第149話 信じたもん勝ち


「いいだろう。俺も本気で闘う。――魔人化」


「やっと本気のリュークハルト様とやれるっスね」


「あぁ。ディアナも本気でこい」


「はいっス!」


あとからディアナから聞いた話だが、獣化は身体の一部または全てを自分のモデル(ディアナの場合虎)となった動物に変化させ、力を上げる技に対して、獣神化は見た目の変化は無しにして獣化よりも強い力を得ることが出来るらしい。


そんな力を持ったディアナは身体強化も併用し、今までの比にならないスピードで俺に迫る。


「たぁ!」


――ビュゥゥゥン!


「うっそ、だろ」


ディアナによる顔面パンチを間一髪で避けた俺の横をものすごい衝撃が走る。


技術で勝てないと悟ったからスピードと力勝負に出たか?


「これっス。ウチが求めてた力。まだまだいくッスよ」


「……ああ。来い!」


「な、なあ。あのメイドの方いきなり強くなってないか?」

「殿下が押され気味だぞ」

「いや、攻撃は全て避けてるぞ」

「ってか、なんで二人共ニッコニコなんだよ」


良い! めちゃめちゃ良い! スピードと力を制御するので精一杯なのか技術自体はさっきより少し落ちてるが、キレがえぐい。


これはワンチャンレント超えあるぞ。


「どぉっスカ!」


「良い。すごくいいぞ、ディアナ。俺の方はだんだん捌ききれなくなってきたところだ」


「それは良かったスけど、こっちもだいぶ消耗してるッス」


闘いながら喋るくらいの余裕はあるじゃんか。などと思いなが闘っていたが、獣神化した瞬間よりも明らかにキレは落ちている。制御に精神力を使いすぎて疲れてきたのだろう。


対する俺は、疲れこそ無いものの、身体の数箇所からは血が出ている。獣神化当初、一時的に、ディアナのキレは加速度的に伸びていた。それの対応が遅れ、手袋の効果も相まってダメージを受けてしまったのだ。


その後はディアナのキレは落ちていったので対応は楽になった。ディアナも疲れてきただろうしそろそろ終わらせようか。


「そうか。それもそうだよな。キレが落ちてる、しッ」


「ッッ!」


今までずっと防戦一方だったが、一瞬攻撃のモーションをするとディアナは警戒して後ろへ下がる。


「ちょっとビビりすぎじゃないか?」


「そりゃビビるッスよ。リュークハルト様から一撃でも貰えばウチは沈むっスから。だから、これで終わりにするッス」


そう言ってディアナは構えを取る。

左足を前右足を後ろ側に置き、左手は顔の前に。右手は握りながら腰あたりに配置。

構え的に右ストレートで勝負に来るようだが、裏をかいてキックも有り得るし、そのまた裏をかいて普通に右ストレートを出す可能性もある。


さて、ディアナならどうする? 限界突破を使って後出しジャンケンのように、ディアナの動きを見てから対応するのもありだが、それだと俺の勝ちが確定してつまらない。


「なら、賭けるか」


ディアナなんのごまかしもなく、右ストレートで勝負する。そう信じカウンターで一撃。

俺の構えはそれを悟られないよう、両腕をぶらりと下げる。


「行くっスよ」


そう言うと、ディアナは音もなく俺の前に辿り着く。いや、音速を超えてたどり着く。ディアナの踏み込みの音が聞こえた時には既にディアナの右腕が俺の顔面に肉薄していた。


そう、俺は賭けに勝ったのだ。予め準備していた回避行動に出る。


――パァァン!


ディアナの右手は俺には触れていない。しかし、どデカい音が俺の耳を揺らす。


なぜこのような音がなるのかは知らない。空気が破裂したのかもしれないし、力みすぎてディアナの拳の皮が破裂したのかもしれない。ただ俺に言えることは、この勝負に勝ったということ。


体の上半身を右側に逃がし、ディアナの攻撃から回避した後、がら空きとなっているディアナの懐に潜り込み、その体にアッパーを打ち込む。


「ウグッッ」


手袋の影響もあってか、ディアナは数センチほど宙に浮く。


宙に浮いたディアナは身動きが取れなくなる。


……ここだ。


そのまま身動きを取れないディアナに回し蹴り。


「ッッ!」


避けることも出来ないディアナは回し蹴りをモロにくらい、吹き飛ぶ。


――ドォォン!


壁にぶつかり、ディアナの周りを埃が舞う。


数秒もすれば、埃は落ち着き、段々とディアナの姿が見えてくる。


「………」


ディアナはその場に倒れて気絶していた。


「ディアナ、起きろ」


ディアナの方へ駆け寄り、声をかける。


「うぅん」


「おい、ディアナ」


「は、はいっス!」


「俺の勝ちだ」


「……そのようッスね」


ディアナは周りを見渡して自分の負けを理解したらしい。


「お、おい。最後の攻防見えたか?」

「メイドの方が突っ込んで飛んでったように見えたぞ」

「すごいなお前。俺はメイドの方が吹き飛んだことしかわらかねぇぞ」


観客たちも俺たちの前座に満足してくれたらしい。


「よし、俺らの出番は終わりだ。あとはディートリヒに任せよう」


「はいっス」


「立てるか?」


「はいっス」


自分で立ち上がったディアナと闘技場を後にし、控え室に戻る。


「おかえり、リュートくん」


「……シャル!? なんでここにいるんだ!?」

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