第144話 叙爵


「やはり、お似合いの御二方だわぁ」

「シャーロット様は普段は凛としていてかっこいいのに殿下とご一緒の時は女性らしくてとても可愛いですわね!」

「はわぁぁ」


 俺とシャルが腕を組んで、パーティーの会場に入場した時、少し場が騒がしくなった。と、言っても、騒がしくしたのは学園に通う、初等部の生徒、それも1年生が大半だ。

 学校でのシャルを知っている彼ら彼女らは今のシャルとギャップを感じているらしい。


 シャルが着ているのはかなりタイトなドレスで、腰の辺りがギュッと閉まっているやつだ。周りを見ればみんな似たようなドレスを来ていて、どれも腰の辺りがキュッと締まっている。


 さっき、着付けを手伝ったのだが、ドレスの下にコルセットを着用してめちゃめちゃ腰を締めているのだ。コルセットの紐を引っ張って、手伝ったのだが、普通にキツそうで、来たくはないなと思った。


 白を基調としたドレスで、魔絹で作ったものだ。そこにところどころ青色のアクセントを加えることによって、シャルの良さがとても際立っている。


 対して、今回の俺の服装はそこまで華やかなものではなく、藍色メインの少し落ち着いた色の正装をしている。さすがに宮廷魔法師団の制服にローブなんて格好はここではできない。

 しかし今回の主役でもないのに、色の派手な服を着ると少し場違いな気がしたので、魔絹を染色して作ったのだ。


 そしてその俺に続く形でハーゾッグ嬢を伴ったジーク、イーファル嬢を伴っレント、エレオノーラ嬢を伴ったライトが入場してきた。


 イーファル嬢とハーゾッグ嬢は新顔なだけあって注目を浴びている。エレオノーラに関しては色々なところから声が上がっている。


 おそらく誰もエレオノーラとライトがデキていることに気が付かなかったのだろう。学園でも言いふらしたりしていないのか、知っている者は本当に少ないようだ。


 学園の初等部で多分かなり有名なエレオノーラの婚約者がライトであることは知られておらず、同学年の者に収まらず、上の学年の者たちですら驚いていたほどだ。それほど知名度があるのだろう。女子からはきゃーきゃーした歓声、男からはワンチャン狙っていただけに恨めしい声が聞こえてくる。


 エレオノーラってかなり人気なんだなぁなんて思っていると、最後に父上が入ってきた。


 途端に会場は静かになる。


「今回はよく集まってくれた。もったいぶるつもりは無い故、早速始める。ジークハルト、レオンハルト」


 名前を呼ばれた2人はその場で止まり、俺とライトはそのまま歩みを進め、周りの貴族たちと同化する。


「皆も知っているであろうが、この度4人の皇子が聖王国へと出向いた。そしてそのうちふたりが聖王国の公爵令嬢と婚約を果たした。それにより、聖王国とはより強固な関係が生まれた」


「おぉ」

「これで東側は安心であるな」

「さすがはレオンハルト様とジークハルト様だ」


 周りからは2人をよいしょする声が上がる。


「おい、どっちもかわいいじゃねぇか」

「皇子ってのはいいよなぁ。学園に来ないでかわいい女を探しに行くなんてよ」

「こんなことなら俺も皇族に生まれたかったぜ」


 対して、学園に通う、男子たちからは不満の声が漏れる。こちとらちゃんと試験受けて特待生として授業が免除されてんだ。何も言われる筋合いはないと言うのにな。


「はっ、馬鹿どもがほざいてるな。こんなところで堂々と皇族の悪口を言うなんて、多分成績も悪いんだろうな。てか、成績だけじゃなて顔も悪くね?」


 俺は普通に小さい声で喋った。隣にいるシャルに聞こえるか聞こえないかくらいの本当に小さい声で。そしてその声を風魔法で風に乗せ、当事者たちの耳へ届ける。


 そして、その声が聞こえたのか、鬼のような形相で辺りを見渡す。こんなところで大きい声を出せないので必死に周りを見渡している。

 そして俺と目が合う。


 向こうは何度か目をそらすが、チラチラとこちらを見る。おそらく犯人が俺だと気づいたのだろう。


 そして気まずそうにこちらを向いた瞬間、ニヤリと嗤い、殺気を飛ばす。


 まぁそこまで強くない殺気だったために、その場でへたり込むことはなく、チビりそうになっている股間を必死に抑えながら俺から距離を取っていた。


「くくっ、滑稽だな」


「リュートくん、全部見てたよ」


「しゃ、シャル……」


「ああいうのは後から陰でボコボコにするのがいいと思うよ」


「こら、そういうこと言っちゃダメでしょ」



「次に、レオンハルト、イーファル嬢」


 そうこうしているうちに、ハーゾッグ嬢とイーファル嬢の紹介が終わったらしく、レントが再び名指しされていた。


 そのタイミングでハーゾッグ嬢、ジークはその場から捌ける。


「此度は盗賊団、カプディーブの討伐よくやった。褒めて遣わす」


「はっ」

「ありがたき幸せ」


 その場でレントとイーファル嬢は膝を着く。本当はディアナとシルフィードも一緒に戦ったのだが、奴隷を褒めるほど皇族の立場は低くないらしい。

 これはディアナ達を奴隷から解放した方がいいのかな……。なんて思ってしまう程奴隷の扱いが雑なんだよな。多分父上はそんなこと気にしないだろうけど、他の貴族がいる手前、奴隷を大々的に表彰するのは良くないらしい。


「カプディーブ? なんだそれ」

「最近東側を拠点にして勢力を伸ばしていた盗賊団だ」

「あのカプディーブを討伐したのか!?」

「しかし、位置的には帰国途中に討伐したということだよな……」


 貴族たちが再びザワザワしだす。そもそもカプディーブを知らない者もいるようだが、レント達の印象は上向きだ。


「今回の遠征の件、全てを加味し、レオンハルト・フォン・スタークを子爵位に叙する」


 これはレントが臣籍降下したことを意味した。


 そして、身内では皆、理解していた、皇太子レース。俺とレントは皇帝にはなる気がないので皆はライトか、ジークが皇太子になると理解わかっていたが、事情を知らない貴族たちは少し前に貴族位をもらった俺はおろか、レントすら皇太子レースをひたら知っていると勘違いしていた輩は慌てて、ジーク派閥とライト派閥に入ったらしい。




 ◇

 ※あとがき

 一応、聖王国編はここで終わります。そして、現在新作の構想を考えているところなので、「超器用富豪」の更新頻度が少し落ちますので、ご理解をお願い致します。

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