第141話 正妻の貫禄
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盗賊達の査定が終わり、価値が付いたとのことで鑑定士の方が俺たちのいる応接間に入ってきた
「結構早かったですね」
「盗賊の相場は決まっておりますし、傷もなく状態もよろしかったので、おかげで時間をかけずに終えられました」
それならわざわざ傷を治してやった甲斐もあったか。
「それじゃあ内訳を聞いてもいいか?」
「はい。殿下がお持ちになった商品は丁度60名。1人あたり2.8万バーツですので、端数は繰り上げで3万バーツで計算致しました。さ万バーツが60名で、180万バーツとなります」
「結構な額だな」
「状態が大変よろしかったので」
1バーツあたり日本円で1円くらいだ。1人3万バーツだから銀貨3枚で3万円程度。人ひとり分の価値にしては随分低い。だが、犯罪奴隷にしては高い方だ。
実力者が小遣い稼ぎに盗賊狩りをするのも頷ける。
ぽん、と、金貨1枚と銀貨が80枚入った麻袋を鑑定士の男が机の上に置く。
金の管理はオーナーであるヘンデュラーがしているわけではないらしい。相当信頼を置いているんだな。
俺は置かれた麻袋のそこから包むようにして持つ。そして魔力を流して硬貨の数を数える。
うん、銀貨80枚あるし、1番上に金貨が1枚と、銀貨に紛れてもう1枚ある。つまり金貨が2枚ある。……2枚?
「うん、丁度あるみたいだな」
俺はヘンデュラーの顔を見てにやりと笑う。
「開けて確認しなくてもわかる魔法ですか。便利ですなぁ」
ヘンデュラーはそれに応えるように笑う。
やっぱりだ。こうやって査定額より多めに金を入れることで今後ともよろしくお願いします的な意味になるのだろう。
ちゃんとヘンデュラーの意思を汲んで金貨をもう1枚入れた鑑定士もその辺をちゃんとわかっているらしい。
これで、これから奴隷を買う時も売る時もここで買うことになりそうだ。
「でしょ? 結構重宝してます。あぁ、あと鑑定士さん、ひとつお願いがあるんすけど良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと盗賊たちに聞きたいことがあるので、少し話す時間が欲しくてですね」
「……、えぇ構いませんよ。案内致します」
俺がお願いをするとヘンデュラーと目を合わせ、ヘンデュラーが頷いたのを確認して許可を出した。
その辺の判断を自分でやるよではなく、ちゃんと上司に確認を取るあたり、相当優秀そうだ。判断が良い。
そして鑑定士の方に案内された場所は牢屋だった。
聞くと、ストレスがたまらないように、普通の奴隷は各々が与えられた部屋を使い、好きに生活できるのだが、犯罪奴隷はそんなんお構い無しに適当な牢屋にぶち込められる。
刑事ドラマでよく見るような1人ようサイズの牢屋に10人ほど詰め込められており、普通に窮屈そうだった。
もしひとりだけならかなりくつろげるような広さだけに10人くらいは入るのだが、多分全員で足を伸ばして寝ることはできないだろう。可哀想に。
「そこのお前、こっちにこい」
そして、目の前の牢にいて、1番手前にいたやつを呼ぶ。
「……チッ」
見た目は20代後半。まだまだ人生の半分も生きていないだろうに盗賊になるなんて哀れな奴だな。
「お前らのボスはどうした? ここにはいないよな?」
「答えたら~、釈放してくれんですか~?」
嘲笑うように、バカにするように返事をする囚人A(仮)。
「ふむ、まぁ考えなくもないが、お前に聞く気は失せた。大事なチャンスを逃したな」
「なっ、わ、分かった! 喋る! 全部喋るから! 俺に聞け!」
後ろで何か騒いでいるが、構わず鑑定をし、お目当ての賊の元へ行くため1番奥の牢に行く。
「ちょっといいか?」
次はかっこいい見た目の兄ちゃん。鑑定したところ20代前半だった。まぁ盗賊なんてこれくらいの年齢層が多いよな。20代前半~30代前半が多いって聞くし。
「……」
その兄ちゃんは無言でこちらを見て、少しずつ歩み寄ってくる。
「今回はお前に聞く。お前らのボスはどうした? 小さい声げ答えろ」
「……殺した」
「ククッ、そうか。上等だ」
それだけ言ってかっこいい見た目の兄ちゃんのいる牢からいちばん離れた牢へ向かう。
「今回はここにいる10人に問う。お前らのボスはどうした? 《正直に、同時に答えろ》」
「「「リンチしました」」」
言魂によって正直に答えざるを得ない10人は正直に答えた。
「そうか。鑑定士さん、あの見た目の良い青年を買い取りたい」
「か、買い取り……ですか?」
「あぁ。買い取り、だ」
おそらく今なら、やっぱり売るの無しにするとか出来そうだけど、そんな事してると次から買い取ってくれなくなりそうだから、俺が買う。
「
先程多めに入れられていた金貨1枚を出す。
「た、足ります」
「じゃああいつを俺の奴隷にする。ヘンデュラーにも話を通してくれ」
「は、はい」
それだけ言って応接間に戻ってきた俺はディアナに問い詰められていた。
「どういうことッスか!? 奴らは盗賊ッスよ!? なんで殿下が低俗な賊なんて買うんスか!!」
どういう訳か俺があの青年を買うことにしたことを知っているらしい。耳が良いんだな。
「盗賊ってのはなりたくてなったやつとやむを得ない理由があってなった者がいる。今回は半々……いや、6割のものがやむを得ない理由で賊になっていたな」
「なっ!! だからってやってることは同じッス!」
「あぁ、同じだな」
俺は、さも当然のように肯定する。
「じゃあなんで……!」
「才能だ。あいつには槍を扱う才能があった。将来的にはオーランド家の騎士団長にするのもありだな、とも思っている」
辺境伯家、侯爵家、公爵家は個人的に騎士団を所有することを許可されている。伯爵以下の貴族は自警団という、100人規模の武装集団しか所有できない。辺境伯家になったオーランド家は騎士団を所有することを許可されている。
今はまだ自領はないが、拝領すれば騎士団を作ることになる。その時、トップの人間には人徳等ももちろんだが、実力が求められる。
拝領するまで、おそらくあと数年しかないのだから才能のあるやつを育てる方が手っ取り早い。
「なっ……! シャーロット様からも何か言ってくださいッス!」
「リュートくんのことだし、何か考えがあるのでしょう? 武芸に精通していない私は何も言うことは無いわ」
そう言ってシャルは優雅に紅茶を飲む。
「そういうことだ。ここは俺を信用してくれないか?」
「は、はいっス。ごめんなさいっス」
しょぼんとしたディアナの頭を撫でれば、耳がぴくぴくと動き、しっぽも揺れる。
……こいつ虎獣人だよな? ネコ科のはずだよな。こりゃ、猫ってか犬だな。
「さ、リュートくんもディアナちゃんも座ってちょうだい。私は静かに紅茶を飲みたいの。それにこれから、その人と奴隷契約するんでしょ? ヘンデュラーさんが準備してくれるまでゆっくりしましょ」
「お、おう。そうだな」
「はいっス」
シャルに促された俺らは静かに椅子に腰掛けた。
それにしてもシャル、落ち着いてるな。これが正妻の力ってやつか? そうなのか?
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