第155話 宿屋確保と新たな戦いの予感
◇
side:帝都の下級役人
この日、俺の務める役場では小さな騒ぎがあった。
理由は簡単。第三皇子殿下直筆の報告書と小太りのおっさんが急に現れたのだ。
その男は「早くこの私を解放しろ!」などと騒いでいたが、殿下の蝋封で留められている報告書には、簡単に言えば帝国領内で捕まえた悪徳商人と記載されている。
ちなみに、護衛や、商品は粉々にしてしまった旨も書かれている。
「こりゃまた、派手にあばれてますね……」
俺と共に報告書を確認していた、同期の女からは呆れに近い声を漏らす。
「第三皇子は良識のある方だと思っていたが、その辺は未だに子供のままで安心したな」
こうして、年齢のおかげで株を下げずに済んだリュークハルトであった。
◇
side:
「さて、着いた訳だが、時間も時間だし、今日は宿屋を探して寝ようか」
「そうね。今日はもう、やれることも無さそうだし、それでいいと思うわ」
俺たちは無事、魔導帝国アセレアの首都に入ることが出来、一息つける場所を探す。
まぁ俺たちの泊まる場所、もとい泊まれる場所はだいたい決まっている。俺たちが安宿に泊まるなんてことはあまり褒められる行動では無いので、できる限り高めの宿を選定する。
まぁ、高めの宿なんて、貴族街付近にたくさんあるから、そっちに行けば簡単に見つかる。
「お、ここ良さそうじゃん」
ぶらぶらと歩いていると、いい感じの宿屋を見つける。真っ白な壁は隅々まで手入れされているようで、汚れひとつない。それに、宿屋にしては珍しく5階建てだ。
通常の宿屋は二階建てか三階建て。でかくても四階建てだ。理由としては、それ以上の高さにすると、重さに耐えられなくなり、建物自体が崩れてしまうケースが続出するからだ。
よく見れば、この宿屋全体に付与魔法が施されている。効果は耐震、耐久、防腐。他にも色々付与されているが、ざっくりとこんなもん。さすが魔導帝国。付与魔法が身近にあるなんて。
――カランカラン
「いらっしゃいませ」
俺たちが扉を開けて入った瞬間、一瞬だけ受付の人が目を見開いたのを俺は見逃さなかった。「こんな子供だけで?」みたいな顔だったな。
「本日は宿泊でよろしかったでしょうか?」
「あぁ、構わない。いくらだ?」
「素泊まりでおひとり様、銀貨30枚、朝夜ご飯付きで銀貨50枚になります」
うん、高すぎる。帝都の高級宿と遜色ないぞ。素泊まりで1泊30万だなんて。一見法外な値段だが、全然そんなことはない。多分この宿、トイレは水洗式だし、部屋にバスルームもついてるはずだ。風呂なんて、貴族のものみたいなイメージだし、庶民も入れて月に2、3回。普段は川で体を洗っているらしい。
そんなことを加味すれば30万でも文句は言えない。そこに高級な朝夜のご飯20万円分。一食あたり10万円。非常に高い。
「そうか。じゃあ2人分で3ヶ月分……90日分でいっか。それを朝夜付きで頼む」
「え、あ、はい。えっと、何階がいいとかございますか?」
「値段は変わらないのだろう? どこでも構わ――」
「――5階。5階よ」
「あ、じゃあ5階で」
正直、5階なんて、昇り降りが面倒いから1階とかが良かったのだが、シャルは5階をご所望らしい。
「あ、はい。かしこまりました。それでは90日分を一括でお支払いなさいますか?」
50枚を90日分だから4500枚か……4500万円に相当するってことか。金貨ならば45枚。……そんなに金貨持ってたっけ。白金貨4枚と金貨5枚が妥当か? とりあえず異空間収納の中には白金貨と金貨は普通にいくらかあるし、それにしよう。いや……
「あぁ、一括で構わない。……これで頼む」
「……こちら、金貨5枚のお返しです」
結局俺が出したのは白金貨5枚。よって、お釣りが金貨5枚。受付の女はなにか期待するような眼差しを俺に向ける。
「……どうも。そいつはチップだ。部屋番号を教えてくれ」
「ありがとうございます♪ お部屋は503号室をお使いくださいっ! 毎朝ベッドメイキングに向かいますっ」
日本円にして約100万円をチップとして受け取った受付は嬉々として接客に励み始めた。
「じゃあ行こうか」
「うん」
こうして、高級宿屋を確保した俺らは約3ヶ月暮らす部屋へ向かうのだった。
◇
side:???
「忌まわしき人族め……。我が四天王になったからには滅亡させてくれる……」
◇
※あとがき
お久しぶりです。色々ありまして、投稿出来ずにいました。今日から投稿頻度上げて頑張ります。
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