年生の色は……青だな。
「よし、――《
「……? 何かした?」
「幻影魔法を俺とシャルに掛けた。周りから見れば俺たちは中等部一年の制服を着た一般生徒に見えるだろう」
闇魔法の一種である幻影魔法を用いて、俺たちの姿を偽ることにしたのだ。
「へぇ、幻影魔法って便利だね。でも1年生にさ、急に帝国の宮廷魔法師団に入るつもりは無いか、とか言われたら疑うよね」
「シャル、世の中には精神操作系の魔法もあってだな……」
「む、無理やり連れ帰るってこと!?」
……こいつわざとやってるだろ。すんごいニコニコしてるし。
「んなわけないだろ」
「知ってたよー、んふふー」
可愛いから許そう。
「ボケるってことは本当は理解してるってことで良いな?」
「大丈夫だよ。催眠掛けて、1年生の私たちが帝国の宮廷魔法師団に勧誘していることを異常なことだと思わせない的なやつでしょ?」
「そうだな。まぁ、中等部と高等部で合わせて30人弱人員を確保出来れば御の字だ」
俺が
「それじゃあ騎士科中等部をサクッと終わらせよう!」
「鑑定するのは俺だがな」
「頑張って! リュートくん!」
シャルは拳を胸の前で握り「頑張れ!」とか言ってるが中等部の騎士科がつまらなさそうだから脳死で応援してるよな……。
校舎内に入って初めて知ったのだが、騎士科の生徒は一クラス約20人程度でそれが5クラス(S.A.B.C.D)で別れているらしい。帝国の学園学院のクラス配分を知らないからなんとも言えないが前世の感覚からすると一学年100人は少し少ないと感じてしまう。
――ガラガラ
校舎に入って1番近くにあった教室は1-D。入ると同時に闇魔法を発動し、俺が教室に入ってきたことを疑問に思わせないようにする。
「そんじゃ鑑定っと」
「どー?」
「……よし、次」
「あ、いい感じの人いなかったんだ」
全員鑑定したが、時魔法と空間魔法、錬金魔法はもちろんF。あとは上から下まで全てCだった……。まぁこれが普通なんよ。今まであってきた人達に才能が偏りすぎてただけで。
次、1-C。今回は趣向を変えて……。
「――《
すり抜け魔法は闇魔法と光魔法の複合魔法だ。人間がすり抜け出来ない理由は電子がとか、粒子がとか、色々あって出来ないのだが、そこは魔法の力でごり押すのだ。俺が物体に触れた部分の粒子たちを思いっきり引き離し、俺の身体を構成している粒子や他成分が通れる道を作る。そうすればすり抜け魔法の完成。
一度やってみたかったんだよね、壁のすり抜け。
「おぉ、壁! すり抜けた!」
「すごいだろ。多分俺以外こんな脳筋魔法使うやついないがな」
「それで? どう? いい感じの人いた?」
「んー、一人だけいるっぽいな。槍術がC+だから騎士科に入ったのだろうが、無属性がB-、水属性がB。紛れもない天才だな」
「……リュートくんの数値聞いたあととかだと各落ち感凄いけど、一般人からは想像できないくらい天才って事だよね」
「そうだな。とりあえずマーキングしておくか」
天才くんに魔力を飛ばしてマーキングをする。休み時間になったらスカウトしに来よう。
その後1-B、1-A、1-Sからはそれぞれ一人、三人、三人と言った感じでマーキングをした。
その後全員と交渉したんだが、なんと全員が了承してくれたので、とりあえず八人確保したことになる。大漁だ。帝国じゃ考えられないな。
さすが魔導帝国の貴族の子息令嬢だ。
ちなみに、1-Cで見つけた天才くんだが、槍術がいい感じだから入ったのではなく、魔法科を諦めて来ただけで剣術を選択しているらしい。大丈夫かな、彼。
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