第143話 育成方針とデレ
「うーん、迷うな~」
自室に戻った俺は椅子に腰かけ、椅子の前足を浮かし、後ろ足だけでゆらゆらとバランスをとりながら考えていた。
考え事の内容はカールハインツの育てかたについてだ。槍術1本で育てるのもいいが、やつにはオーランド家の騎士団長を務めてもらいたい。
統率の才能がBもあったのだ。そう簡単にあの才能を超える逸材は出ないだろう。
だから槍術と並行して統率を鍛えてやりたいのだが、軍の統率なんて取ったことないから教えようがないのだ。
もし仮に統率のノウハウが俺にあったとしても、どれくらいの塩梅で槍術と統率を鍛えるかが問題になるのだが。
「そんなに難しい問題なの?」
「んー、まぁ。俺が考えすぎなだけかもしれないが、カールハインツの育成に関しては失敗できない」
俺のベッドに腰掛け、ヴォルを膝の上に乗せて撫でているシャルを尻目に答える。
いいなぁ、ヴォルそこ変わってくれや。なんて思っているとヴォルは「キュゥン」なんて鳴きながらシャルの手に自分の頭を擦り付ける。解せぬ。
「でもディアナちゃんとシルフィードちゃんは成功してるじゃない。2人とも将来は大物になるよ。リュートくんと、レオンハルト様に並んでね」
「アイツらとは勝手が違うんだ。あの二人はただ強く育てるだけでいいのに対してカールハインツはそれだけではいけない。安心させようと褒めてくれるのはありがたいが、今回ばかりは難しいんだ」
「そう」
それだけ言うと興味を無くしたかのようにシャルはヴォルに向き直り撫で続ける。
なんだかあれに似ているな。ゲームでいろいな可能性を秘めるレアキャラをゲットした時にどうやって育てようか迷ったものだ。前世ではネットで調べて自分に合った方向性で育てたり、ミスったらセーブしないで消して途中からやり直したり出来たが、ここはインターネットなど使えないし、過去には戻れない。
いや、正確には戻れるが、どうなるのか分からなのが現状だな。物の時間の流れを止めたり早くしたり、逆に遅くしたり、または過去に戻したり。そんなことは可能だが、俺自身を過去に送るとかはやったことがないからどうなるのかが分からないのだ。
まぁそんな訳だから、カールハインツの育成は慎重に行わなければいけない。とりあえず今のうちは槍術に集中してもらおう。槍之王くらいの称号は得て欲しい。
「そうだ、シャル。近いうちにまた、他の国に行くかもしれない」
「そう。それで?」
「いや、一応伝えておうかなって思っただけだ」
……なんか拗ねてる? 多分早く私も誘えよみたいな感じなんだよなぁ。でもシャルは学園に行かなきゃいけないし、休学にしてまで連れていくほどのものでもない。だから無理には誘えないのだが……。
「ちなみに、なんでまた、外国に行くのよ」
「
「具体的にはどこに行くの?」
「まぁ、帝都でスカウトを終えて次に魔道国家、アセレア魔道帝国に行く予定だ」
「そう」
それだけ言うと、シャルは俯いてソワソワしだす。連れて行ってあげたいのは山々だが、俺は仕事で行くし、シャルにも学業がある。俺は特待生として、学園に行かなくてもいいのだが、シャルは行かなくてはいけないので、無理に誘えないのが現状だ。
「ち、ちなみに、いつ頃いくのかしら?」
かしら?あまりシャルが使わないような言葉使いだな。シャルがお嬢様っぽい言葉遣いをするのはそこまで仲良くない人と話す時や、人を煽る時、緊張している時にこの言葉遣いになるよな。
「まだ決まっていない。さっき父上との話でその話題が上がっただけだ。どれくらいの人数で行くかも決まっていないし、いつ行くのかも決まっていない」
「そ、そうなのね。その……出来れば5ヶ月程出発は待ってくれない、かしら?」
「5ヶ月? なんでまた5ヶ月も」
「その……わ、私も連れて行って欲しいの! 外国に行ったらどうせまた何会えない日が続くし、寂しいのよ! それに5ヶ月後には私たちは初等部2年生になるのよ。その進級試験で高得点を出して学園側にリュートくんと同じレベルの特待生にしてもらうよう直談判しに行くわ! そうしたら一緒に行けるでしょ!?」
顔を赤くして、あたふたしながらヴォルを必死に撫でて落ち着こうとしているシャルを見て、俺の顔はニマァと、だらしない顔になっているだろう。そこまで考えてたんかぁ。かわいいやつだなぁ。
「わかった。5ヶ月だな。なんとかしよう。ただ、高得点と言う曖昧な点数じゃダメだ。明確な目標を立てよう」
国家のための仕事なのに、婚約者を連れていくために5ヶ月も待つなんてありえないと思うだろうが、これくらい普通なのだ。何人で行くのか、どれくらいの時間をかけるのか、予算はどれくらい? その予算案が可決され俺の元に来るまで5ヶ月はかからないにしても4ヶ月くらいは普通にかかるのだ。
「え、じゃ、じゃあ全教科9割……」
「全部満点だ」
「ま、満点……?」
「そう」
俺が受けた特待生の試験。あれは1年時から6年時まで学ぶ全てをテストしたのだ。だから範囲は広く浅くといった感じ。ただ1年時の学年末試験はその1年間学んだ全てをテストに出される。つまり範囲はちょい広めでちょい深め程度。
これくらい満点取らなければ特待生など無理。
「わ、わかったわ。それなら今から少しでも勉強を……」
「まぁ、待て」
立ち上がろうとしたシャルを止める。
「な、なによ」
「今からパーティーまでの数十分勉強したところで大して変わらん。今日だけは休め。勉強など明日から始めても遅くは無い。まだ5ヶ月も先だからな」
「そ、そうね。そうするわ」
と、一段落したところで、窓の外を見るとそろそろ暗くなりそうだった。身体強化で聴力を上げると、馬車の音、人の会話等が聞こえてきた。話の内容的に下級貴族が既にパーティー会場に会場入りする時間のようだ。
「もう下級貴族達が会場入りしている。とりあえず正装に着替えよう。正装は持っているか?」
「持ってるわ」
「そうか」
それだけ言って俺は部屋を出ようとした。シャルはここを使えと、暗に言っているのだ。
「どこに行くの?」
「着替えに行くんだ」
「ここで着替えればいいじゃない。時間の無駄よ」
実質的には俺よりも長生きしているシャルらしからぬ言動だが、まぁ7歳なら同じ部屋で着替えても平気なのか? シャルは特に気にした様子もなく言っているところを見ると、俺が他の部屋で着替えようとしていることに対し、本当に疑問に思っているようだった。
「そ、それもそうだな」
と、言うことで俺は異空間収納から、シャルは空間魔法が付与された袋から正装を取り出し、着替えた。
その後、そろそろ着替えた方がいいよ的なことを言いに来たクリアーダは大層驚いていた。
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