第147話 盛り上げ役
4日後、いよいよ、ディートリヒの晴れ舞台となる日がやってきた。
「よっ、やってるか?」
「リュークハルト様!」
訓練場に行くとディートリヒがいたので声をかけると、綺麗な碧眼を輝かせ、喜んでくれる。ディートリヒの髪色は藍色で、目の色も相まっていかにも水魔法使いだろってくらい青いのに、火魔法使いなのが個人的にはツボだ。
レントは金髪で火魔法使いだが、熱血みたいな、アツいところがあるので、火魔法使いでも腑に落ちるが、ディートリヒに至っては性格まで穏やかで、傭兵時代にはいやいや剣士をやっていたらしい。
「いよいよ今日だが、自信の程は?」
「正直言って、無いです。リュークハルト様から直々に手ほどきを受けているにも関わらず情けないですね」
「まぁ実際、向こうの方が、歴は圧倒的に上だからな。30歳超えてる冒険者だ。経験に関しては19歳のお前の数百倍は積んでいるだろう。なんせ、火魔法を使い始めて数日出しな」
ちょっと軽口を叩いて、緊張が少しでもほぐれれればいいな程度に思っていたが、見た感じ結構ほぐれてきたらしい。
「ははっ、そうですね。今回は彼の胸を借りるつもりで挑みます」
「何を言っている。経験は向こうの方が上だと言ったが才能はお前の方が上だ。数百倍程度じゃ収まらん。胸を借りるつもり? 魔帝と呼ばれる俺から直々に教えて貰っておいてそんなことを抜かすのか?」
「い、いえ! ごめんなさい、自分が間違ってました!」
あれ。ちょっとからかったつもりだったんだけど、また緊張し始めちゃったよ。
「冗談だ、じょーだん。ただ、今回のお前は挑戦者の身ではあるが、胸を借りるなんて思う必要は無い。俺と模擬戦する時と同じように、自分の全てを出し切れ」
「はい!」
とは、言ったものの、相手は努力だけで聖位まで上り詰めたヤツだ。努力の天才、なんて言葉は好きでは無いが、そんな言葉が似合うヤツだ。もう少し若くて、冒険者じゃなければぜひ
「それにしても、その剣は外さないんだな」
「まぁ。たった数年だけですけど、こいつとは色々頑張って来たので」
ディートリヒが腰にさしている剣をみやりながら言うと、感慨深そうに答える。
「そうか。ただ、実際のところ、近距離戦もある程度できる魔法使いの方が俺好みだ。その剣は外す必要は無いぞ」
「ありがとうございます」
「よし、ならばさっさと移動しよう。お前の晴れ舞台はもうすぐだ」
「はい!」
◇
ディートリヒと共に馬車に乗り込み、目的地へ向かう。その場所は闘技場。俺が序列戦を行った所だ。
一応場所を貸してもらっている立場なので、集客のために「ベテランAランク冒険者対
「よし、着いたぞ」
「は、はい」
「おいおい、もう緊張してんじゃねぇか。大丈夫だ、お前なら勝てる」
「ありがとうございます」
「……もういいですか? 早くしましょう」
既に会場に来ていたクリアーダにはディートリヒの案内をしてもらうことになっている。
ちなみに正面から入場すると騒ぎになるので裏口から入ることになっている。俺は貴賓室から見下ろす形で観戦する形になるだろう。今日は父上が観戦に来ないし、1番良い部屋を使えると思ったのだが、スーナーさんが使いたいとの事だったので譲った。俺は俺で2番目にいい所を取ったし。シャルは城で待っているらしい。「戦うの見てもよく分からないから」らしい。
今までの数回の人生で武術は叩き込んでいるはずなので、シャルの言葉は嘘であると推測できる。多分、めんどくさいとかが本音だろう。
「さて、俺はどうしようか。今から待機してても時間潰し出来ないし……」
「じゃあ、時間までウチと手合わせしてくださいッス」
「ディアナか。別にいいが、どこでやるんだ?」
ボソッと呟いた俺の背後からニュルっと出てきたディアナが提案してくれる。
「え? 普通にここの闘技場使おうかなっと思ったッスけど」
「いやいや、普通にダメだろ」
「えー? ダメなんスか? 誰も使わない時間帯なら別にいいじゃないッスか。前座としてウチらでもりあげましょーよー」
そう言いながら俺の肩に手を置き、前後に揺らす。
「わかったわかった。わかったから肩から手を離してくれ。頭がぐわんぐわんする」
「あ、ハイっす」
こうして、ディアナの提案を受けた俺はディアナと前座として闘技場で手合わせすることが決まってしまった。
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