第142話 槍使い


 少し待っていれば、見慣れた道具を持ったヘンデュラーが戻ってきた。


 そして小さな皿を俺に差し出す。中には液体が入っていて、そこに俺の血を混ぜ、その液体で奴隷に模様を描けば、魔力で繋がり、俺の奴隷となる。


「ここに血を一滴お願い致します」


「ああ」


 右手の人差し指で右手の親指の腹を切り、血を出す。


 ヘンデュラーは見慣れたように、ディアナは懐かしむように、シャルは目を背け、今回の奴隷である青年は驚いたような顔でこちらを見る。


 みんなそれぞれ違う反応を見せる。


 謎の液体と俺の血をゆっくりと混ぜたヘンデュラーは皿と筆を持って青年の元へ向かう。


 そして胸の辺りに模様を書いているのを尻目に青年を鑑定する。


 ◇

 名前:カールハインツ・ロンベルク

 年齢:22

 種族:人族

 称号:騙されし者 殺人者 元・盗賊 奴隷 皇子の奴隷

 武術

  剣術 C

  槍術 B-

  弓術 D

  体術 C


 魔法

  火 F

  水 F

  風 F

  土 F

  光 F

  闇 F

  時 F

 空間 F

  氷 F

  雷 F

  無 C

 錬金 F


 生産

  錬金 D

  鍛治 D


 資質

  統率 B

  武勇 C+

  政治 C

  知略 C


 ◇


 魔法系は使いないか。使えるとしても身体強化とかだよな。

 そんでもって槍術はB-まで伸びてるのに槍王の称号とかはない。まぁ盗賊なんでみんな剣使ってるだろうしな。自分の才能に気づいて居ない口だ。


 レントからは全員剣を持っていたって聞いたし。


「お前、今まで槍とか使ったことはないのか?」


「いえ、今まで剣しか使ったことないです」


 まぁそうだろうな。


「将来の夢は?」


「子供の頃はかっこいい騎士に憧れていました」


 それが、今や盗賊落ちの奴隷。騎士に憧れた子供が盗賊になるなんて可哀想なものだな。


「そのために剣術を?」


「えぇ。騎士と言えば剣ですから。それにかっこいいですし」


 あぁ、なんとも短絡的な思考だ。もう少し頭を使えれば、盗賊になることもなかっただろうに。


「まぁ、民を武力で守るのに必要なのは剣だけでは無い。弓も槍も、己の拳さえも武器になる。今後は槍術を学べ」


「は、はい」


 そんなことを話しているとヘンデュラーの手が止まった。どうやら終わったらしい。


「出来ました。これで奴隷契約は完了です。料金の方は既に払っていらっしゃるということでよろしかったですか?」


「あぁ、既に鑑定士に支払っている」


「左様ですか。もうお帰りになられますか?」


「あぁ、そうだな」


 レントたちを迎えに行くって言ってそのままこっちに来たから父上とかは「なぜリュークハルトが居ないんだ」とか思ってそうだな。



 ◇


「遅かったな、リュークハルト」


「遅れてすいません。とういかレントから聞いてないですか? アイツがボコボコにした盗賊達を俺が奴隷商に連れてって、換金したんですよ」


「聞いていないな」


 まじか。そこは気ぃつかって報告するだろ。


「そうですか」


「それで? 購入した奴隷と言うのはここには連れてきていないのか?」


「えぇ、まあ」


 カールハインツは城の近くの空き家となっている屋敷に住まわせた。帰りに屋敷の売買を行っている業者の元へ行き、買ったのだ。


 どうせ、今後も奴隷を増やそうかなと思っていたし、城の部屋も空きがある訳でもないから、そいつら用の家を買う必要があるのだ。だからとりあえず空き家となっている屋敷を購入したというわけだ。


「その者を今後どうする予定だ?」


「はい、槍術の才能があるようでしたので、まずは槍術をやらせます。そこで才能が開花するようならば将来的にオーランド家の騎士団長でも任そうかなと」


「そこまで考えているのはいい事だ。それよりも第2魔法師団ツヴァイの人材の方はどうなのだ?」


 来た!


「丁度その話をしようと思っておりました」


「そうか。では話せ」


「はい、最近は忙しかったため、スカウトなどが出来なかったのですが、これより1ヶ月ほど休暇を頂きたいのです」


「たった1ヶ月で集まるものなのか?」


「はい、まずは帝都、周辺の都市、周辺の小国等も訪れ、片っ端から鑑定して、才能のある者を引き抜こうかと。ですので――」


「良い、国外へ行く許可なら出そう。それで集まるのだな?」


「はい対象が子供の場合はその子が育つまで待つ必要がありますが、帝都外で才能のある子供を見つけたら、その子の両親を説得し、帝都に招きます。もちろんその子が大きくなるまでその者らに給付金と称して生活費を渡します。そうすれば着いてくるでしょう」


「ふむ、悪くないな。それならまずは帝都から、か」


「はい」


「その後は他領を回るのではなく、西の魔道国家に行くといい」


 魔道国家。中小国のひとつ。大国程の力はないが、そこらの中小国よりかは力を持っている。なんでも、魔法使いの育成に力を入れているらしい。それもどの魔法使いも国産なんだそうだ。非凡な才能を持つ者が多いということだろう。魔道国家の上層部か目をつけられていない才能の者、か。まぁ、探すだけ探すか。


「わかりました。では以上でよろしいですか?」


「あぁ。今夜はパーティーだ。遅れるな」


「はい、心得ています」


 父上への報告も済んだことだし、一旦部屋に戻って、ゆっくりしてからパーティーに行こうかなと考えながら部屋に向かうのだった。

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