第150話 試合開始
「……シャル!? なんでここにいるんだ!?」
シャルは「戦うの見てもよく分からない」とか言って今日は来ない予定だったはずでは?
「お父さんが、1番いい部屋を取ったからって言って、良かったらリュートくんも一緒にどうかって言われてね」
「あ、なるほど」
今日は父上が来ないから、貴族同士で貴賓席の取り合いになり、公爵家であるヴァイス家当主のスーナーさんが権力にものを言わせて手に入れた部屋のはずだ。そのせいで俺は2番目の部屋になったわけで。でも、シャルの話を聞く限り、シャルはこのことを知らなさそうだな。
「リュートくんも一緒にってことなら、ということで私も来ることにしたの」
「そうか」
シャルが言いたいのは、「本当は来るつもり無かったけど、君がいるから来たんだよ」的なことを言いたいんだろう。ならば俺が選ぶ言葉はひとつしかない。
「俺もシャルと一緒に今日の模擬戦を見れたらなと思っていたんだ。嬉しいよ」
「そ、そうかしら? 私も嬉しいわ」
頬を朱色に染めたシャルはとても可愛かった。
「あ、あの、イチャイチャするのは良いんスけど、ここ控え室なんで、リュークハルト様は着替えて、シャーロット様はグダグダしてないで、貴賓室に行くっス」
「わ、わかったから押すなって」
「もう、ディアナちゃん、押さないでよ~」
◇
ディアナに怒られたので、ちゃんと着替えて貴賓室にやってくると、シャルとスーナーさん、ディアナと、公爵家のメイドと思われる女性が数名に、護衛が数名いた。
「おまたせしました」
「お、リュート君。急にごめんね。そちらの部屋はどうなったかな?」
「知り合いの伯爵家の方に少し安めの値段で売りました」
そちらの部屋、というのは、本来俺が使うはずだった貴賓室だ。既に予約済みで、キャンセルすると、金を取られるので、魔国に行った際、知り合いになった、ハーマンシュミット伯爵に売ったのだ。これで数少な上級貴族とのコネも作れる。
「あ、出てきたわよ!」
シャルが窓際に走りより、下を見ると、ディートリヒの姿と30代とは思えないオーラを放つ初老に見える男性。ねずみ色のローブを羽織り、頭は所々白髪が見える。30歳で聖位を持つほどなので、この立場になるまで余程苦労したのだろう。
「リュートくん、あの人のこと教えて!」
「冒険者の方?」
「そう!」
「了解。まず名前は、ヴォーグナー。あんな見た目だが、30歳を過ぎたくらいだ。得意魔法は火魔法。炎之聖の称号持ちだ。偵察段階でも、無詠唱の魔法を扱っていた」
「おぉ、無詠唱使えるんだね。ディートリヒさんも使えるよね!?」
「もちろん。偵察段階のヴォーグナーより発動速度も速いし、より高威力の魔法を出せる」
「へぇ……」
まぁ、あくまで偵察段階のヴォーグナーが比較対象なので、全力のヴォーグナーがどんな強さなのかは俺には分からない。
◇
side:
もうすぐ、聖位をかけた戦いが始まる。
リュートハルト殿下は勝てると仰ってくれたが、正直なところ自信が無い。
相手は20年近く冒険者として前線に立ち、戦ってきた男。そんな歴戦の猛者に魔法を習い始めて数週間の俺が勝てるのだろうか。殿下は俺には才能があると仰ってくれた。
今まで剣一筋だった俺に20年近くの努力を、たった数週間で上回るほど才能があるのか?
それともヴォーグナーさんはめちゃめちゃ努力しただけで本当は才能なんてないとか?
いや、この考えは失礼だ。
殿下は……あそこから観戦していらっしゃるのか。婚約者の公爵令嬢にその親である現当主もご一緒か。負けられないな。
「君か、ディートリヒという者は」
「はい、ディートリヒ・ヴァルフレーダーと申します」
「確か、
「いえ、第2魔法師団は殿下がいるから成り立っているようなものです。自分なんて、いてもいなくても変わりません」
「……それはこの俺への挑発と捉えてよろしいか?」
……あ。ヴォーグナーさんに言われて気付いた。もし俺がここで勝ってしまったら、ヴォーグナーさんはこの国には必要ない人材だ、と暗に言っているようなものだ。
「いえ、決してそんなことは」
「そうかそうか。まぁ喧嘩ならいつでも買うぞ」
恐ろしい人を敵にしてしまったなぁ。
「さぁ! やってまいりました!
「それでは、口上も済まされたようですし、始めっ!」
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