第158話 交渉成立
「この国を出て帝国に来ないか?」
「「え?」」
俺の言葉に驚きの声を漏らしたのはホフナーだけでなく母親のエデルガルトも、だ。
「て、帝国って、あのスターク帝国?」
「そのスターク帝国だ」
「でも、僕が行くメリットないし……」
まあ、渋るよなぁ。
「ホーちゃん、ここで話すのもなんだしお客様とお家に上がらない?」
「そ、そうだね」
お言葉に甘えて、家に上がることにした。やはりこの家は新築らしく、The新築といった匂いがした。そして部屋に案内され椅子に座りすぐに話し合いを再開する。
「ではお前にメリットを提示しよう。まず1つ目、帝国に来れば今の収入よりも多くの収入を得ることが出来る。今の収入がどんなもんだか知らんから具体的な数字は言えんがな」
「うーん、魅力的だけど収入は今のままでも十分だよ」
「だろうな。次に、設備面だ。お前が前世の知識を使って色々開発しているのは知っている。主に食事面で」
「そうだね、でも食材とかは自分で手に入るし、困っていることはないよ」
食事面で見ればそうだろう。しかし、技術面でも色々と開発しているのは知っている。先程商業ギルドにて開発物と開発者名が乗っている書類を見たのだが玉軸受、所謂ボールベアリングを作っていたりと、他にも作っていたのだ。しかし、平民の身分では工房も材料も自力で集めるのは困難だ。
「まぁそうだな。技術面でも色々と開発しているんだろう? ギルドで見せてもらったぞ。帝国に来れば開発するたまの材料等は経費として落とせる。君の開発で自分の生活を、人々の生活を豊かにしたくはないか?」
「そう、だね。でもここにいても開発事態少しづつ進められるし、みんなの役にも立てる」
「そうか」
色々と試してみるがホーフナーの反応は変わらない。しかし、その目にはなにか期待の眼差しが見える。俺の他の提案を待っているのか?
……あぁ。そういう事か。ホーフナーは賢い人間だ。ヒントは散りばめられていたじゃないか。全てを悟った俺は口角の上がりを抑えられない。
「では、地位を与えよう。母親を守ってやれるだけの地位を俺が保証する。貴族だって夢じゃない」
「すごい自身だね。まぁそれなら僕も帝国に行くのはやぶさかではないよ。もちろんお母さんがいいと言うならば」
ホーフナーはそう言ってエデルガルトに視線を向ける。
「いいんじゃないかしら。今となっては私はホーちゃんの脛をかじってるようなものだしホーちゃんが決めたことなら反対はしないわ」
「そっか。じゃあ行くよ、帝国に。でも僕に地位を与えられるほど君は偉い人なの?」
「まだ名乗っていなかったな。俺はリュークハルト・フォン・オーランド。少し前まではスタークの姓を名乗ってた。今は独立した貴族だ。あぁ、ここは帝国じゃないから俺に畏まる必要は無い」
「皇子か。それは納得だね。そちらの子は婚約者さん?」
「あぁ、そうだ。まぁこの話は今は必要ないだろう。俺たちはとりあえず約3ヶ月ほどここに留まる予定なんだがホーフナーはどうする?」
「僕は本当にいつでもいいんだけど、3ヶ月って何するの?」
「そうか。では決まったら教えてくれ。3ヶ月滞在する理由はな――」
とりあえずホーフナーにはある程度のことを話した。俺が第2魔法師団の団長であること、前任のせいで大量に団員を解雇したことを。そんで新しく団に迎え入れるなら実力が備わっている者じゃなくて才能のあるものを集めて育成しようかと思っていることを。
「才能かぁ。僕には魔法の才能がないけどリュート君はそういうのを見分けられるのかい?」
「可能だな。神眼……魔眼の様なものなんだが、鑑定することが出来て、その者の才能を見ることができるんだ」
「鑑定……。それで僕の正体を一目で看破したんだね」
「ま、そんなとこ。ちなみに、空飛ぶ箒なんてものもあるんだが、俺はこれを使えば一日と必要せずに帝国とここを行き来出来る。ホーフナーが帝国に行く時は貸してやる」
ホーフナーが箒を使えなくても、元貴族令嬢であるエデルガルトが使えるだろうし。
「ありがとう。それじゃあ僕達が帝国に行くのはリュート君達が出発する前の日にするよ」
「そうか、了解した。ではお邪魔したなエデルガルト殿。俺たちはやらなければいけないことがあるので退出させていただく。帰国する前の週には一報を入れる」
「わかったわ。ありがとうねぇ、リュートちゃん」
……ちゃん。母上と同じ臭いがするな。退散退散。
――
「それじゃあスカウト再開しようか、リュートちゃん」
「なんでちゃん呼びなんだよ。弄らないでくれ」
「あははっ、ごめんねリュートくん。それより、スカウトの基準はあるの?」
「もちろん」
スカウト条件は簡単。
無属性と他の魔法系の才能値がどれかひとつでもB-以上であること。
つまり無属性合わせた2つ以上の才能値がB-であることだ。
加えてもし冒険者ならば、冒険者のランクがB未満であること。
年齢は40歳以下であること。
才能値に関しては言わずもがな。無属性魔法は魔力の操作に影響するため必須。属性魔法も扱えるのがマストなのでB-以上は必須だ。
冒険者ランクの事だが、俺は元々冒険者は取らないと決めていたが、この国は冒険者にこそいい人材が居そうなので目を瞑ることにする。ランクB未満の事だが、直接的な表現をすると、剣士や槍士、格闘術士として冒険者をやっている人材だ。
要は自分には魔法の才能があるとも知らずに武術系でやっている者。そういう奴はだいたいCランク止まりの実力しか持っていないためだ。まぁディートリヒみたいな奴。
仮に魔法系に才能があって武術系にも才能があるような超天才が武術系で冒険者をやっているならBランク以上になっているので、スカウトはしない。そもそも武術系でやって行ける人材だし。
年齢のことに関してだが、第2魔法師団にスカウトする人材は育成することを前提としている。ある程度若い方が飲み込みが早いし、退役まで長い。そんな理由でこの年齢制限だ。
仮に才能値A以上であれば年齢問わずスカウトの対象にするが。
「とまぁ、ざっとこんな感じかな」
「ウン、リュートクンガンバッテ」
うーん、シャルが聞きなれないような言葉を多用してたくさん話したせいで理解するのを諦めちゃってるな。
「ありがとな。とりあえず街ゆく人々を鑑定しつつ、アセレア学院に行こうか」
今日行くのはアセレア学院。
中等部から高等部まであり魔法科と騎士科で別れている。時期的には既に就職活動を終えているだろうし、狙うはその下の代からだ。
中等部の者でも才能さえあれば中退若しくは帝国の学院に編入を考えて貰う。
騎士科に行く理由は先程も言った通り、自分の魔法の才能に気づいていない人材を探すため。
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