第154話 食後の運動と到着

「随分と良いものを使っていますねぇ? この私に売るつもりはありませんか?」


 そう言って俺たちの前に現れたのは見るからに悪そうな顔に小太りな中年商人だった。なんで商人ってわかったかって? 格好が商人なんだよ。言い表せないけど。


「随分と良いもの、ね。貴様からすれ全て高価なものなのだが、どれのことを言っている? この肉? スパイス? それともコンロのことか?」


「なっ、子供のくせに随分と生意気ですねぇ。その、肉を焼いている道具と、残りの肉全て、スパイスも全て私に売りなさい。銀貨10枚で買ってあげます」


 ……何を言っているんだ? たった銀貨10枚? 日本円にして10万円相当だが、ドラゴン肉も合わせて銀貨10枚は下に見すぎだろう。それにこの世界の文明的にもBBQコンロとスパイスも相当高値で取引出来るはずだ。


「話にならんな。行こうか、シャル」


「そうだね。もうお腹いっぱいだし、行こう」


「おやおや、いいのですか? 私はスターク帝国の第三皇子と面識がございましてね。あなたのその道具、仕入先を教えていただければあなたの事も紹介致しますよ?」


「………」

「………」


 何言ってんだ、こいつ。俺はこいつと面識はないぞ? シャルこちらに目線を向けて何かを訴えているが、心当たりがないので、首を振る。


「皇子に紹介してあげますので、格安でそちらの道具をお売り頂けませんかね?」


 あぁ、なるほどね。皇子様とコネを作ってやるから、安く売れと。もしそれが本当の話ならば銀貨10枚でもお釣りが来るほどだが、詐欺となれば話は別だ。


「いや、その必要は無い。だってお前、俺と面識ないし」


「……はっ?」


「は、じゃないよ。俺はスターク帝国第三皇子リュークハルト・フォン・オーランドだ。俺はお前のことなど知らないぞ?」


「え? は? え?」


 商人は酷く動揺した様子でキョロキョロしだす。近くにキャラバンがあるし、あれがこの商人のものとみて間違いなさそうだが、かなりデカいキャラバンだな。色々と騙し取っているのか。


「お前がやっているのは詐欺罪及び不敬罪だ。俺は陛下より、勅任武官の座を賜っているから今ここでお前を処のは造作もないが、お前にはちゃんと手続きを終えた上で死んでもらいたい」


「リュートくん、どれくらい時間かかる?」


「五分ぐらいかな。待てるか?」


「わかった。じゃあ見てるね」


 なんと、シャルが見ていてくれるらしい。ならば、とりあえずこの商人を縛って……。


 ――ピキピキ


 まずは逃げられないように氷のツタをだし、商人をぐるぐる巻きにする。


「とりあえずそこで待っとけ」


「ひ、ヒィ!」


 よし、とりあえず商人の方はこれでいいだろう。


 キャラバンの方から数人、気配が感じるので、乗り込むことにする。


「どもー。……見た感じあの商人の味方か? ここに、あの商人と知り合いじゃないよって人ー。……じゃああの商人の護衛だよーって人」


 キャラバンの中にいた人達は武装した男が数人いる程度だった。おそらくあの商人の護衛だろう。しかし、誰も、彼の護衛であることを明かそうとしない。


「じゃあ質問を変えよう。あの商人のことなんて知らねぇって人」


 すると全員手を挙げた。こいつらは見る目があるらしい。多分、俺を厄介な相手だと判断して、あの商人を捨てたんだろう。

 しかし、この数ヶ月で俺の新しく開花した神眼:真実の眼により、嘘を見分けることが出来るのだが、みんな嘘つきだった。


「嘘は良くないなぁ。……でもこいつらも突き出すのはめんどくさいし……」


 正直なところ、制裁を下すのはあの商人だけで十分。共犯であるこいつらも極刑が下されるはずだが、それならばこちらで下しても問題なかろう。


 キャラバンから離れた俺は一瞬にしてキャラバンを凍てつかせ、破壊する。氷の破片となったキャラバン、及び護衛たちはその場で散らばってしまった。


「商人さん、あんた喧嘩売っちゃいかん人に喧嘩売っちゃったね」


「ひっ、ヒィ! お、お許しを!」


 なんかほざいているが今は軽く書類を作成する。


 こいつらの行った事を簡潔に纏めて、俺の、第三皇子の蝋封をしてこいつともに帝都の役所に送り込む。


 ――シュンッ


 俺の空間魔法により、商人と書類を送ると、その場がシンとする。


「結構早かったね」


「なんか、全然抵抗してこなくて歯ごたえがなかった。食後の運動にしようとしたんだけどね」


「食後の運動に、商人紛い達を殺戮するのはリュートくんだけだよ」


「それもそっか。じゃあ、ここにいる理由ももうないし、行こう」


「うん!」


 再びシャル抱えた俺は上昇する。


 ◇


 かなりスピードを出すこと数時間。


「見えてきたぞ。多分、あれがアセレアだ」


「お、あれかぁ! 魔法使いがたくさんいる気配がするね!」


 出発から実に10時間と少し。あたりも暗くなり始めた頃、ようやく到着したのだった。

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