第152話 勝利

 ――ドサッ


「ば、化け物だ」


 ヴォーグナーはその場で尻もちをつき、そんなことを言う。


「化け物って、俺の事? 酷いなぁ。俺はお前を助けに来たのに。でも、ディートリヒのやつ、容赦なさすぎるよなぁ」


「キサマも、あいつも化け物だ! それに、一体どこからやってきた!?」


「あー、俺の事貴様とか言っちゃう? それも大きい声で」


 結構やばいんじゃないかなと思いながらキョロキョロと周りを見渡し、最後にヴォーグナーの瞳を覗き込む。


「ッッ! 第3皇子殿下……」


「うんうん、よくわかってるじゃないか! でもな、魔法の戦いを知らない観客からしたら俺はすごく邪魔なんだよ。わかるだろ? せっかくクライマックスだったのに、飛び入りで変な子供が入ってきたら、観客はどう思うか……」


「お、お、俺の口から状況の説明と、降伏を宣言すれば丸く収まる……?」


「はーい、よく出来ました。それじゃあ少し待っててね」


 司会の真横に転移し、「それ、貸して」と拡声器マイクを借り、ヴォーグナーの所へ転移し、拡声器マイクを手渡す。


『あ、あー。あ、もう入ってるのか』


 初めての拡声器マイクなのか、たどたどしい様子のヴォーグナー。


『今の、最後の状況を上手く理解出来ず、興醒めしてしまった人も居るかもしれないか、俺の方から説明するので聞いて欲しい』


 その一声で、席を立とうとしていた客、既に歩き始めていた客の意識を受けることに成功している。


『最後に俺が放った魔法、炎龍之息吹フレアドラゴンブレスは本来広範囲に放つ魔法なんだ。対して、ディートリヒが最後に使っていた魔法はインフェルノ。みんながよく知るあの、インフェルノだ。それを無詠唱で行使することが出来たのだ』


 良かった。ヴォーグナーは自身の状況をきちんと理解していたらしい。わけも分からずやられていた、なんて言ったらぶっ殺してたところだ。


『範囲攻撃系の魔法じゃあ、単体攻撃系最強のインフェルノに火力勝負では負けちまう。実際、俺の炎龍之息吹フレアドラゴンブレスの火をもろともしないように、インフェルノは進み、俺の目の前までやってきた』


『しかし、咄嗟のところで、ここにいる第3皇子殿下が俺を助けてくれた。あの助けがなければ、俺は確実に死んでいた。よって、俺は降伏する』


 そう言って、俺に拡声器マイクを渡し、闘技場から去る、ヴォーグナー。


「はいこれ、返すね」


 ヴォーグナーから受けとったマイクは司会に渡し、シャルたちのいる、貴賓室に転移で戻った。


 ちなみに、ディートリヒを鑑定したら、ちゃんと炎之聖という称号があったので、ディートリヒも晴れて称号もちだ。


「おつかれ様、リュートくん」


「対して疲れてないから、平気だよ。それより行こうか」


 ディートリヒとヴォーグナーの模擬戦が終わったらすぐに出発する約束をシャルと交わしていたのだ。


「うん。行こう」


「よし、じゃあ行くか……あ、スーナーさん」


 あぶないあぶない。やらなければいけないことがあるのを忘れていた慌てて、影が薄くなっているスーナーさんを呼ぶ。


「なんだい?」


「これをディートリヒに渡して貰っても良いですか?」


「……これは手紙かい?」


「はい。それと、俺がいない間のトレーニングメニューも書いてあります。ディートリヒの成長がこの国のためになります。大役ですよ、スーナーさん」


「あははっ、わかったよ、リュート君。シャルを頼んだよ」


「はい、頼まれました」


 さて、やることはやったし、そろそろ行きますかぁ。魔道帝国!!


「シャル、もうこのまま行っても平気? 一旦戻ったりする?」


「大丈夫。全部もってるから」


「そう。じゃあ行くか。はい」


 シャルの方へ、手を伸ばす。


「うん」


 シャルはその手を躊躇いなく握る。


「クリアーダさん、留守は任せます。俺がいない間はゆっくり休んでくださいね」


「かしこまりました」


 うん。じゃあ行くか。


 ――シュッ


 ◇


 帝都郊外


 行くか、魔導帝国! とか言っといて、行ったことないかは、行きは空の旅になるんだよなぁ。


「あのー、シャルさん? この状態だと、箒に乗れないんだけど」


「ん? リュートくんが飛べばいいよ」


 シャルは俺に抱きついて離れようとしない。


「そうか、よっ」


「きゃっ」


 ハグされたままだと本当に飛びずらいので、背中と足に手を回し、持ち上げる。所謂お姫様抱っこだ。


「そんじゃ、出発だな」


「うん!」


 こうして、俺たちは、魔導帝国アセレアに旅立った。


 ◇

 ――30分後


「リュートくん、寒い」


 当然と言うべきか、まだ肌寒い季節なのに厚着もしないで上空へやってきたシャルは、本当に寒そうであった。

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