幕間~和国からの使者~


 シャルと、全教科満点をとったら、アセレア魔道帝国に連れていくという約束をしてから約5ヶ月。

 シャルが城に初老の人間を連れてきた。


「シャル、この方は?」


「この方はダイスケ様と言って、和の国から絹糸を持ってきてくれた方よ」


 絹糸……あぁ、前にシャルが魔絹を俺にプレゼントしてくれたことがあった。確か、その時、定期的に輸入するみたいなことを言っていたっけ。


「そうか。初めまして、皇帝陛下より辺境伯の位を賜っている、リュークハルト・フォン・オーランドだ。臣籍降下する前は第三皇子をやっていた。まぁ、今も皇子として扱われているが」


 俺が自己紹介すると、ダイスケと言う者は土下座をした。


「わ、わたしの名前はダイスケと言います! まさか皇子殿下にお目通り出来るとは」


「そんなにかしこまる必要は無い、ダイスケ殿。今回は交易相手として、対等な立場で話がしたい。あと、俺のことはリュートとでも呼んでくれ。その方が呼びやすいだろ?」


「か、かしこまりました! それにしてもリュート様は和名をお持ちなのですね」


 和名って。ハーフですらないのに、和名を持ってるわけないじゃんか。


「いや、ただの愛称だ。だが、和の国っぽくていいだろ?」


「は、はい」


「まぁこんなところで話すのもアレだし、中に入ろう」


 俺はそのままダイスケと、シャルを城に招いた。ダイスケがいるので、案内する部屋は応接室だ。


「さて、今回は何用で?」


「何用って。和の国からの使者が来たら案内しろと言ったのはリュートくんでしょ?」


 あれ、そんなこと言ったっけ?


「言ってたよ!」


 うん、俺まだ何も言ってないのに。


「リュートくんの考えは手に取るように分かるよ?」


「怖い」


 本当に怖い。なんも言ってないのに心を見透かされてる感じ。


「そんなこと言わないでよ」


 そう言ってシャルは嘘泣きを始める。まぁ、放っておくとして。


「ダイスケ殿は和の国から来たということでいいんですよね?」


「はい」


「交易品の方は?」


「ヴァイス邸にあるわ。そもそもダイスケさんと交易を始めたのは私だもの。ちなみに、魔絹500kgよ」


「多いな。次からはどのくらいの量を持ってくるんだ?」


 視線をダイスケの方へ向ける。


「はい、次からは1トン持ってきます。シャーロット様より魔法の麻袋をお借りしているので、持ち運びは楽にできます」


「そうか。ならば、次から注文する品数を増やしても構わないか?」


「えぇ、きちんと買い取っていただけるのならば」


「じゃあ米。米を買いたい。あればあるだけ良い。できるだけ多く持ってきて欲しい。あぁ、最低でも30kgは欲しいな」


 30kgもあればその次にダイスケが交易に来るまでの半年間、毎食、米を食ったとしても、毎食茶碗1杯分なら、何とかなるな。まぁ、俺だけが米を食うならそれで何とかなるが、他のみんなにも食べさせてたら、30kgじゃあ圧倒的に少ない。


「さ、30kgでいいんですかい?」


「さいていで、30kgだ。100kgでも200kgでも、1トンでも構わない。我が国には米を生産する技術がないからな」


「そうですか。それでは次回からは白米も持ち込みますね。他になにか欲しいものは御座いますか?」


「特にない。ありがとう」


 まぁ実際、それ以外なんもいらないしな。


「かしこまりまし。それでは私はこれでお暇させていただきます」


 そう言ってダイスケは立ち上がる。


「あぁ、そういえば、いつまで滞在する予定だ?」


「明後日には帰国する予定でございます」


「宿は?」


「予約済みです」


「そうか」


 本当はいい宿を紹介してあげようかなとか思ってたんだが、要らぬ心配だったか。


「では最後にこれを」


 俺はそう言って豪華な短剣を渡す。


「……これは?」


「この俺が、貴殿の身分を保証するアイテムだ。金色の翼という宿でそれを見せると割引してくれるかもな。他にも豪華な商店の従業員はその短剣のことを知っている。見せれば割引してくれるだろう。活用してくれ」


「あ、ありがとうございます!」


 これは仲良くなろうという俺からの証。短剣を大事そうに抱えたダイスケは応接間から出ていった。


「リュートくん、あれ、あげてよかったの?」


 すると、シャルが近寄ってきて、話しかける。


「短剣のことか?」


「それ以外ないじゃない」


「こうやって恩を売っておけば、次回、大量に米を持ってきてくれるかもしれないからな」


「そんなことのためだけに……」


 シャルは心底呆れた様子でため息をつく。


「米のためだ。米を食べれば俺がしたことの重大さが、よく分かる。まぁ、それまで待て」


「はーい」


 そう言って、シャルも部屋を出る。そろそろテストがあるから最近はずっと勉強をしている。「頑張れよ」と言うと、「ありがと」と、返ってき来たし、今日もこうやって使者を紹介するくらい勉強には余裕があるらしい。


 この調子でぜひ頑張って欲しいものだ。


※あとがき

こんにちはお久しぶりです。この度、カクヨムコンに応募した作品を公開しています。良ければ一読ください。


「始祖龍、人里に顕現す」という作品です。よろしくお願いいたします。


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