第151話 最上級魔法

side:Ryukhardtリュークハルト vonフォン Arlandoオーランド


「はっ!」


最初に仕掛けたのはディートリヒ。牽制の意を込めて軽くファイアボールを放つ。


「……」


それを棒立ちした状態で、迎え撃つヴォーグナー。その状態から、ディートリヒの物と同等のファイアボールを放ち、打ち消す。


「始まったよ!」


「あぁ。あのヴォーグナーと言う奴、かなり余裕を見せてるな」


「そうだね! でも、あの余裕、いつまで続くかなぁ」


ディートリヒの実力をある程度知っているシャルはディートリヒがこの試合に勝つと信じてやまないらしい。


「さぁな。ただ、ディートリヒが本気を出したらヴォーグナーはどこまでついていけるか見ものだな」


2人とも、火魔法を追う者同士、必然的に火魔法縛りの戦いが始まる。他の属性の魔法は使わないし、よっぽどの事がなければ、近接戦もしない。火魔法で勝ってこそ、炎之聖の称号に相応しいのだ。


「うんそうだね!」


しかし、俺たちが談笑している間にも2人の戦いは続く。


「我求む、炎よ、敵を断ち切る刃となれ。――フレイムカッター!!」


「――フレイムカッター」


――バチュン


ディートリヒの長々とした詠唱の末、発生したフレイムカッター。刃の形をした炎が相手を襲う魔法だが、ヴォーグナーは短縮詠唱と言われる、技名だけで、魔法を繰り出す技術を要している。


「ま、滑り出しはこんなもんだろ」


「ねえねえ、習の時はディートリヒさん、フレイムカッターを無詠唱で出てたよね?」


「あぁ。ディートリヒは油断を誘ってるんだよ」


「油断?」


「ああ」


特に難しい訳でもないフレイムカッターを、あえて詠唱して繰り出す事により、ディートリヒは自分の実力を隠している。こういった、魔法だけの模擬戦というのは最初は簡単な魔法を使い徐々に威力の高い魔法を使って競い合っていく。なのにこんな序盤から詠唱魔法を出すことによって、相手の油断を誘う。


「なるほどねぇ」


しかし、ヴォーグナーはこれに全く引っかかって居ないようで、警戒は解いていない。こんな序盤から詠唱魔法を使い、ヴォーグナーですら扱えないような超高度な魔法を無詠唱で出されたら対処のしようがないだろうなぁ。


「リュートくん、悪い顔してるよ」


「そうか? 飄々とした態度を取っているヴォーグナーが焦る表情を想像するだけで笑えてくる」


「そーゆーの、良くないよリュートくん」


「これは治しようがないから仕方ない」


――ドンッ!


どうやら2人の放った炎槍フレイムランスがぶつかり合い、大きな音と恐らく2人の視界を塞ぐであろう爆発が起きた。


「たぁりゃァァァァ!!」


その爆発でヴォーグナーがディートリヒを視認出来ていないことを感じ取ったディートリヒすかさず大量のファイアボールを撃ち込む。


「――炎陣フレイムエリア


しかし、ヴォーグナーは炎でドーム型のバリアを張り、ディートリヒによる大量のファイアボールを防ぐ。


「我求む! 爆ぜる炎! 爆発しろー! ――爆炎エクスプロードッ!」


――ドォォン!


「やった!?」


「シャル、それ、フラグだよ」


「ふらぐ?」


「そう。やった!? とか言ったらだいたい防がれてるから」


当然と言えば当然か、シャルのフラグを回収するように、ヴォーグナーは無傷でそこに立っていた。


「ふむ、一瞬の隙をついて攻撃を仕掛けるのは高得点だな。だが、俺には届かねぇ。――爆炎エクスプロード


「ッッ!」


ヴォーグナーが急に爆炎を放ち、ディートリヒを中心に爆発が起きる。


数秒もすれば、爆発で起きた煙は消え始め、ディートリヒの姿が見え始める。


「……咄嗟に炎陣を使用する程度には使いこなせているようだな」


「……クソっ」


どうやら全てヴォーグナーの手のひらの上のようだった。フレイムランスの衝突後、ヴォーグナーが守勢に出たのは、ディートリヒの技量の最低ラインを見極めるためだったのだろう。

それを理解したディートリヒは軽く悪態をつく。


「まんまとやられたな、ディートリヒ」


「じゃあディートリヒさんはどうするべきだったの?」


「ディートリヒは極端に攻勢に出すぎた。もう少しじっくり攻めればこうはならなかったな」


まぁこれはヴォーグナーがうま過ぎた。さすがとしか言いようがない。


「ディートリヒと言ったか。君の技術は素晴らしものだ。第2魔法師団ツヴァイ期待のホープと言わるだけはある。ただ、まぁ、経験が足らんな」


「……」


「最後に、俺の必殺技を受ける権利をやろう。……我求む。そらより舞い降りし炎龍よ、我らの敵に息吹を食らわせよ――炎龍之息吹フレアドラゴンブレス


ヴォーグナーの必殺技。それは炎龍之息吹。熱風が吹いたかと思えば、辺り一面を炎で包み、敵を炎で閉じ込める、炎系最上級の魔法と言っても過言てはない。しかし、最上級の魔法はひとつしかない訳でもなくて。


「――ハッ!」


対するディートリヒは詠唱も技名も言わずに本物の無詠唱魔法を使い、対抗する。


ディートリヒが放つ魔法はインフェルノ。炎龍之息吹が範囲攻撃系の最上級とすれば、インフェルノは単体攻撃系の最上級。炎龍之息吹の威力を一点に絞り、より強力な破壊力を有する。精密焦点光線レーザービームの炎バージョンみたいなもんだ。


「こりゃ、やばいな」


「え?」


こりゃ、やばいヴォーグナー、死ぬぞ。


俺はその場で自作ローブ取り出し、ヴォーグナーの前まで転移する。


ファサっとい音ともにローブを羽織り、魔力を通した瞬間、ディートリヒのインフェルノがこちらへ到着する。


俺のローブに触れたインフェルノは徐々に消滅していき……消える。


「ヴォーグナー、お前の負けだ。俺が守らなければ死んでいたぞ」


「……」


――ドサッ


「ば、化け物だ」

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