第8章 第二魔法師団完成と魔族襲来編

第145話 スカウト開始

「あーー!」


ダイスケが帝国から去ってから数日、俺はあることを思い出し、大声を出してしまった。


「リュートくん、急になに!? 静かにして!」


「ごめんごめん」


「どうしたの? 急に大きな声出して」


「いや、ちょっとな」


実は和の国では醤油や味噌なども生産しているというのを聞いたことがあったから、それも頼もうとしていたのだが、完全に忘れていた。米を頼んでそのまま満足してしまったのだ。


「まぁ別に言いたくないならいいけど。何かあったなら言ってね?」


「あぁ。ありがとう」


シャルが出来る嫁すぎて何も言えん。


「それより、勉強は順調か?」


「うーん、どうだろうね? 算術と読み書きは完璧だから他の勉強してるんだけど……」


「なにが分からないんだ?」


「この、貴族の常識って科目がよく分からなくてね」


貴族の常識。俺も苦労した科目のひとつだ。まだ7歳の子供に大人の貴族の立ち回りや、大人の貴族たちがよく使う言い回し、考え方などが出題されるのだが……。


「まだ子供の私たちに分かるわけないじゃん」


「まぁそうなんだけどな。こういうのは気付いたら身についてるもんだよな。でも、今は教科書を読んで覚えるだけで良い。完璧に理解する必要は無い。少なくともは上辺だけで構わないと思うよ」


そう、今後大人になるにつれて、少しずつ分かればいいんだ。


「ありがとう。頑張るね」


「おう」



そんなこんなで数日後。俺はなんとスラム街に来ていた。なんでかって? 理由はひとつ。シャルがテストで満点をとったらアセレア魔道帝国に連れていくと約束したからだ。スラム街の雰囲気はかなり悪い。建物自体汚いし、地面も人も汚い。


しかし、忘れては行けないのが、アセレアには第2魔法師団ツヴァイの人員補充を目的として行く。それに、帝都ないで人員を補充し、足りない分をアセレアで引き抜くという条件で父上と約束したため、まずは帝都で人員補充をしなければいけないのだが……。


才能のあるやつが全然いない。冒険者連中の中には数人めぼしい者がいたが、冒険者をやっているやつには公務は向かないと思い、誘っていない。


しかし、傭兵ギルドにいた、剣士登録の男を誘ったりはした。どうやら自分に魔法の才能があることを知らないらしく、剣士として生きてきたが、実力は凡だったらしい。その非凡な魔法の才能が欲しかった俺はなんとか説得し、第2魔法師団ツヴァイに引き入れた。ちなみに、最初から団員として活躍させるのは周りからの反感を食らうため、研修期間とやらを設けて、育成する予定だ。


そして、スラム街に来た理由だが、スカウトする人材に目星はつけている。スラム街で窃盗をしている集団のボスだ。


どうやら、闇魔法と水魔法を使うらしい。


今回はいつもとは趣旨を変えて白ではなく黒いローブ羽織っている。


「確かこの辺、のはず」


スラム街のかなり中心部にアジトを構えているらしい。ここに来るまで色々なところから視線を感じたが、こちらを観察するような視線だったので、もう、ボスの人には話は行っているはずだ。


――ガチャ


アジトと思われる建物の扉を開ける。


「急に申し訳無いのだが、ヘルシャという者はいるかー!」


建物に入って早々、大声で呼びかける。


すると、奥の階段から降りてくる音が聞こえる。どうやら1人では無いらしい。


「おまえは、だれだっ」


なんと、出てきたの小さい女の子。小さいとは言っても俺より年上だし、12歳くらい。後ろには屈強な男が2人。まぁとりあえず鑑定するか。


 名前:ヘルシャ・マイヤー

 年齢:14

 種族:人族

 称号:スラム街の住人 闇之帝

 武術

  剣術 C

  槍術 F

  弓術 C

  体術 C


 魔法

  火 C

  水 B

  風 C

  土 C

  光 C

  闇 B+

  時 F

 空間 F

  氷 F

  雷 F

  無 B

 錬金 F


 生産

  錬金 D

  鍛治 D


 資質

  統率 B

  武勇 C+

  政治 C

  知略 C+


 ◇


ヘルシャ・マイヤーか。才能の塊だな。こりゃ慕われるわけだ。見た目が実年齢より若く見えたのはスラム街の住人だからだろう。栄養が足りてないから成長しない。だが、闇之帝という称号を持っている。相当だな。こりゃ。


「こんにちは、お嬢さん。俺の名前はリュークハルト。宮廷魔法師団ってとこではたらいてるんだ」


「へ、へぇ。それがどうした」


14才にもかかわらず、舌っ足らずなのは生まれてからずっとスラムで育ってきたからだろうか。多分字の読み書きすらできないだろう。


「実は仲間を探していてね。どうかな、貴女の力を貸して欲しいんだ」


「そ、それは無理なお願いだ。わたしには、仲間がいる」


ヘルシャの断りに後ろの男たちは何故か泣いている。なんだか気持ち悪い。


「それは、貴女がいないとそのグループが機能しないからですか?」


「そうだ。わたしがいなくてはこいつらは金もあつめられないし、なにもたべられなくなる」


「そうですか。では、前金として金貨50枚をお渡しします。それと、貴女の給料は毎月金貨50枚では足りないくらい貰えます。あと近いうちにスラムを解体しようと思ってましてね。スラム街の人達はちゃんと職を斡旋する予定なんですけれど、それでもむりですか?」


「い、いっきにたくさんゆーな。ひとつずつもういちどいえ」


どうやら、理解が追いつかなかったようで、もう一度1から丁寧に説明した。


「ふん、わるくないじょうけんだ。とりあえず金貨はもらっておく。なかまとはなしたいから、あしたまたきてくれ」


「分かりました。それじゃあ、言い返事を期待していますね」


それだけ言って俺は金貨を渡し、城に戻った。




翌日。


ヘルシャの元へ向かうと、そこはもぬけの殻だった。

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